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大攻勢の結果

 ACU2312 2/25 ダキア大公国 キーイ


 B軍集団はキーイに司令部を移し、周辺の都市や要塞の攻略を進めていった。こちらはどの城塞でも大した反撃はなく、まさに電光石火といった勢いで占領地域を拡大していた。


 とは言え、そんな快進撃がいつまでも続く訳ではない。


「閣下、第2軍の補給が滞っているようです。これ以上の侵攻は不可能かと」


 ヴェッセル幕僚長はオステルマン師団長に報告した。


 ダキアというのは無駄に広い土地を持っている癖に鉄道は一本も存在せず、道は狭く整備も大してされていない、一言で言えば不毛の土地である。


 国家として経済を発達させるには不利なこと極まりないが、戦争の際には役に立つ。大量の物資を常に必要とするゲルマニア軍が奥地へと攻め込めないのである。


 まあ時間を掛けて道を整備していけばいい話ではあるが、それでも十分過ぎる足止めだ。


「そうか。分かった。これ以上北に攻め込むのは辞めだ。国境地帯の掃討に当たらせろ」

「はい。承知致しました」


 これ以上奥地に攻め込めば補給が持たないし、あまりの寒さに戦車も動かなくなる。


 B軍集団としてはここらが潮時と言ったところだろう。当初の目標は十分に達成されたと言える。


「――しかし……A軍集団の調子はどうなんだ?」

「はっ。それが……ローゼンベルク司令官閣下のA軍集団は、敵の激しい抵抗に遭い、国境地帯を突破出来ていないようです」

「まだか……これはシグルズの予想が正しかったようだな」

「はい。敵はほとんど全戦力を西に集中させていたようです」


 B軍集団があまりにも簡単に前線を押し上げられた理由。それは単純で、敵が本当にいなかったからである。


 そしてその敵がどこに行ったのかと言えば、A軍集団の前に立ち塞がっていたのである。


 兵士こそ多いが、向こうには戦車部隊も少なく、魔導兵が本気で籠城すれば攻め落とすのは困難であろう。いや、実際にそうなのだ。


「こっちから増援を送るのは厳しいか」

「はい。占領地の維持にも人手は必要ですので、暫くは……」

「その暫くが過ぎた頃には作戦は終わっている」

「その通りですね……」


 なまじ快進撃を続け過ぎたせいで、オステルマン師団長は逆に身動きが取りにくくなっていた。


「分かった。となると、作戦は失敗かもな」

「……そうかもしれません。キーイを落とされたことで敵が降伏に傾くとも思えませんし」

「最初から捨てる気だったようだからな」


 つまるところB軍集団は囮にまんまと引っかかった訳である。囮をいくら落としたところでダキアには何の影響もないだろう。


 そして彼らが本気で守ろうとしている戦線は、全くもって突破出来ていない。


 これではダキアを畏怖させ降伏させるという戦略は完全に失敗と言わざるを得ない。


「しかし、奴らは何で特に何もない北に兵を集中させてたんだ?」

「それは……何故でしょう……」

「あの辺りに目ぼしい都市はないよな?」

「はい。大した拠点はない不毛の土地です」

「む……」


 守るならキーイを守るべきだ。だが敵はキーイには目もくれず、全力で何もない北を守っていた。この意図はオステルマン師団長にも読みかねる。


「論理的に考えれば、そこに守るべき何かがあったというところでしょう。問題はその何かが全く見当たらないことです」

「そうだな……さっぱり分からん」


 結局、ダキア軍がどうして兵を奇妙に配置していたのかは不明なままであった。


「しかし分かったこともあります」

「何だ?」

「ダキア軍は戦線の一部に兵を張り付けることしか出来ないということです。レギーナ方面で被った損害は、まだ回復出来ていないようです」

「ああ、まあ確かにな」


 当然のことだが、やれるのならば全ての拠点を守るべきである。それをしないということは、出来ないということだ。ダキアの兵力は確実に減少している。


 まあ、だからと言ってこの戦争がどうにかなる訳ではないのだが。


 ○


 ACU2312 2/28 ダキア大公国 キーイ


「何? 帝国政府が勝利宣言だって?」

「はい。『今回の攻勢でゲルマニア軍は敵国の首都であるきキーイを陥落せしめ、大攻勢は成功した』らしいです」


 ヴェッセル幕僚長はそんな情報を持ってきた。近日中にこの内容が内外に広く発表されるらしい。


「成功って……何を言ってるんだ奴らは?」

「まあ、別に作戦目標は公表していることではありませんから、何とでも言えるでしょう。最初からキーイ攻略が目的だったと言えば、問題はありません」

「いや、まあ、そうか……だったら、何でそんな発表を?」


 戦況は毎週くらいの頻度で報道されているが、そのどれもが淡白なもので、このような宣伝は稀なことだ。


「まあ……せめてキーイを取ったということだけでも誇示しておきたいのではないでしょうか?」

「そういうものか……反対はしないが……」


 実際のところ、ゲルマニア軍は何の成果も得られなかったようなものである。成果と言えばルターヴァ辺境伯の身くらいだ。


 だからせめて、友軍を奮い立たせて敵軍の士気を落とす材料が欲しいのだろう。

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