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魔法の杖には機関銃を!~魔法全盛の異世界に、現代知識と無双の魔法で覇を唱える~  作者: Takahiro
第三章 大戦前夜

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ライラ所長

 ACU2308 3/14 神聖ゲルマニア帝国 帝都ブルグンテン 帝国第一造兵廠


 ヴェロニカがデーニッツ家に慣れてきた頃、オステルマン師団長の紹介を受け、シグルズは帝都の外れの帝国第一造兵廠を訪れた。ヴェロニカは連れてきていない。


 帝国第一造兵廠は新兵器の研究開発を行っている場所である。そしてその所長とオステルマン師団長が知り合いなのだ。


 一応、応接室的なところはあり、警備兵に師団長の紹介状的なものを見せると、案外すんなりと通してくれた。


「あのー、ちょっとー、大丈夫ですかー?」


 そこには若い女性がソファーですやすや寝ていた。それもとびきり癖の強い格好をした人である。


 一言で言えば、魔女である。魔女が普通に闊歩するこの世界でも見ないような、おとぎ話に登場する『魔法使い』を切り抜いてきたような人であった。


 頭には無意味に大きな三角帽子を被り、いかにもな感じの外套を纏っている。


 色調は全体的に黒っぽい。


「ん? あー、ごめん、寝てた」


 ぼーっとしながら開かれた目は、師団長と同じく緑色であった。


「あの、あなたはどなたですか?」

「私はライラ・エーファ・フォン・ヴィークラント。ここの所長だよ」

「……マジですか」

「そうだよ?」


 まず突っ込みたいのは、第一造兵廠の所長という文明の先端にいる人間が、どうしてそんな格好をしているかである。


「ああ、その格好は、何なんですか?」

「これ? うーん、まあ簡単に言うと、私は魔法だって使うぜっていう意思表示」

「もう少し具体的に……」

「魔法は便利だからね。私は研究で魔法を使って色々やるんだよ。まあそういうこと」

「なるほど……」


 確かに、機械では非常に手間がかかる金属加工などが魔法で一瞬にして出来ることはある。


 この魔女の格好はそういうことに躊躇しないという意味であろう。もっとも、そんな格好をする必要は甚だ疑問であるが。


 次。


 彼女の名字は『フォン・ヴィークラント』というらしい。冗談でなければ、彼女はヴィークラント王国の王族である訳だが。


「その、もしかして王女様でいらっしゃる?」

「そうだよ。うん。そっちを2番目に聞く人は初めてだけど」

「――マジですか」

「うん。因みに王位継承2位」

「は、はは……」


 オステルマン師団長をして変な人と言わしめる人物。確かに、筋金入りの変人であった。


 しかし繋がったことがある。師団長の出身はヴィークラント王国で、この人はその王女だ。


「ジークリンデ・フォン・オステルマン伯爵という人を知ってますよね?」

「…………ああ、うん。知ってるよ。私の昔の友達。別に貴族とかじゃないけどね。で、彼女が君を紹介してくれたんだよね」

「はい。そうなります」

「ところで、君の名前は何だい?」

「え? ああ、これは失礼しました」


 色々と衝撃的過ぎて、人間として最低限のことも忘れてしまっていた。


 ライラ所長は気にしていないようだったが、きちんと謝り、自己紹介をした。


「ありがとう。で、今回の用件は、自動車のことだったよね?」

「はい。そうなります」


 師団長からは、自動車の新しい設計があるから聞いて欲しいとのことで話をつけてもらっている。


「まずは、その、広い場所はありますか?」

「広い場所? まあ、そりゃ、造兵廠なんだからあるよ。着いてきて」


 所長自ら、シグルズを兵器の試験場にまで案内した。


 どうやら今日は休日らしく、人は殆どいなかった。休日を潰すくらいには、ライラ所長はシグルズに興味を持っているらしい。


「で、何をしてくれるの?」

「見ていて下されば分かります」

「ほう」


 やることは一つ。


 つい先月判明した、設計図を知らないものでも生成出来る能力。


 それを使い、初期のガソリン自動車の実物をここに作り出す。


「出てこいっ」

「うおー」


 成功した。


 昔の自動車といったらこれ。角張ったデザインでタイヤとライトが剥き出しになっている奴である。


 それが今、ここにある。ここに生成された。


「え? 君、ほんと?」

「は、はい。多分」


 ライラ所長はお宝でも見つけたかのように近寄って、細部の観察を始めた。


 だが、やはり大事なのは主機である。


「ちょ、ちょっと!?」


 その時、所長は手元に小振りの刀を召喚した。


 そして有無を言わさず車の後部を斬りつけた。


「いやー、主機がどんなものか見たかったからさ」

「だったらそう言ってくれればいいのに」

「ごめん」


 あまり反省していなさそうな顔で。


 所長はエンジンを無理やり引っ張り出すと地面に置いて、赤子におもちゃを与えた時のように、それをいじくり回した。


「すっげー。すっごいね、これ」

「あ、どうも」


 実はシグルズもあんまりよく分かってはいない。ただその姿を思い浮かべるとそこに出てくるのだ。


 もっとも、何でも出せるという訳ではない。条件は、元の世界に存在したもので、シグルズがその特徴をそれなりに知っているものだ。


 具体的なところは分からないが、古今東西の主要な兵器ならば大抵は作れると思われる。


「これ、設計図とかはないの?」

「設計図とかは、分からないので」

「そう。じゃあ、私がこれを調べ終わるまで、ここに泊まってって。よろしく」

「え」


 次の瞬間にはライラ所長はエンジンに向かっていて、どんな声も届きはしなかった。


 シグルズが泊まらせられるのは、魔法で作った物体が24時間くらいで崩壊するからである。


 これは生成の魔法全てに当てはまる法則で、それ故に魔法で工業化は出来ない。


 そこで半日ごとぐらいに一回新しいエンジンを作らされる計画らしい。果たして何日ここにいればいいのやら。


 そういう訳で、シグルズはここに軟禁されることとなった。

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