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シグルズと晴虎の会合

「それでは失礼します」

「気を付けて帰るがいい」


 クロエは立ち上がって、そのまま帰っていった。


「晴虎様、次の客がもう来ております」


 晴虎の左腕、長尾左大將朔は言った。


「で、あるか。まったく、こうも立て続けに客が来るとは……」

「申し訳ありません。もう少し間を開けるように計らうべきでした」

「構うまい。どの道、大したことではない」

「はっ」


 晴虎と朔、それから曉がそのまま座っていると、すぐにその客は来た。彼は大八洲の礼儀など気にせずにゲルマニアの真っ黒な軍服を着た若い男であった。


 しかし彼の所作は驚くべきほどに大八洲人のようであった。あぐらをかいて礼をして、晴虎に自己紹介をする。


「私は神聖ゲルマニア帝国のシグルズ・フォン・ハーケンブルク城伯と申します」


 シグルズは大八洲の順番に合わせて名乗ることはなかった。礼儀を知っているのか知らないのかよく分からない態度である。


「我は上杉四郞源眞人晴虎。大八洲が征夷大將軍である。面を上げよ」

「はい、晴虎様」


 極自然な様子でシグルズは頭を上げた。


「お前のことはどう呼べばいいのだ?」

「私のことはシグルズとでもお呼び下さい」

「――で、あるか。シグルズは、本朝を訪れたというのに、本朝の人のように名乗りはしないのか」

「はい。ゲルマニアと大八洲はあくまで対等の国同士。どちらかがへつらうことも、どちらかが上に立つことも、あってはならないでしょう」

「確かに、それも道理であるな。第一、国境(くにざかい)を跨ぐ度に違うように名乗るのは面倒であるな」

「はい。そういう訳で今回は、大八洲と我がゲルマニアが盟を結ぶことを提案しに参上しました」


 シグルズがここに来た理由は、ゲルマニアと大八洲が本格的な同盟を結ぶ為の交渉をすることである。あえてゲルマニアでの名乗り方のままに名乗ったのは、あくまで両国が対等な関係であると示す為である。


「盟を結びたいという話は前々から聞いていた。そして今度ここに来たのは、ついにその決心をしたということでよいか?」

「はい。ゲルマニアと大八洲は共に悪しきヴェステンラントと戦う者同士。そもそも最初から盟を結んで然るべきではありませんか?」

「で、あるな。我らが別々に戦うよりは、共に戦った方がよいに決まっておる」

「はい。ですので是非とも、我が国と盟を結んで頂きたい!」


 シグルズはこの話になると熱が入ってしまう。元の世界で失敗した日独伊三国同盟や人類連合軍に通ずるものを感じざるを得ないからである。


「ふむ……ゲルマニアにはこれまで一度も聞いていないことがあるのだが、尋ねてよいか?」

「はい。何でしょうか?」

「我らと盟を結び、ゲルマニアは何がしたいのだ?」

「何がしたい……と仰られても、戦を我々が優勢に進めることが目的ではありませんか?」


 シグルズはその問いの意味を理解しかねた。既に戦争状態にある共通の敵を持っているというだけで、同盟を結ぶには十分過ぎる。それ以外に何を求めるというのか。


「少し言葉が足りなかったようだな。まず一つ、大陸の東の端と西の端にある本朝とゲルマニアが盟を結んだとて、さしたる意味はないだろう。二つ、ゲルマニアは既に自領を守り切る力を持ち、また我らが負けることはない」

「そ、それが何か……」

「このような状況で、我々があえて盟を結ぶ理由はあるのか?」


 日独伊三国同盟が成功しなかったのは、ソ連とアメリカという強大な敵を前に、両方と同時に戦ってしまったことにある。もしも宣戦布告の前に緊密な連携を取れていたのなら、ソ連を表面上でも味方にして本当の敵であるアメリカを滅ぼせていた。


 だが、この世界にはそもそもソ連に相当する強大な敵は存在しない。あえて歩調を合わせる努力をせずとも、大八洲とゲルマニアはヴェステンラント相手に共闘している。


「そ、それは……確かにそこまでの意味はないかもしれません。しかし、盟を結んで悪いことがありますでしょうか?」


 だが同時に、同盟を結んで悪いことなどもうない。


 ――いや、一応あるか。


「少々流れを遮るようで申し訳ないのですが――」

「何だ?」

「ガラティア帝国のことを憂いているのですか?」


 ガラティア帝国からすると、東と西の強敵が同盟を結んだよう見える。いつかはその牙が自分に向くとも考えられなくはない訳だ。


「で、あるな。我は確かに、ガラティアの心証を憂いておる」

「そうですか。ですが、それについてはご心配なく。既にガラティアのアリスカンダル陛下には、この件を伝えております。彼の国がヴェステンラントの側に立って戦を仕掛けてくるようなことは、万に一つもありません。何なら三国が盟を結ぶことも考えております」

「で、あるか。それは初耳だ」

「でしたら――」

「そういう話ではない。ガラティアがどうこうというのは問題ではない。彼の国のシャーハン・シャーなる者が戦を嫌うこと、そして特に我と戦おうとしないことは知っている」


 アリスカンダルにとって晴虎はトラウマである。


「そ、そうですか。では何を……」

「先程尋ねたであろう。ゲルマニアは何をしたいのかと」

「それは……」


 ここまで来ても、シグルズには晴虎が何が言いたいのか分からなかった。

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