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装甲列車防衛戦Ⅱ

「て、敵が近づいてきます……」

「そうなるよな……」


 機関銃を捨てたということは、中距離へ投射できる火力が激減することを意味する。魔導兵の接近を阻める火力は出せなくなった。


「クッ……機関短銃で応戦せよ! 誰も近づけるな!」


 真下こそ撃てないが、少々の距離があれば期間短銃で応戦出来る。かなりギリギリであるが、辛うじて勢いを食い止めるくらいは出来た。


 が、まだ獅子身中の虫という奴が残っている。


「ひえっ」

「おっと、まだこいつがいたな」


 隣に放置していた機関銃から剣が生えた。そこにもう人間はいないが、機関銃をマトモに使えないのは面倒だ。


「さーて、こいつをどうやって殺してやろうか……」

「殺すといっても……こちらからは見えないですし……攻撃のしようが……」

「ふむ……」


 車内からは完全に死角だ。敵の位置すら掴めない。


「……いいや、敵の位置くらいなら分かるんじゃないか?」

「と言うと……」

「魔導探知機があるじゃないか」

「で、ですが……これはおおよその数と方向を見るものであって、そんな個人の位置が分かるものでは……」

「ここまで至近距離ならば、反応も掴めるんじゃないか?」


 敵は確かにすぐそこだ。装甲板を隔てて数パッススの距離である。何とかなるかもしれない。


「わ、分かりました……やってみます」

「頼んだぞ」


 ヴェロニカは魔導探知機の探針を装甲板に当て、反応を見た。しかし特に何も変化はない。


「や、やっぱり……」

「いいや、まだだ。探知機を傾けてくれ」

「は、はい」


 魔導探知機の照射波は基本的に正面に指向される。全方位の魔法を探知出来るような優秀なものではない。故に傾けてみるという行動にも意味はある。


 ヴェロニカは探針の先を壁にくっつけたまま、ゆっくりと魔導探知機を回転させた。そしてついに変化が見える。突如としてこれまでになかった大きな反応が観測されたのである。


「ば、幕僚長!」

「ああ、当たりだ。これが虫の反応だな」


 あまりにも至近距離に魔導兵がいたことで、魔導探知機が大規模な敵部隊と誤認したのだ。まあ普通に考えたら不具合なのだが、今回はこれを利用する。


 現状、幕僚長と通信長だけで動き回っている訳だが、彼女らの魔法の才能からして何かあっても問題はないだろう。ヴェロニカとオーレンドルフ幕僚長は魔導探知機の指す方向を追い、ついに反応が目の前にまで来た。


「こ、これが……」


 ヴェロニカはごくりと唾を呑んだ。


「では、やってやるとしよう」


 オーレンドルフ幕僚長は機関短銃を設置された機関銃に向けて構えた。


「機関銃ごとやっちゃうんですか?」

「外したらバレるだろう」

「た、確かに」

「では今度こそ、終わりだ」


 機関短銃の引き金を引いた。機関銃そのものの防弾性能は低く簡単に貫通し、列車の外にも弾丸は届いただろう。機関銃は粉々に粉砕されてしまったが。


「どうだ、ヴェロニカ?」

「反応が消えました!」

「よし。これで一匹片づけたな」


 自分の姿が全く見えない敵に撃ち殺されて、さぞ納得のいかない死であっただろう。まあそれはこちらも同じだが。


「他にも何人かとりついているようですが……」

「この方法でいけると分かったからな。全軍に、これで敵兵を排除するように命じよう」

「はっ!」


 魔導探知機もそれを扱える兵士も10人くらいはいる。各車にとりついた虫を排除するのは彼らに任せればいい。


「あとは空がどうなっているかだが……」

「シグルズ様……」


 車内からは上空の戦況がどうなっているのか全く分からない。とはいえシグルズならまあ何とかしているだろうと、誰もが思っていた。


 ○



「これは僕の立つ瀬がないですね……」

「え、ええ……本当にね……」


 実際のところ活躍していたのはシグルズではなくライラ所長の方だった。


 空には大小様々な銃器が群れた鳥の様に飛び回り、四方八方(正確にはそれから下を除いた方向)に銃弾や砲弾を放っていた。


「これは……何というか地獄ね……」

「間違いないですね……」


 装甲列車からの対空砲火に加えて前後左右から色々なものが飛んでくるのだから、ダキアの飛行魔導士隊には同情せざるを得ない。或いは機関銃弾、或いは砲弾、シグルズの提案した迫撃砲もそれっぽいものが浮いている。


「あれは何かしら? 炎?」


 クリスティーナ所長は空で直線状の炎を放っている何かを見た。


「あれは……火炎放射器ですね……」

「何それ?」

「名前の通り炎を真正面に放つ武器です。確か、古代の兵器に同じようなものがあったのでは?」

「ああ……そんなのもあったわね……確かヘッラスの火、だっけ?」


 大昔のヘッラス人(地球でいうバルカン半島の南に住んでいた人々)は、周辺諸国との戦争に際し、ヘッラスの火と呼ばれる兵器を使用したと歴史書には記されている。


 その詳細は不明ではあるが、ある一次資料にはその炎は龍のごとく敵を襲ったと書いてあった。事実だとすれば火炎放射器そのものである。


「あの人、そんなものをいつの間に作ってたのかしら」

「ライラ所長なら不思議じゃないのがまた……」


 空を焼くというのは地球ではよくある光景だったが、この世界では初めて目の当たりにする光景だった。

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