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ベルディデナ決戦Ⅲ

「ど、どうされますか!?」

「どうしたものか……」


 レギーナ軍の砲撃が親衛隊を襲う。砲撃と言うよりは、砲弾を投げおろしているよなものだったが。


 作業に出ていた工兵隊は次々と吹き飛ばされ、奥の歩兵の陣形も乱れていく。


「閣下!」

「歩兵は退かせろ。機甲大隊はこの場で敵の重砲を破壊しろ」

「ほ、歩兵だけで退かせるのですか!?」

「何か異論でも?」


 カルテンブルンナー全国指導者は、腰の拳銃をちらつかせる。


「……分かりました。直ちに歩兵は撤退させます」

「よろしい」


 戦車や装甲車もなく、歩兵を裸で撤退させるのだ。当然、重砲から見れば彼らは虫のようなもの。ただの動く的だ。


 重砲の爆風を防ぐ障害物は何もなく、見るも無残に彼らは薙ぎ払われた。だがカルテンブルンナー全国指導者は一向に気にしていないようであった。


「君もなかなか酷いことをするね~」

「この状況は敵の重砲を殲滅する唯一の好機です。これを逃すわけにはいきません」

「へー。だったら歩兵を引かせる必要はなかったんじゃない?」

「この空堀には、既に敵の重砲が照準を合わせているでしょう。ここにいては殲滅されるだけです」

「そう……なるほどね。まあ、なんでもいいけど」


 カルテンブルンナー全国指導者なりに最も死者が少なくなる方法を選んだという訳だ。まあ人には理解されないだろうが。


「ところで、空から飛んでくる飛行魔導士隊はどうする?」

「対空機関砲がありますが……ダキア人は対空機関砲に慣れておりますからね……。我々にも魔女が必要です。そう……ここに丁度お一人……」

「ああ、気づいちゃった?」


 ライラ所長は実は結構強い魔女である。


「お願いできますでしょうか?」

「大丈夫だよー。じゃあ行ってくるね」


 ライラ所長は装甲車のハッチを開けると、慣れた動きで外に出た。そして漆黒の翼で飛び立った。


 ○


 装甲車の装甲は戦車のそれと比べれば遥かに薄いが、魔導弩を前提とした装甲ではある。よって、レギーナの持つ貧弱な火力でその装甲を貫くことは不可能だ。


 徹甲弾があればまだ別だったかもしれないが、彼らにそんな最新兵器はない。


 砲撃戦は親衛隊に圧倒的な分があり、城壁の上に並べられた重砲は次々と破壊されていった。


 そんな中、ライラ所長は砲弾の嵐の上を悠々と飛行していた。その恰好からして、御伽噺の魔女が世界を間違えたかのようだ。


 そしてダキアの誇る飛行魔導士隊もまた同じ場所に飛んできた。


「ああ、また会ったね、みんな」

「あなたは……」


 ライラ所長とエカチェリーナ隊長は睨み合った。飛行魔導士隊とライラ所長は装甲列車でダキア領を突っ切る無茶な作戦で鉢合わせたことがある。


 その時は勝負という勝負がつくことはなかったが、今回は雌雄を決することも出来るかもしれない。


「相変わらずふざけた格好をして……」

「君が言う?」


 ライラ所長は言うまでもないが、エカチェリーナ隊長の修道女のような恰好も割とふざけている。どっちもどっちだ。


「あなたの噂は聞きました。ヴィークラント王国の第三王女、ライラ・エーファ・フォン・ヴィークラント公爵。大公でないのは帝国内の諸邦への遠慮ですか?」

「え、ああ、そうだよ。だからやけにかしこまってるんだね」

「はい。高貴な方には、例え敵国の方であろうと敬意を払います」

「だったら帰ってくれるかな? 戦うのは面倒なんだけど……」


 ライラ所長はあくびをしながら言った。だがエカチェリーナ隊長にその気はない。


「……しかし、その為に我々が退くことはありません」

「ええ……」

「まあ、貴族を斬首する時でも敬意を払って遇するようなものです。ですので、あなたにはここで死んでもらいます」


 エカチェリーナ隊長は躊躇なく銃を構えた。旧式の銃であるが、彼女はそれをゲルマニアの拳銃のごとく連発することが出来る。しかも装填など行わずに。


「へー。それがシグルズの言ってた銃か……本当に普通の銃なんだね」

「あなたは……」

「あ、ごめんごめん。じゃあ、殺し合いをしよう」

「っ!?」


 次の瞬間、ライラ所長の周りに30丁ばかりの機関銃が渦巻き状に並んでいた。それらは一斉に飛行魔導士隊に照準を合わせた。


「逃げなさい!!」

「さよならー」


 ライラ所長は眠たそうな目をしながら射撃を開始した。たちまち数千の銃弾が飛行魔導士隊を襲い、数人が即死、多くが傷を負った。


 だが飛行魔導士隊は恐慌に陥ることはなく、冷静に距離を取った。ゲルマニアの機関銃がどれくらいの距離を取れば脅威にならないのか、彼女らはよく知っている。


「た、隊長、どうしましょう……」


 リスのような少女、飛行魔導士隊のアンナ副長は不安そうに問うた。


「そうね……」


 弾丸を四方八方にまき散らす、文字通りの魔女――いや、悪魔の類を見据えながら、エカチェリーナ隊長は考える。


「あんなのには近づけませんよ……」

「…………」


 確かにライラ所長は彼女を半球状に包囲した飛行魔導士隊の全てを同時に牽制している。まるで動く要塞のようだ。


 だが、エカチェリーナ隊長は一筋の光明を見出した。

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