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リッベントロップ外務大臣と晴虎の会談Ⅱ

「それは――お言葉の真意を確かめさせて下さい」

「何だ?」

「大八洲の武力が足らないから我々に手を貸すことが出来ないと、そう晴虎様は仰たとうことで、よろしいですか?」

「言い様によっては、そういうことにもなるな」

「それはまた……」


 リッベントロップ外務大臣は心の中で大笑いしていた。晴虎がここまで外交上の発言というものについて無知だとは思わなかった。その証拠に大八洲側の重臣たちの表情は悲痛さを増している。


「そう言うことでしたら、やはり我らと盟を結ぶべきかと存じ上げます。大八洲とゲルマニアが互いに力を合わせなければ、強大なるヴェステンラントを打ち倒すことは叶わないのですから」

「何を言っておるのだ、リッベントロップ殿? 我はそのようなことは一言も言っておらぬぞ」

「何を仰います。つい先程、大八洲の力不足であると仰ったではありませんか」

「ふむ……それが何故に盟を結ぼうという話になるのだ」


 物分かりの悪い晴虎に、リッベントロップ外務大臣は少しばかり苛ついた。が、顔にも声にも出しはしない。


「大八洲の力が足りないというのならば、我が国と力を合わせる他にないのではありませんか?」

「――なるほど、そういうことか。貴殿は少々、我の言葉を聞き違えているようだな」

「何のことでしょうか?」

「大八洲の武士がヴェステンラントの軟弱な兵に負けるなどあり得ぬ。我らは誰の助けも要してはおらぬ」


 晴虎はそう力強く告げた。


「し、しかし先程は……」

「ゲルマニアに力を貸すには、この大陸の西の端へ自らの力で兵や兵糧を送らねばならぬ。が、そのような手立ては我らにはない。我は義に悖る者としか戦はせぬからな」


 暗にガラティア帝国すら滅ぼそうと思えば滅ぼせると言わんばかりの言葉であった。


「それは…………」

「まったく、考えの浅いことだ。我らを己の欲の為の戦に引きずり込もうとする薄汚い魂胆、よく見えておるぞ」


 晴虎は静かに怒りの炎を燃やしていた。


「そ、そのようなことは……」

「まったく、蒸気機関(ダンプマシーネ)やら政党(パルタイ)やら機関銃(マシーネンゲヴェーア)やらを造って、自らが天下において最も賢いとでも思ったか?」

「そ、そんなことはありませんよ……」

「まあ、自ら白状する訳もなし。我らを侮り過ぎたようだな、リッベントロップ外務大臣。我は弱き者の友であり、強き者の敵。貴殿らのような欲に溺れた愚か者に、貸す手はない」


 晴虎は一切躊躇うことなくゲルマニア人を罵倒した。彼が戦場以外で叫ぶことなど滅多にないことだ。大八洲の重臣たちはまた違った意味で表情を歪めた。


「わ、我々はゲルマニアより正式に派遣された使節団。そのようなお言葉は、我が国に対する侮辱となりますよ」

「構わぬ。そもそも我はゲルマニアという国そのものに怒っておるのだ」

「な……」


 堂々と、晴虎はゲルマニアを侮辱したことを認めた。それはあまりにも非常識と言わざるを得ないことだった。


「そこまで仰られるのならば、ゲルマニアと大八洲が敵になったとしても何らおかしかことはないと、分かっていらっしゃいますか?」

「ちょっ、外務大臣……」


 シグルズは思わず止めに入ってしまった。それは捉えようによっては最後通牒とも取れるものだったからだ。


「どうなのですか、晴虎様?」


 だがリッベントロップ外務大臣にも躊躇というものがなかった。彼もまた、晴虎の横暴な態度に腹が立っていたのである。


「分かっておるし、それでも構わぬ。仮にゲルマニアがヴェステンラントの側についたとしても、我らは決して負けぬ」

「……そこまで仰るのですか。そうともなれば、これまで曲がりなりにも保ってきた我らの関係も、見直さざるを得ないようですね」


 それは最低限の通商や政府間の連絡手段のことである。つまりは、近代的な言い方をすれば国交断絶をも視野に入れるということだ。


「よかろう。元より、産業革命とやらを成し遂げようと、ゲルマニアの商いなどたかが知れておる」

「――分かりました。このことは正式に我が総統(マイン・フューラー)に伝えさせて頂きます」

「好きにするがいい」

「ええ、好きにさせてもらいます。それでは失礼」


 大の大人とは思えない低能な会話を終え、リッベントロップ外務大臣は退出しようとした。が、その時だった。


「シグルズ様、大変です……!」


 シグルズの隣で待機していたヴェロニカが、何やら深刻そうな雰囲気でシグルズの服の裾を掴んだ。


「ど、どうしたんだ?」

「まだ数千パッスス先ですが、多数の魔導反応が見られます!」

「何だって?」


 ――まさか、僕たちを消す気なのか?


 これが晴虎の仕組んだことである可能性はなくもない。だがここまで義を重んじる人間がそんなことをするとも思えない。そうなると一体何者だろうか。


「どうしたのだ、シグルズ?」


 ただならぬ様子で周囲から浮いている二人に、晴虎は問いかけた。


「い、いや、その、ここに多数の武士が接近しているとのことでして」

「ここに? 我は聞いてはおらぬが……朔、聞いておるか?」


 晴虎はすぐ隣で沈黙を保ってきた黒衣の少女に尋ねた。


「いえ、わたくしはそのようなこと、聞いておりませぬ」

「ふむ……シグルズ、どちらからそれは来る?」

「東のようです」

「曉、物見を出せ」

「承知しましたわ」


 ゲルマニアと大八洲の会談の場に武装集団が迫ってきている。これはただことではない事態だ。

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