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本陣殴り込み

「あれが本陣か……」


 半径100パッススほどの円形の柵に囲まれ、ダキア軍の本陣はあった。広さだけなら小規模な砦くらいはあるが、特に建物などはない。中央に天幕がぽつんとあるだけである。


「突撃せよ! 一刻も早くピョートル大公を叩く!」


 これが最後の突撃である。戦車が故障することも気にせず、機甲大隊は全速力で猛進を始めた。


 が、その時だった。通信機から耳を話したヴェロニカが突然叫ぶ。


「シグルズ様! 全軍を止めてください!」

「え、な、何だって?」

「早く! ここで停止してください!」


 今にも死にそうな悲痛な叫びであった。


「わ、分かった。全車直ちに停止!」


 シグルズはヴェロニカの言葉に素直に従う。敵陣の外周を目前にして機甲大隊は動きを止め、辺りは異様な静寂に包まれた。


 敵は何もしてこないのである。柵はあるのに兵がいないのだ。


「で、何があったんだ、ヴェロニカ?」

「落とし穴です。あの陣地は前にかかったような落とし穴に囲まれています」

「落とし穴か……」


 シグルズは不愉快そうな表情を隠せない。


 落とし穴というのは以前にまんまと嵌められた罠であるが、根本的に対策することは不可能だ。今回引っかからなかったことすら、かなり危うかった。


 普通は工兵に橋をかけさせて渡るものだが、そんな悠長なことをしている時間はない。よって敵の本陣に戦車や装甲車で突撃することは不可能。


「どうする、師団長殿?」

「迷うことはない。全車、砲撃の用意をせよ!」


 本陣に入れないからと言って何も問題はない。外から砲撃を食らわせ、全てを吹き飛ばせばいいのである。


「準備が整いました!」


 砲撃をするためだけに戦車を外周にそって並べ、体制を整えた。


「撃て!」


 50両の戦車が一斉に砲撃を行った。中央にあった国旗の翻る天幕に砲弾は集中し、旗は折れ、あらゆるものが燃え上がった。


「よし。続けて撃て」


 念には念を、だ。最初の斉射でほとんど全てが跡形もなく片付いたが、その残骸に榴弾をぶち込む。すぐにそこは更地同然となった。


「ヴェロニカ、敵の魔導反応は?」

「それが……まだそこに集中しています」

「となると、地下か……」


 これだけ施設を破壊し尽くしたにも拘わらず、魔導反応を見る限りでは敵は指揮を続けている。つまるところ敵の本陣は地下にある可能性が高い。


 榴弾は地下壕を破壊するにはまるで適していないし、魔法で岩盤を支えているかもしれない。


「こうなったら仕方ない。歩兵で突入する!」

「了解だ、師団長殿」


 戦車も装甲車も最早役には立たない。機甲大隊は車両を捨て、徒歩で敵の本陣へと突入した。


 ○


 一方その頃、ゲルマニア軍の本陣もまた危機に瀕していた。


「閣下! 敵の勢いが激しく、受け止めきれません!」

「やはり……我々だけではまだ無理か……」


 ゲルマニア本隊6万は、ダキア歩兵およそ1万5,000の攻撃を受けている。


 機関銃や小銃を並べて必死の応戦を試みたものの、敵の勢いを止めることは出来ず、今や銃剣が主要な武器と化していた。大混戦で部隊の統制も崩れつつある。


 そして白兵戦において魔導兵に圧倒的な利があり、ほとんど人間の壁で時間を稼いでいるような状況だ。


「閣下! このままでは我が軍は全滅です!」

「まだだ……まだ、耐えるんだ……」


 指揮装甲車の中、ローゼンベルク司令官は寒いダキアの地だというのに汗をダラダラ流していた。本当は今すぐに動きたくてたまらない。だが彼の理性がそれを押しとどめている。


 その時だった。


「あれは……敵か!」

「こ、こっちに来ます!」


 装甲車の窓からこちらに一直線に突撃する騎兵が見えた。ゲルマニア軍をすり抜けて本陣を目指したのだろう。


 普段は敵が目の前まで迫って来ることなど無い司令部の士官達は、あっと言う間に混乱状態に陥った。そして周囲に騎兵を止められる兵はいない。


「この私に銃を抜かせるとは……やってくれるじゃないか……」


 ローゼンベルク司令官は懐から拳銃を抜いた。そして一発撃って窓を割ると、そこから腕を出して魔導騎兵を撃ちまくった。


「か、閣下!」


 慌てて周囲の士官も同様に射撃を行い、何とか魔導騎兵を倒すことが出来た。やはり拳銃弾では機関短銃のように連射をしないと効果が薄い。


「や、やりましたね……」

「ここらが潮時か……オステルマン師団長に攻撃を開始させよ!」


 多くの兵士を犠牲にしてまで耐え抜いたのは、この為なのだ。


 ○


 再び第88師団へ。


 シグルズは歩兵およそ2,000を率いて柵の中に乗り込んだ。天幕があったところまで進むと、実にあからさまに暗い地下へと続く階段があった。


 本来は何かで隠していたのだろうが、先の砲撃でそれらも全て吹き飛んだらしい。


「さて……敵はいるか……?」


 シグルズは機関短銃を構えながら、ゆっくりと階段の下を覗き込んだ。すると途端に矢がシグルズの頬をかすめた。


「そりゃあいるよな……」

「シグルズ様! 大丈夫ですか!?」

「ああ。ちょっと切っただけだ。さて、制圧しようか」


 兵士たちは続々と階段の周りに並び、地下に向かって射撃を始めた。とは言え精々50人程度の兵士しか同時には参加出来ず、完全に泥沼に嵌ったという感がある。

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