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魔法の杖には機関銃を!~魔法全盛の異世界に、現代知識と無双の魔法で覇を唱える~  作者: Takahiro
第十二章 マジャパイト攻略

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潜水船

 ACU2310 3/21 アチェ島沖


 水中から現れ高速で逃げ去った小舟。その中には嘉信の予想通り黄公ドロシアなどが乗っていた。


「はあ……シーラが沈められるとはね……」


 ドロシアは珍しく悪態をつく様子はない。


 ヴァルトルート級魔導戦闘艦三番艦シーラ。


 始原な魔女イズーナの三人娘の末っ子の名を冠したこの船。ヴェステンラント艦隊の旗艦でありヴェステンラントでも最強の魔導船であったにも関わらず、晴虎の手によって沈められてしまった。


「まあ初めての実戦投入だったからってのもあるだろうけど、頭を刈ることに夢中になり過ぎたのかしら」

「そのように思われますが……」


 ラヴァル伯爵は苦虫を嚙み潰したような声で応えた。


 これまで何度も成功してきた敵の大将を刈り取る戦術。それに海戦でも拘泥してしまったばかりに初陣のシーラは沈められてしまったのだ。


「本国では新型の戦闘艦を建造中らしいですが……」


 青公オリヴィアはおずおずと。


「ああ、イズーナとかいう奴?」

「は、はい」


 イズーナ級魔導戦闘艦一番艦イズーナ。どうやらとんでもないものを建造中らしいが、女王自らが進めるその詳細については七公相手にすら伏せられていた。


「それでやり返せって?」

「ま、まあ、そういうことです」

「本国に頼るなんて。落ちぶれたわね、私たち」

「…………」


 本国に頼るというのは他の大公国――この場合は陰の国に頼るということである。


 一般にヴェステンラントの七大公国は他の国に頼るのをよしとしない。自国だけで問題を解決するのが合州国の流儀なのだ。


「ところで、あんたの姉はどうしてる?」

「シャルロット姉さまは、今はお休みになっています」

「あ、そう」


 流石の青の魔女シャルロットとて、あそこまでの損傷を受ければ休まざるを得ないらしい。何せ心臓をほぼ失ったのだ。意外と人間らしいところが垣間見える。


「……それで、私は無視?」


 ぼそっと声を上げた少女。背は低く短髪で、やけに派手な黒いドレスを纏っている。知能は恐らくかなり高いのだが、言動と精神年齢が非常に幼いと有名である。


「ああ、ごめんなさい。この船を持って来てくれて感謝してるわ。ありがとう」

「あ、ありがとうございます、クラウディアさん」

「うん」


 彼女はクラウディア・ヴァイオレット・イズーナ・ファン・ノワール・ド・シルワネクティス。水を司る黒の魔女にして黒公である。また彼女以上に長い名前を持つ人間はこの世界にはそうそういない。


 彼女はこの潜水船を事前に派遣していて、そのお陰でここにいる面々は助かっているようなものである。もっとも、これすらもドロシアからしたら最悪の妥協でしかなかったのだが。


「……しっかし、この船はどうなってるの?」

「魔法で水をかき分けただけ。この船では一度沈めたものを浮上させることしか出来ない」

「へえ。じゃあこれを使うにはあなたがいないとダメなの?」

「いいえ。今回は私は何もしていない」

「そう。面白いわね」


 黒の国はクラウディア個人の技量などに頼らなくてもいいほどに技術を洗練させている。この船も少し高位の魔女が数人集めれば十分に動かせるのだ。


「だったら、今こうして爆速で進んでるのも?」

「そう。数人の魔女が水を押して動かしている」


 推進力はほぼ魔法に頼っている。だがそれはクラウディアがいなくても十分らしい。


「だったらあなたがここにいる意味は?」

「特にない。強いていうのならあなたが余計なことを指図しない為」

「随分なことを言ってくれるわね……」


 黄公ドロシアの地位はヴェステンラントでもほぼ最高のものである。権威において彼女に優るのは女王くらいだ。


 となると彼女が無理な命令を下す可能性はある。この船の魔女からすると容認出来ないような命令があっても彼女らは逆らえない。その事態を回避する為に黒公クラウディアは出向いたそうだ。


 つまりはドロシアを無能だと言っているようなものなのだが。


「これはあくまで保険。そして今回、それが使われることはなかった」

「……あっそう。でも、だったらこの技術を事前に売ってくれたのなら嬉しかったのだけれど」


 商売ならば頼っていることにはならない。それは互恵的な取引である。


「頼まれなかったから」

「――そう」


 言われなければやらないという何とも子供っぽい思考である。


「でも、海で戦うのが得意なあなたたちが砂漠で戦わされてるなんて、かわいそうねえ」


 黒の国は現在、ヌミディア大陸南部の大国ムタパ王国と戦争している。その戦場は砂漠も多い。おおよそ水とは無縁の場所である。


「そう?」

「……そうじゃないの?」

「砂漠で地下水脈を見つけて井戸を掘ったりとか、使い道は色々ある」


 水の魔法で井戸を掘りあてていると、現地住民に喜ばれるらしい。その他にも数少ない水脈を整備したりしているそうである。


「本当に戦争してるの? 慈善事業でもしてるんじゃない?」

「私たちが行動しやすいようにしているだけ。魔法で飲み水は作れないから」

「……そう」


 馬鹿正直に応えるクラウディアに、ドロシアの調子は悪くなっていく一方だった。


「因みに、あなたはこの後どうするの?」

「私はヌミディアに戻る。最初からその予定」


 クラウディアの助太刀は今回限りのものだ。


 彼女はドロシア一行を安全な島まで送り届けると、潜水船に乗って西へと去った。

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