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イズーナ

「殿下! 我が軍の後方に巨大な魔導反応を確認しました!」

「どっちの殿下に言ってるのよ」

「そ、それは……ドロシア殿下とオリヴィア殿下に」

「ええ。で? 詳しく教えなさい」


 ヴァルトルート付きの観測班曰く、艦隊の後方に突如として多数の巨大な魔導反応が確認されたらしい。


 ガレオン船を100集めたのと同じくらいの反応であるそうだ。


「そう……挟み撃ちに遭ったということね」

「そ、そうだったら大変ですね……」


 船上の司令部はすっかり重い空気に包まれた。ただださえ正面の敵との戦いが劣勢であるのに、無防備な後方を衝かれれば、あっという間にヴェステンラント軍は瓦解する。


「と、取り敢えず目視で確認してみませんか?」

「――そうね、オリヴィア。まずはそうしなくちゃ」


 オリヴィアはおどおどとしているが、その判断に迷いはない。心の底では非常に冷静に戦局を見極めているのである。


 ドロシアとオリヴィアは船内から出て、望遠鏡で後方を見ようとしたが――


「え、何よ、あれ?」

「お城が動いている……?」


 わざわざ道具を使うまでもなかった。


 高さにしてヴァルトルートの倍近く。まるで天守閣のように白く輝く、あまりにも巨大な船が、ゆっくりと接近してきていた。


 ガレオン船はもちろんのこと、ヴァルトルートですら簡単に蹴散らされそうである。


「お、大八洲はあんな馬鹿みたいな船を造った訳?」

「そ、そうみたい、ですね……」


 二人の大公はその場で固まってしまった。その巨大な船への対処など、思いつくはずもなかった。


 が、その時だった。


「殿下! ドロシア様! 通信が入っております!」


 ラヴァル伯爵が魔導通信機を持って船内から駆け上がってきた。


「こんな時に……まあいいわ。繋いで」

「はっ!」


 ドロシアはムカつきながら受信機を取った。


「誰? 何?」

『ああ……ご機嫌斜めなようだな』


 向こうから聞こえてきたのは、困惑している優し気な中年の男の声。


「だから誰?」

『陽公シモンだ。久しぶりだな』

「え、ああ、そう。で、何の用?」

『いや、その何だ、君達に隠していた援軍がいるんだ。それがちょうど君達の艦隊に合流したはずなんだが……』

「え? 援軍ってどんな?」

『ヴァルトルート級より倍は巨大な戦闘艦――イズーナ級魔導戦闘艦一番艦、イズーナだ』

「はあ……なるほど。ええ、分かったわ、ありがとう」


 ドロシアは全てを理解した。そして勝利を確信した。


 イズーナ級魔導戦闘艦については、二十年以上前から建造が進められていた。その細かい設計は七大公にすら極秘であったが、ヴァルトルート級の比ではない巨大な船であるということは知られていた。


 背後に突如現れた巨大船は、イズーナなのだ。シモンはとびっきりの援軍を用意していたのである。


「え、ど、どういうことです?」

「あれは味方よ。安心しなさい、オリヴィア」

「あ、そ、そうでしたか……」


 オリヴィアは、というか他の誰も状況をがよく分かっていなかったが、自信満々なドロシアの姿を見て、取り敢えず彼女に従うことにした。


「今言ったけど、あれは味方の船、イズーナ。全艦散開! 道を開けなさい!」

「「「はっ!!」」」


 今、ヴェステンラントの誇る最大最強の海上戦力が、ついに眠りから目覚めた。


 ○


「あ、あれは一体……」


 イズーナの姿は大八洲艦隊からも簡単に確認することが出来た。ヴェステンラント艦隊の女王蜂のように、圧倒的な巨躯を以て君臨している。


 そしてヴェステンラント艦隊は王に道を譲るようにして、イズーナに通り道を開けた。


 その恐るべき姿に、晴虎の本陣ですら恐怖していた。


「晴虎様……いかがなされますか?」


 朔は震える声で尋ねた。


「ふむ……鉄甲船を全てあの白き船に叩きつけよ! 足止めをしたれば、麒麟隊は全ての兵を以て、これに乗り込め!」


 晴虎がここまで威勢よく号令するのは珍しいことだ。


 普通の武将ならばこれで士気を奮い立たせるものだが、朔は逆に大きな不安を覚えた。


「晴虎様……これは……勝てるのでございましょうか?」

「我に毘沙門天の加護ある限り、我らが負けるはあり得ぬ」

「……はっ」


 表面上は泰然として座っているが、朔には晴虎に余裕がないのだと分かった。そしてそんな姿を見るのは初めてである。


 ○


「晴虎様がそんなご命令を……」


 晴虎の命令は九鬼形部嘉信にただちに伝達された。つまるところは鉄甲船を真正面から衝突させてイズーナの進行を食い止めよという命令である。


「どうしますか?」

「どうしますも何も、従うしかなかろう。せっかく作った鉄甲船を失うのは惜しいが……まあ後で上杉に金をもらうこととしようじゃないか」

「嘉信様……はい。では参りましょう」

「鉄甲船の最後の戦、天下に見せつけてやろうぞ! ついでに九鬼の名を天下に知らしめる好機!」

「はっ。皆、進め!」


 鉄甲船は密集陣形をとり、イズーナに向かって一直線に突進を始めた。


「突っ込めい! 我らの鉄甲で、あのバカでかい船を打ち砕いてやれ!」


 イズーナの材質は木。対して鉄甲船は前回の教訓を踏まえて喫水線下まで装甲を張っている。激突すれば勝つのはこちらだ。


 嘉信はそう確信し、鉄甲船をイズーナの真正面に突進させた。

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