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ヒンケル総統

 ACU2308 3/19 帝都ブルグンテン 総統官邸


「ではシグルズ、君の銃を見せてくれ」


 と、のたまうのは、何を隠そう、この国の最高指導者――アウグスト・ヒンケル総統である。


「は、はい、ただいま……」


 ライラ王女様の力はマジだった。シグルズ気づいたら総統官邸で総統や参謀総長やその他高官に囲まれていた。


 因みにオステルマン師団長も何故かいる。


 ――これが王族……いや今はこの場に集中しろ。


 まずは3回目となる新型小銃のご紹介。


 室内ということで、自分の魔法で鋼鉄の盾を用意し、それに向かって何発か連射して説明した。魔法のイカサマが疑われないよう、他の何人かにも試してもらう。


 シグルズの予定ではここで拍手喝采となる筈だったのだが、反応は今ひとつ。


 真っ先に文句を言ったのは、参謀本部のご老人――カイテル参謀総長であった。


「総統閣下、今更小銃を更新するなど正気の沙汰ではありません。既存の兵器で十分に対応出来る以上、余計なことをする必要はありませんぞ」

「それも確かに、一理あるな」

「その通りです。大体、柏葉付騎士鉄十字章の持ち主だからと言って、こんな若造の具申をバカ正直に認めるなど――」

「お言葉ですが、閣下」


 明らさまに不機嫌そうな声音で口を挟んだのは、シグルズの上官、オステルマン師団長であった。


 ――自分の部下を守ってくれるのかあ。いい人だ。


 シグルズは、いい上司に巡り会えたのかもしれないと、少しばかり感動していた。師団長への評価(そんなことを言える立場でもないが)は一気に好転している。


「何だ?」

「シグルズは、どうしてかは知りませんが、多様な技術について深い知見を持っています。彼は決して単なる魔導士ではなく、発明家のような才能を持っているのは私にも分かります」

「そ、それはそうかもしれんが……」

「もういい。カイテル参謀総長。私は決めた。これより帝国の制式小銃を、シグルズの案を原型としたものに変更する」

「なっ、他の方面軍司令官の話も聞かず、お決めになってよいのですか? それは、とても正気の沙汰と――」

「うるさい! 黙れ!」


 凄まじい迫力、怒気。誰もが息を呑み、静寂が訪れる。あの参謀総長も気圧されて黙り込んでいた。


 これは権力の問題ではなく、総統個人の資質なのだろう。


 彼は大きく息を吸うと、説教のように続けた。


「いいか。私は総統だ。私の命令は絶対である。私に逆らうことは許されない。私が命じたのだから、お前たちはそれを実行するだけでいい。分かったか?」

「は、はい。承知しました」


 参謀総長は嫌々ながらとぃった感じに。 だが承知したという事実に変わりはない。


「ザウケル所長に生産計画を立てるよう伝達します」

「頼んだ。では、一度休憩としよう」


 特に名称のない総統御前会議は、一旦解散となった。


 かくして、シグルズは未来の技術を一つ、ゲルマニアに伝えることに成功した。


 もっとも、まだ小銃だけだ。まだまだこんなものではない。より強い兵器を、ライラ所長にはどんどん実用化してもらわねばならない。


 次は機関銃で、その次は自動車。


 その次は何だろうか。まあそれは、実戦で必要なものを見極めていけば自ずと分かることだろう。


 そうしていずれ、ヴェステンラントを完全に上回る軍隊を作り出す。そして最後には魔法をこの世界から消し去るのだ。


 ○


「シグルズ、まあ、座れ」


 また総統閣下。だが今度は、総統の執務室に1人だけ呼び出された。総統と一対一の体面である。


 もし何かやらかしたら消される訳だが。


「はっ。失礼します」

「うむ」


 ヒンケル総統とシグルズは今、背の低い机を挟んで向かい合わせに座っている。これはなかなか緊張するではないか。


「君を呼び出したのは、君の話を聞きたいからだ」

「と、言いますと……?」

「君は何を見ているのだ? 君は一体、何を目指している?」

「と仰いますと……」


 何を言っているのか分からない。それが率直な感想であった。


 故に答えようがない。


「君は、単に新しい兵器を開発したのを自慢するだけに来たとは思えない。何か目的というか、信念があるように思える。それは何だ?」

「そういうことですか……」


 魔法を消し去るという最終目標。それは、この世界の人間から見たらバカらしく思えるだろう。


 だが、総統ならば理解してくれる。そんな気がした。


「僕は、この世界から魔法を消し去りたいんです。それが、見ているもの、目指しているものです」

「面白いことを言う。理由はあえて問わない。だが、それは世界を敵に回すことだと分かっているのか?」

「――恐らくは」


 ヴェステンラントが最大の敵であるのは間違いないが、潜在的にはこの世界の殆どが敵となり得る。


 寧ろ、味方になってくれそうなのはエウロパの一部の国だけだろう。


 残り全て。


 ガラティア、大八洲、ダキア、ヌミディア――つまりアフリカの国々などは、いつかシグルズの敵となるだろう。


 魔法を消し去るとはそういうことだ。逆らう全ての勢力を叩いて潰さねばならない。


「そうか。気に入ったぞ。その馬鹿らしいほどに遠大な夢」

「え? 本当ですか?」


 総統の正気を疑った。しかしその目は真っ直ぐとシグルズを見つめていた。


「本当だとも。そして私たちは、少なくとも今は、完全に目的を同じにしている。我らに弓引く者を殲滅するというな」

「そ、そうなのですか」

「だから、君には今後とも我が祖国の為に働いてもらいたい。頼むぞ」


 手を差し出してきた。シグルズはそれを戸惑いながらも握った。


「勝利万歳」

「しょ、勝利万歳」

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