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開戦

 ACU2308 1/13 神聖ゲルマニア帝国 グンテルグルク王国 ミェーナ基地


「師団諸君に告ぐ!」


 オステルマン師団長は連隊長以上の師団幹部及び司令部要員を集め、告げた。


「たった今、ダキア大公国が我が神聖ゲルマニア帝国に宣戦を布告して来た! ダキアが我々に戦争を吹っ掛けてきたのだ!」


 そんなことを何の予告もなく突然言われれば、無論、落ち着いてはいられない。訓練された軍人とて流石に焦る。


「わ、我が軍に備えはあるのですか?」


 ヴェッセル幕僚長は不安げな声で。


 それもその筈。ゲルマニア軍はまだ戦争準備などまるで出来てはいない。このままでは一方的に国境を荒らされることになりかねないのでは、と。


 寝耳に液体窒素みたいな状況である。死ぬ。


 しかしオステルマン師団長は平然としていた。


「心配するな。ここに私たちがいるのが、既に準備だ」

「と、言うと……?」


 ――まさか僕たちを捨て石にでもする気か?


 シグルズはそんな嫌な想像をしてしまう。厄介なのは、それがあり得ないと断言出来ないことだ。


「安心しろ。既に国境付近に全軍の半分が集められている。つまり、演習やら配置換えやらと言い訳をしつつ、参謀本部はいつでも戦争を始められる準備をしていた、ということだ」

「何だ、よかった……っと、失礼しました」


 師団長に普通に話しかけていたが、今のシグルズは師団長に軽々と話しかけていい立場ではない。


「何、気にするな」


 その師団長はそんなことを気にしない人であるようだが。


「で、だ。これより帝国軍の戦略を説明する」


 オステルマン師団長は説明を始めた。


 帝国軍は現在、3つの軍に分かれて展開中である。


 即ち、北方軍、中央軍、南方軍である。


 北方軍は、地球のモスクワくらいの位置にあるダキア大公国の戦時首都メレンを目指す部隊である。


 中央軍は、メレンより帝国領に向かって進撃中のダキア大公国軍の主力を迎え撃つ部隊であり、帝国軍の中でも主力の部隊である。


 南方軍は、地球のキエフくらいの位置にあるダキア大公国の首都キーイを制圧する部隊である。


 因みに、首都キーイはゲルマニアとの国境に近過ぎる為、ダキアは端からその防衛は考えていない。


 この中で最も重要であるのは、やはり中央軍であろう。


 万が一にもここで敗北した場合、ダキア軍の帝国領への侵入を許すこととなる。


 逆に言うと、ここで勝てば、ダキアの本土はガラ空きに等しい。


「——ダキア大公がここでの会戦をもって雌雄を決しようとしているのは明白だ。ならば、受けて立とうではないか! ダキア軍ごとき、我らが粉砕してやろう!」

「「おう!!」」


 当然のごとく、第18師団はこの中央軍に配置されている。


 というか、敵の進路上のこのミェーナ基地が中央軍の集結地である。


 一足先についてゆっくり出来るのは僥倖そのものであった。


 ○


「それで、今回は何の御用で僕を?」


 シグルズはオステルマン師団長の私室に呼び出されていた。2人だけで話をしたいだとか。


 その割には小銃を手入れしながらだが。


「まあ、簡単に言うと、君の魔法をどうやって活用しようかという相談だ」

「なるほど」


 まだどんなことが出来るかを披露しただけで、部隊との連携の訓練などは何もやってはいない。


「どうだ? どういう魔法が一番使えると思う?」

「どういう魔法、ですか」

「思うところを聞かせて欲しい」


 話によればダキア軍は戦列歩兵以上のものを持ってはいない。つまりは歩兵のかたまりである。


 これに対して最も有効な武器、それは、近代の戦争で最も人を殺した武器——火砲である。


 この世界にも大砲はあるが、高威力の榴弾はない。


 鉄塊を飛ばしても敵に与える損害は軽微であるし、名前だけの榴弾はあっても殺傷力は通常弾に毛が生えた程度である。


「空を飛び、空から火球を放ち、敵を混乱させるのが、最も有効な魔法の使い方かと」


 爆発を起こすのは難しいが、ダキア兵は迫り来る火を恐れるだろう。


 敵の隊列は乱れ、容易に粉砕出来るようになる筈だ。


「そうなのか? 空から剣を降り注がせるとかの方がいいんじゃないか?」

「それでは、剣の数の敵を殺す以上のことは出来ません。効率が悪すぎますよ」


 見た目は確かに恐ろしいだろうが、実際の破壊力は小さいし、パニックに陥らせられるとも考えにくい。


 というか、それは弓矢で攻撃するのに同じである。


「確かに、言われてみれば——そうだな。だが、見た目は確かに恐ろしいんだろう? だったら、それに意味はあるよな?」

「というと?」

「敵に火球をぶち込みつつ、空には剣を浮かべておけばいい。そうすれば、威圧は十分だ」

「なるほど。結構難しいですが」


 同時に3つ以上の魔法は使えない。


 故に、火の玉を飛ばしたり剣を生成したりそれを浮かせたりを繰り返すこととなる。


 それが空を飛んでいる状況ではますます面倒になるのだ。


 だが、確かに合理的なやり方であるのは間違いない。


 可能な限り試してみようとシグルズは決めた。


 ——まあ僕に文句を言えるような魔導士は他にいない…………のか?


「そう言えば、師団長閣下は魔法の才に優れているのですよね?」


 と言うと、オステルマン師団長は急におどおどし出した。


「っ、ま、まあな。そ、その通りだ。うん」


 絶対にこれ以上詮索しない方が良さそうな予感がした。


 実際に師団長である以上、魔法について嘘を吐いていることはなかろうが、何か事情があるのだろうと。


「あー、今の話はなしで」

「お、おう。それが、いいな」

「……は、はい。ではその、その銃は、大切な銃なのですか?」


 これ以上話を続ける理由はないが、シグルズは話題を切り替えておく必要を痛切に感じた。


「ああ、この銃か。確かに第一造兵廠の特別製だが——見るか?」


 オステルマン師団長は小銃をシグルズに渡した。


「これは……回転式小銃?」

「そうだ。ReG02という。まあ確かに、こんなものを使ってる変態はうちにはいないがな」


 回転式といえば回転式拳銃——リボルバーであるが、一応、小銃サイズの回転式も世には存在している。


 もっとも、未だに前装式(銃口から火薬とか弾丸とかを入れるやつ)が基本のこの時代では装填にすこぶる手間がかかるし、何より凄まじく高価だ。


 一応、一度装填をすませれば6発までは連射出来るという利点はあるが。


 いや、それだけでなく、回転式弾倉——シリンダーを複数用意しておけば、数十発をかなりの速度で連射出来もする。高価なのに違いはないが。


「どうしてこんなものを?」

「戦場で使う機会があれば、見せてやろう。それまでは秘密だ」


 師団長は子供っぽい笑みを浮かべて。ただの趣味などではないようだ。


「楽しみにしています」

「うむ。じゃあ、これで話は終わりだ。戦いに備えておいてくれ」

「はっ。では、失礼致します」


 シグルズはオステルマン師団長の部屋を後にした。


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