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ダキアとガラティア

 ACU2312 1/17 ダキア大公国 対ガラティア国境付近


 ダキアとガラティアは僅かに国境を接している。僅かとは言え隣国だ。つまるところは、外交が存在しない筈がない。


 そして隣国同士は仲が悪いという世界史の原則通りにダキアとガラティアの仲は昔から険悪なものであるが、近頃は変化が起きつつあった。


「ジハード殿、こちらが本日輸送する分の鹵獲品です」


 ダキアからの使者――と言う身分でもないが――親衛隊長ホルムガルド公アレクセイは、大量の機関銃や小銃や迫撃砲、またその弾薬を馬車に満載して運んで来た。


「ああ。検分させてもらおう」


 ガラティア不死隊長、白布で顔を隠した少女ジハードは、ガラティア側からの使者である。


「問題はない。毎度ご苦労さま、だ」

「はっ。ありがとうございます」


 ダキアが運び込んで来たのは、いずれもゲルマニア軍が戦地に落としてきた兵器。ゲルマニアと直接の取引を行うまでもなく、ガラティアは大量の兵器を所有しているのである。


 まあ鹵獲品で部隊を構成するなど非常時くらいしかやらない愚行であるから、その目的はやはり研究である。


「それで、そちらの見返りはちゃんとご用意が?」

「無論だ。そちらも検分するがいい」

「はい」


 ジハードもまた物資を満載した馬車を引き連れて来ている。


「これほどのエスペラニウムを頂けるとは……感激に堪えません」


 ジハードの支払うものはエスペラニウムである。ガラティアは戦争をしないせいでエスペラニウムをあまり散らかしており、倉庫に眠らせておくよりは交易に使った方が余程よい。


「ダキアがヴェステンラントの傀儡になるのは、我らとしても好ましくないからな」

「……我が国をご案じ下さり、恐悦至極です」

「言葉が毎度大袈裟だな」


 本土を半分失っているしそもそも大してエスペラニウムが採掘出来ないダキアは、その供給を他国に依存している。その依存先はこれまでヴェステンラント一択であった。


 だが隣国が世界最強の軍国主義国家の基地にされるのは避けたい。そこでアリスカンダルが密かに不死隊に命じたのが、ダキアを物資面で支援することであった。


 不死隊は帝国の中でもかなり優遇されており、物資の流れに多少不明瞭な点があっても大抵は黙認される。


「我らもなかなか微妙な立場にいるのだ。くれぐれもゲルマニアにはバレないようにしてくれ」

「無論です」


 別にゲルマニアと同盟を結んでいる訳ではないが、それなりに友好的な関係は保っておきたい。ガラティアの立ち位置は微妙なところにあった。


「しかしジハード殿は、いえガラティアは、我々がどうなるのが望みなのですか?」

「そんな無粋なことを聞くか?」

「私達の間に建前などないでしょう。たまには本音を聞かせてはもらえませんか?」

「――何が聞きたい?」


 これは非公式な取引。ここでの会話は政治的に何の意味も持たない。何を言おうがただの戯言だ。


「ガラティアとしてはヴェステンラントの影響力がエウロパに及ぶのは避けたいはず。そうですよね?」

「ああ。あの野蛮人共には新大陸で引きこもっていてもらいたいところだな」

「であれば、ヴェステンラントに対する最大の防波堤であるゲルマニアを害するようなことを、どうしてされるのですか?」


 正直言ってダキアがヴェステンラントの傀儡になることは、避けられることなら避けたいが、最悪の場合許容出来る。


 だがゲルマニアがヴェステンラントに制圧されるのは何としてでも避けねばならない。それはあまりにも巨大な問題だ。


「聞かない方がいいぞ」

「大体の答えは予想出来ています。答え合わせのつもりで、答えてはもらえませんか?」

「……いいだろう。貴殿がそこまで聞きたいと言うのなら。我々は、ダキアがゲルマニアに打撃を与えることは最早不可能だと考えている。故に、エスペラニウムを支援したところでゲルマニアには何の影響もないだろう、ともな」

「なかなか辛辣な。しかし、我々もそうは思っていますよ。我々としてはヴェステンラントにゲルマニアを滅ぼしてもらいたいところですが」


 エスペラニウムをもらったところで、ダキアに反攻に転ずる余力はない。そのお陰で辛うじて命脈を保っていられるというだけなのだ。


「ですが、であれば尚更、何故に我々に支援を?」

「我々としては、ダキアが完全に滅ぼされるのも困る。故に存続だけはしていてもらいたい」

「ほう」


 どこかの国が強くなり過ぎるのは好ましい事態ではない。


「そして、存続するのであれば、ダキアがヴェステンラントの傀儡でない方が望ましい。特別なことは何もないだろう?」

「確かに。いやはや誠に、エウロパ情勢複雑怪奇といったところですね」

「何も怪奇などではない。誰もが自分の利益を求めているだけだろう」

「――その通りですね。もっとも、ジハード殿のような割り切って考えられる人間も少数ですが」

「貴殿も同類だろう」

「さあ、どうでしょう」


 ガラティアにとって重要なのは、戦争が終わった後の世界の姿だ。世界は出来るだけ変わらない方が望ましい。


 故にガラティアは強きを挫き弱きを助けるのである。

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