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プジャロヴォ会戦

 ACU2311 10/9 ダキア大公国 プジャロヴォ


 オブラン・オシュから西に100キロパッスス、プジャロヴォの地。オブラン・オシュの近郊とは言い難い距離であるが、実質的にはここでの決戦がオブラン・オシュの運命を分けるだろう。


 今日この地に、ゲルマニア軍7万、ダキア軍2万が集結した。


 この戦争、兵士の数で言えば主戦線はグンテルブルク王国などとダキア大公国の国境線である。ゲルマニア軍は30万、ダキア軍は6万の兵力を投じている。


 だがそれを主戦線だと思う者はいない。奇襲のようにしてメレンを落とした少数のゲルマニア軍と、それを迎え撃つダキア軍の予備隊。その数字にしては小規模な戦いこそが、戦争の行く末を左右しているのである。


 ゲルマニア軍の師団長達はローゼンベルク司令官の指揮装甲車に集まり、軍議を開いていた。


「敵は魚鱗の陣を敷いて街道を塞ぎ、我が軍を待ち構えているようです」


 ダキア軍は教科書に載っているような綺麗な三角形を構築し、ゲルマニア軍を待ち受けている。


「保守的だが、堅牢な策だな……」


 ローゼンベルク司令官は感想を零した。


 数百人規模の三角形の陣形を集合させた魚鱗の陣は、大昔から使われている正面突破に使われる陣形であり、戦車に対しても意外と有効であることがマジュリートでの戦闘で示されている。


 ちなみにこの陣形は東方で発明されたものである。


「奴ら、戦車に正面からぶつかろうとでもしてるんですかね」


 オステルマン師団長は投げやりに言った。


「そうとも取れる陣形ではあるが……だとすると妙だな」

「はい。敵が我が軍を積極的に壊滅せしめようとするのは確かな様です」


 シグルズは言う。


 ポドラス会戦の時と今回の会戦とでは、決定的に状況が異なる。即ち、今回はゲルマニア軍が攻め込む側なのである。


 ダキア軍はゲルマニア軍を撃退さえ出来ればよく、危険を冒してまで攻撃に出る理由がない。


 もしかしたらここでゲルマニア軍を撃滅して一気に被占領地を奪回するつもりかもしれないが、そうとも考えにくい。


「そうなんだが……だとすると、これはどう捉えるべきだと思う?」

「恐らくは、ルシタニアでヴェステンラント軍がやってくれたようなことを狙っているものかと」

「なるほど。魚鱗の陣を防御的に使うという訳か」


 魚鱗の陣は包囲を突破する時などにも用いられるが、その場で動かさなければ防御の陣形としても優秀である。


 そしてその本体で戦車隊を足止めしている間に弩砲などで戦車を攻撃するつもりなのかもしれない。


「厄介だな……」

「確かに面倒です。ですが、今回は対抗策もあります」

「何だ?」

「まず、こちらには帝国でも最高の精度で魔導反応を検知出来るヴェロニカがいます。弩砲のように大量なエスペラニウムを使うものならば事前に察知出来るでしょう」


 ルシタニア派遣軍にヴェロニカを連れて行かなかったのは間違いであった。彼女がいれば森の中から狙撃してくる弩砲を見つけ出し、殺られる前に殺っていただろう。


「それに加えて、そもそも敵に足止めされてやる理由はありません」

「それは……どういうことだ?」

「敵に正面から突っ込んでやる必要はないということです。敵は魚鱗の陣を組んでおり、左右はスカスカですから」


 敵の左右から回り込み、最後尾にいるであろう大将を直接叩く。それで諸般の問題は全て解決である。


「しかし……戦車はあんな劣悪な道――というか沼を走れるものなのか?」

「はい。寧ろ戦車はその為にあるのです」


 戦車の無限軌道は正にその為にある。本来は塹壕や砲弾の跡ででこぼこになった地面を踏破する為のものだが、劣悪な自然環境にも当然対応出来る。


「ですが、大雪が降り始めたらその限りではありません。ですから一層早期の戦争終結が必要なのです」

「そうだな。まあ、この戦いに勝てばいいんだ。簡単な話だろう?」


 勝てばよい。勝たねば終わりは遠のく。ただそれだけの話である。


 〇


 ダキア軍に対し、ゲルマニア軍も古典的な横隊を敷いて相対した。中央に歩兵を並べ、左右に騎兵に相当する戦車隊を置いたものである。


 しかしまだ両軍は5キロパッススばかり離れており、互いに睨み合っている。


「よし。では諸君、戦争を始めようか」

「「「はっ」」」


 師団長達は各々の指揮装甲車に向かった。


 〇


 戦車隊はきっちり50両ずつの2つに分かれている。片方はオステルマン師団長の率いる第18師団が構成し、そしてもう片方は無論、シグルズの率いる第88師団の精鋭である。


 だが、まだ動かない。まずは敵の罠を潰す。


 シグルズとヴェロニカはダキア軍の魚鱗の陣から1キロパッススほど離れた当たりを飛び回っている。


「ヴェロニカ、魔導反応は?」

「いえ、中央の部隊の他には見つかりません」


 魔導反応を辿って敵の弩砲を見つけようと思ったが、その試みは早々に失敗していた。


「どうします、シグルズ様?」

「敵が魔導封鎖をしてたらどう頑張っても見つからないからね……」

「すみません……」

「いや、ヴェロニカは何も悪くないよ」


 やはり使用中か否かに拘わらずエスペラニウムを探知出来る装置が欲しいところ。


 まあ十年や二十年で完成するかすら怪しいものだが。

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