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 ACU2312 3/6 神聖ゲルマニア帝国 グンテルブルク王国 帝都ブルグンテン 総統官邸


「さて、今回の作戦の結果を報告してくれたまえ。成功か、失敗か?」

「……はっ。我が軍は、今回の作戦に、失敗致しました」


 ローゼンベルク司令官は沈痛な面持ちでヒンケル総統に報告した。


 対外的にはキーイを制圧したことで作戦は成功したと喧伝しているが、降伏勧告はダキアに相手にもされず、本来の目的を果たすことは完全に失敗した。


「分かった。それでは、次にどうすればよいのか考えよう」

「閣下、今回の作戦に関わった者に処分などはされないのですか?」


 カルテンブルンナー全国指導者は言った。作戦に失敗した責を問うべきだと言うのである。


「馬鹿を言うな。全ての作戦が成功する筈がない。そんなことで処分などはしない」

「私は関係者を処刑せよと言っているのではありません。より有能な人材を東部方面軍総司令官にしてはいかがかと申し上げているのです」

「私が言うのもなんですが、カルテンブルンナー全国指導者の言葉にも一理あるかと」


 ローゼンベルク司令官は抗議するどころかカルテンブルンナー全国指導者を肯定した。これほどに戦争が泥沼化している責任は彼にあるというのは事実だ。


「……だが、今ここで総司令官を挿げ替えて、よいことがあるか? 指揮系統に混乱をもたらすだけではないか?」

「ゲルマニア軍は例え司令官が戦死しようとすぐに指揮系統を回復出来るように準備している筈では?」

「確かに、その通りだ」


 カイテル参謀総長は応えた。そこに誰がいるかに拘らずあらゆる命令が上意下達されるよう、ゲルマニア軍の指揮系統は整備されている。


「だが……この事態を予測出来た者は誰もいなかったのだ。ローゼンベルク司令官に責任を問うことは出来ない」

「ですが――」

「これは総統命令だ。従わないのならば、君の親衛隊全国指導者の任から解くぞ」

「これはこれは……承知致しました。これよりは、親衛隊は口出しは致しません」


 ローゼンベルク司令官及び東部方面軍のあらゆる指揮官には、一切の咎めはないことと決定された。


「――では本題だ。どうすればダキアを降伏させられる? どうすれば、この泥沼から抜け出せる?」

「それでは、僕からご提案を」

「何だね、シグルズ?」

「僕はこの戦局を打開する策として、航空機による爆撃を提案します」

「航空機とは……あれか。空を飛ぶ機械か」

「はい。ライラ所長に開発して頂いているものです」


 実際のところ、まだ完成はしていない。試作品を作って試験を繰り返しているところだ。


「それで、爆撃とは?」

「敵領の上空まで飛行し、空から爆弾を落とすことです」

「なるほど……では、それはコホルス級の魔女を擁して敵の都市を攻撃することと何が違うのだ?」


 この世界では有史以前から人は空を飛ぶことが出来る。魔法の力で敵の前線を飛び越え後方に攻撃を加えるのは常套手段だ。


「主に違うのは3点です。高度、距離、速度です」

「ふむ」

「最も大きいのは高度です。航空機は理論上、上空2キロパッスス程度まで上がることが出来ます。その高度まで上がれば、敵は触れることすら適いません」

「そんなに、か……」


 これが最も単純で、最も効果的な点である。敵は何の反撃も出来ず一方的に蹂躙されるのだ。


「次いで距離です。魔女が単独で到達できないような距離にまで、航空機は飛ぶことが出来ます。これも理論上ですが、基地から半径500キロパッススほどが航空機の活動可能範囲となります」


 行って帰って来られる距離ということである。


 魔女は空を飛べるが、それはエスペラニウムを使い切るまでのこと。攻撃などに魔法を使っていては魔法などすぐに使い切り、精々半径10キロパッスス程度が航続距離だ。


 それと比べれば圧倒的に遠くを攻撃することが出来る。


「そして最後は速度です。まあこちらはあまり重要ではありませんが、万が一に敵が迎撃を試みた場合でも、航空機の圧倒的な速度に照準を合わせることは不可能です。時速は最低でも200キロパッススほどになるかと」

「なんと……5時間程度でゲルマニアを横断出来るじゃないか」

「はい。その通りです。これで、航空機のいかに革新的な兵器か、お分かりいただけたかと思います」


 魔法を使わず空を飛ぶ手段と言ったら熱気球くらいしかないこの世界。いきなりこんな異次元の代物を提示されれば、誰でも衝撃を受けるだろう。


「うむ……」


 ところが、反応はあまり芳しいものではなかった。


「本当か? そんなものが本当に存在するのか?」


 ヒンケル総統ですらシグルズの言葉を疑っていた。航空機というものについて、まだ誰も信じられないという風であった。まあ実際、まだ存在はしていないのだから、無理もない。


 まずはそこから始めなければならないようだ。


「無論、製作することは可能です。我々にとって戦車を超える兵器となるでしょう」


 22世紀の地球生まれのシグルズから見ると、先程までに示した性能は下の下だ。とても実用に耐えない。だからこの程度のものなら作れると確信している。

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