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魔法の杖には機関銃を!~魔法全盛の異世界に、現代知識と無双の魔法で覇を唱える~  作者: Takahiro
第十一章 第二次ブルークゼーレ会戦

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約束の日

 ACU2310 3/5 神聖ゲルマニア帝国 アルル王国 第一防衛線(旧第三防衛線)


 暗く冷たい塹壕線に、第88師団は息を潜めている。


「現在時刻は2359。間もなく、です……」


 ヴェロニカはごくりと生唾を呑んだ。


「そうだな……」


 シグルズの心臓も高鳴っていた。


 ゲルマニアとヴェステンラントが結んだ休戦協定。その期限はあと30秒ほど。あと30秒で、両国は完全な戦争状態に移行する。


 因みに、この世界の精密時計は魔導通信機を利用した言わば電波時計で、敵の時計とは一秒のずれもない。その瞬間は寸分狂わず同時に訪れる。


「残り3,2,1――」

「っ」


 戦争は再開した。その瞬間、シグルズは機関短銃を構えた。


 が、何も起こらない。


「こ、来ないのか?」

「ヴェステンラント人もそこまで好戦的ではないということだろうな、師団長殿」


 オーレンドルフ幕僚長は冷静に。これはシグルズの杞憂だったのかもしれない。


「そう、だな。心配し過ぎたか……」

「将の不安は兵にも伝染する。師団長は常に気高くふるまうことだ」

「――参考にする」


 兵士の鼓舞もまた司令官の役目。その点から見れば、シグルズの行動は落第点と言ってもいいだろう。


 その後数時間ほど防衛線は臨戦態勢にあったが、結局何も起こらず、気付けば朝陽が昇ってきていた。


「シグルズ様! たった今、偵察隊がヴェステンラント軍の不在を確認したとのことです!」

「……了解した」


 この緊張は何だったのかと、シグルズは塹壕の壁にもたれかかろうとした。


 が、その隙間に手が挟み込まれ、シグルズは無理やり直立姿勢に戻された。誰かと思えばオーレンドルフ幕僚長である。


「そういうところだ、師団長殿」

「そ、そうか……すまない」


 一夜にしてすっかり失念してしまっていた。


「しかし、君は元気だな」


 オーレンドルフ幕僚長は、一晩中続いた警戒など意に介していないように、凛々しく立ち振っていた。


「この程度の疲労ならば訓練よりもマシではないか?」

「まあ、物理的にはそうだけど」

「この程度の緊張で疲れるような奴には、師団長など向いていないぞ?」

「い、言ってくれるじゃないか……」


 シグルズは向きになって仰々しく胸を張る。が、すぐにどっと疲れが襲ってきた。そんな体勢は維持出来ない。


「? 何をやっているんだ?」

「な、何でもない……」

「そうか」


 どちらかと言うとオーレンドルフ幕僚長の鬼のような発言に、シグルズの心は折られかけていた。


「シグルズ様、全軍に撤退命令が下りました。私たちもブルークゼーレ基地に撤退です」

「了解だ」


 ゲルマニアはこの日の為に相当な準備を重ねてきたのだが、それが意味を為すことは一切なく、誰もが盛大な肩透かしを食らった。


 ○


 ACU2309 3/5 ルシタニア王国 アルゲントラトゥム ヴェステンラント軍前線司令部


「どうやら、ゲルマニア軍は夜通し警戒をしていたようです」


 マキナは心なしか馬鹿にしているような口調で、傍受したゲルマニア軍の通信について報告した。


「そうなんですか……ゲルマニア軍も随分と頭が悪いことをするのですね」

「クロエ様こそ、どうして夜襲をしかけられなかったのですか?」


 珍しくクロエの方から質問してくる。確かに、大した明かりもない前線においては夜襲はそれなりの意味を持つだろう。


 しかしクロエにその選択肢はなかった。


「そんなことをしたら、スカーレットが謀反を起こします」

「で、殿下!? 私は何があっても殿下を裏切ったりなどは――」

「ものの例えですよ。実際、そういう話になったら、あなたは反対するでしょう?」

「も、勿論です。いくらゲルマニア人が相手とは言え、夜襲などは武人の道ではありません!」


 攻撃をしかけられるようになったら即座にしかけるとか、そういった考えはヴェステンラントには端からないのである。ゲルマニア軍は本当に何の意味もなく将兵を疲れさせたのだ。


「しかし、大八洲の方では夜戦で敵を破った大名が称えられているそうですが」

「え、そ、そんな者が、あるのですか……?」

「はい。確か、北條家の祖先だった筈です」

「そ、そう……です、か…………」


 スカーレット隊長は何故だが異様に落ち込んでいた。周囲の草木を枯れさせてしまいそうな勢いである。何なら無感情のマキナの方が元気そうに見えるくらいだ。


「スカーレット、前々から気になっていたのですが、あなたの言う武人というのは、大八洲の武士のことですよね」

「っ、はい……」


 つまるところ、彼女の憧れる大八洲の武士ならば夜襲などという小賢しいことはしないと思っていたのが、実際はそれをした大名が称賛されているのを聞かされて、武士にいささか幻滅しているのであろう。


「彼らも誇りより現実を優先する――まあ普通の人間と言うことですよ」

「そ、そういうことではなく――」

「あれ、違うのですか?」

「はい。その、もしも今の話を知っていれば、私は夜襲に賛成していたでしょう。だから、その……」

「ああ。せっかくの機会を逸してしまったことを後悔しているのですか」

「そうです……」


 クロエがスカーレット隊長の反対を予想したというのは、確かに夜襲を取りやめた理由に含まれている。が、決してそれだけで決めた訳ではない。たった一人の武将の意見で全体の総意を覆すようなことを、クロエはしない。


「別に、あなたが原因である訳ではありません。これはあくまで私が決めたことです」

「し、しかし……」

「落ち込むのは止めて下さい。命令です」

「――はっ!」


 そんなすぐに心の切り替えが出来るほどスカーレット隊長は器用ではないが、クロエの命令とあらば虚勢でも全力を張るのである。

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