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外つ国人Ⅱ

「これは、ヴェステンラントの大公殿下、お初にお目にかかります。音に聞くようにお美しい赤き目と白き肌ですね。俺は伊達陸奥守晴政。此度は皆様の案内を仰せつかっております」


 大八洲の地に足を踏み入れると、事前に約束していた通りに出向かえの人間がやってきた。まあこの隻眼の荒々しい武将を選ぶ辺り、あまり歓迎はされていないようだが。


「こんにちは、伊達陸奥守様。私はヴェステンラント合州国が白公、クロエ・エッダ・イズーナ・ファン・ブランです」

「ふむ。何とお呼びすればよろしいのかな?」

「ああ、そうですね……クロエでいいです」

「承知した。それではクロエ様、我が主――上杉四郞晴虎様は今、アチェ島にあらせられます。我らの船でお送り致しますので、俺についてきて下さい」


 ここはガラティアと大八洲の国境地帯、地球で言えばインドとインドシナ半島の境目くらいの場所である。ここから晴虎の待つアチェ島まで、大八洲側が用意した船でクロエを送ることになっている。


 これは公式な会合ではない為、移動や会見は基本的に隠密に行われる。


 ○


「これが大八洲の船ですか。我々の船と構造が大きく異なるのですね」

「そう、ですね。我らの船は西方に見られるような竜骨なるものを、大抵は持ってはいません」

「こちらの方が城のような重武装が出来るようですね」

「は、はい。まあそういうことです」


 晴政の話し方は非常にぎこちなかった。クロエですら遠慮してしまうほどに。


「何というか、その、無理してませんか? 別に敵国の人同士なのですから、わざわざ気遣いをしてもらわなくていいのですよ?」

「……そうか。分かった。なればいつも通りでいかせてもらおう」

「はい」


 晴政は敬語で話すことを止めた。


「そうだな、まず、この船については好きに見てもらって構わない。そちらにも捕えた我らの船くらいあるだろう」

「場を持たせるために適当な話をしていただけですが」

「……まあいい。ところで、大八洲にいるのならば、大八洲風に名乗るのがよかろう」

「? と、言いますと?」

「つまり……ええと……ブランというのが家名なのだろう?」

「ええ」

「だから、ブラン・エッダ・イズーナ・クロエとでも名乗ればよかろうということだ」

「なるほど。確かに、そうした方が混乱が少なくていいかもしれませんね」


 郷に入っては郷に従えと、ここでは名字・渾名等・(いみな)という順番で名乗るべきである。因みに大八洲人も西方の国に行く時は西方風に名乗る。例えば「晴政陸奥守伊達」などである。


「それと、クロエ殿、本朝には貴殿を――というよりは白人を嫌う者も多い。あまり目立たない方がいいだろう」

「それは私のことを心配してくれているのですか?」

「俺も外つ国人(とつくにびと)は嫌いだが、今はクロエ殿の案内人だ。今だけは貴殿を守らねばならないからな」

「それ言っちゃうんですか」

「俺は公私をちゃんと分ける男だ。言っておくが、俺は謀略など決して弄さん。伊達の家名にかけてな」


 それは晴政が一番気に食わないことだ。正々堂々と正面から戦うこと以外を晴政は断じて赦さない。


 そんな他愛のない会話をしているうちに、一行はマジャパイト王国に到着した。


「晴虎様の元へは俺が連れていく。車の中でゆるりと休んでいてくれ」

「はい。お願いします」


 大八洲に数少ない馬車がわざわざ用意されていた。これは晴虎の配慮なのか、或いは単に輸送をとっととすませたいからなのか。理由はどうあれ、クロエは乗り慣れた馬車で移動することが出来、快適な旅を楽しむことが出来た。


 そうして辿り着いたマジャパイト王都マジャパイト。大八洲の影響を多分に受け、平明京や葛埜京のような碁盤の目のような構造をし、中央には巨大な城が聳え立つ立派な都である。その城に晴虎がいるのだろう。


「戦争しているとは思えない平和さですね」


 城下町は人で賑わっており、誰も戦のことなど考えていないようであった。


「まあ、晴虎様がマジャパイト人に重荷を背負わせぬようにと命じているからな。その分我らが重荷を背負わされているのだが」


 普通は現地人から食糧や物資を巻き上げるものだが、晴虎はそれを一切禁じている。占領行政は楽になったが、大名にとっては大きな負担でしかなかった。


「それに、こちらの戦はいつも戦っている訳ではありませんからね」

「ゲルマニアとヴェステンラントは毎日のように殺しあっているそうだな」

「ええ。それとは随分雰囲気が違うように思えます」


 ゲルマニアとヴェステンラントの戦争は、既にこれまでの戦争とは一線を画すものとなっている。


 人類の歴史が始まってから塹壕線が発明されるまでは、戦争というのは決戦の積み重ねだった。決戦はどんなに短くても数日の間は空き、その間は一切の戦闘が起きない。今のヴェステンラントと大八洲の現状のように、数ヶ月の間実際の戦闘が起こらないことも稀ではなかった。


 だが塹壕線は異質なものだ。塹壕では常にどこかで殺し合いが起こっている。毎回の戦闘は決戦と比べて非常に小規模なものだが、兵が休まることは決してない。


「野戦を何か月にも渡って続けるとは、とても正気の沙汰とは思えないがな」

「やっていれば慣れますよ」

「そういうものか――と、ここが晴虎様のいらっしゃる城だ。晴虎様のところまでは案内しよう」

「お願いします」


 城内に入ったのは晴政とクロエと他数名の護衛だけであった。

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