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爆撃

 ACU2312 3/15 帝都ブルグンテン 総統官邸


 爆撃機の威力を検分したヒンケル総統やカイテル参謀総長は、その使い道を議論すべく総統官邸に戻った。


「――それではまず、戦局打開の手段として爆撃を用いることそのものについてだが、反対する者はいるか?」


 ヒンケル総統は諸将に尋ねた。これは全会一致とはいかず、全体のおおよそ4分の1が難色を示したが、賛成多数ということで方針は可決された。


「その上でだが、ザウケル労働大臣――いや、今はクリスティーナ所長の方がよいか」

「え、はい?」


 ヒンケル総統は白衣を纏った金髪碧眼の女性に話しかける。帝国第二造兵廠が所長、クリスティーナ所長である。


 ライラ所長の率いる帝国第一造兵廠は研究開発が主な任務であり、その生産を実際に担当するのは他の帝国造兵廠である。そしてその中で最大であり、他の造兵廠を統括するのが帝国第二造兵廠だ。


 ちなみに帝国の軍需産業はことごとく国営であり、兵器の生産を行う民営企業は存在しない。


「率直に言って、爆撃機の量産は可能か?」

「そうですね……まあ当然ですが、量産と言っても、どれほど量産するかによります」

「ほう?」

「つまりは、どれくらいご入用か決めてもらわないと、こっちとしても判断しかねるということです」

「確かに……その通りだな」

「因みに、今の戦車くらいの数が必要なのでしたら、無理です、諦めて下さい」

「お、おう、分かった」


 クリスティーナ所長の言い分はもっともなことだ。爆撃機が果たしてどれくらい必要なのか、飛行機の一つも運用したことのないゲルマニアにはまるで分からない。


「そこのところは、シグルズ、どう思う?」

「はい。敵の都市を完全に破壊する必要もないでしょうから、比較的少数で済むかと。おおよそ30機はあれば十分ですね」

「ふむ……爆撃の目的は敵を恐怖させ抗戦の意思を削ぐこと、だったな」

「はい。その通りです」


 ダキア全土を火の海にしてもいいことはない。敵味方共に出来るだけ最小限の損害で勝利を掴むべきである。


「と言うことだが、30ならどうだ、クリスティーナ所長?」

「30でもなかなか厳しいものがありますね。ですが、まあ不可能ではありません。時間はかかりますが」

「どれくらいかかる?」

「かなり大雑把な予想ですが、30機を完成させるまでには半年はかかるかと。既存の工場は既にほとんどが戦車、装甲車、小銃、弾薬の生産に割り振っていますので」

「そうか……半年も待たねばならんか……」

「それは……厳しいですね……」


 戦争をさっさと終結させる手段として爆撃を採用しても、半年待たねばならないのでは意味がない。本末転倒である。帝国の生産能力はそろそろ限界を迎えつつあった。


「ふむ……となれば、この計画は一度取り下げ、他の打開策を考えるしかないのか……どう思う、シグルズ?」

「……苦肉の策ではありますが、最悪の場合、一機だけでも動けば意味はあります」

「何?」

「ザイス=インクヴァルト司令官の仰るように、ダキアに恐怖を与えて屈服させるという方針は完全に正しいと確信しています。ですから、ただの一機であっても、我々にダキアのあらゆる都市を破壊出来る能力があると示せれば、それで十分かと」

「なるほど。確かに、ハーケンブルク城を壊したあの一件でも、我々を恐怖させるには十分だったな」


 実際のところはたったの一機では効率が悪過ぎる。逃げることも都市の修復も容易であろう。


 だが、魔法でも手の届かない遥か上空から攻撃されるということだけでも、ダキア人に降伏を選ばせるに足りる筈だ。


「ならば、あの試作機を実戦に投入するのか?」

「それは流石に無理かな……」


 ライラ所長は暗い声で言った。


「あれをダキアの空に飛ばしても何の問題もないと見えたが」

「うーん……まあ、もうちょっと改良すればって話だよ。耐寒装備もまだつけてないし、前回の試験でも色々と問題が見つかったからね」

「その改良にはどれほどの時間がかかる?」

「大体、2週間くらいかな。春になればもう少しダキアの気温もマシになるだろうし」


 これからは夏に向かってどんどん気温が上がっていく時期だ。それに、戦車や装甲車を運用した経験から、耐寒装備の研究も進んでいる。


「それならまだ許容出来るな。シグルズ、問題はないか?」

「はい。寧ろ、ライラ所長が試作機を投入することに前向きであることに驚きました」

「いやー、めちゃめちゃ後ろ向きなんだけどな……」


 未完成品を見せたくないという精神は健在だった。だがヒンケル総統に頼まれてはライラ所長も断れなかった。


「ああ、故障する可能性も否定出来ないけど、大丈夫?」

「敵に我々の手の内を知られる可能性があると?」

「そういうこと」


 占領が済んでいない敵地で活動することが主となる。万が一にでも墜落すれば爆撃機は確実にダキアに鹵獲されるだろう。


「それについては、問題ないでしょう」


 ローゼンベルク司令官は言う。


「何故だ?」

「ダキア軍はこれまで多くの戦車や装甲車を鹵獲しておりますが、我々の技術を模倣することも、有効な兵器を開発することも出来ていません」

「それもそうか。では、各自、計画を進めてくれ」


 失敗したとしても大した損害もない。爆撃作戦は開始された。

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