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魔法の杖には機関銃を!~魔法全盛の異世界に、現代知識と無双の魔法で覇を唱える~  作者: Takahiro
第十章 内政段階

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ルテティアの反応

 ACU2309 11/19 ルシタニア王国 王都ルテティア


 ヴェステンラント合州国の制圧下にある王都ルテティアの姿は、この戦争が始まる前のものとさして変わらない。結局のところ民衆にとって誰が統治するかなど関係ないのである。政策を変えなければ、彼らには何の変化もない。


 だが、合州国は政策を変更する必要に迫られていた。食糧不足と資金不足である。もっとも、資金不足さえ解消されれば食糧不足も解決される。ルシタニアの国土は豊かだ。


「こんな紙屑が本当に使えるのかい?」

「逆にこれ以外使えない。そういう命令だ」


 ルテティア市内に複数設けられた交換所。そこではルテティアの金貨や銀貨と「紙切れ」を交換していた。軍用手票である。


 だが、想像するに難くないが、ルテティア市民とヴェステンラント軍との間には少なからず困難が生じていた。ここでも老婆が受付を塞いでいた。


「適当なこと言って金を奪おうって魂胆だろう、どうせ」

「違う。これからは金貨や銀貨、銅貨に代えてこれで取引をしてもらうということだ」


 軍用手票をきちんと流通させる為には既存の貨幣を全てこれと交換する必要がある。そうしなければ更なる混乱を招くことになってしまう。


「そんな言葉には騙されないよ」

「騙してなどいない。交換しないとお前は市場で小麦粉も買えなくなるぞ」

「交換したらの間違いじゃないのかい?」


 どうやらルテティア市民は中途半端に賢いらしい。確かにヴェステンラント側には通貨の発行権を自由自在に操りたいという魂胆はある。だが市民の暮らしに影響が少ないように最大限の配慮をしているというのもまた事実なのだ。


「いい加減にしてくれないか。並んでいるだろう」

「知ったこっちゃないよ。だったら私はみんなを守る方を選ぶね」

「こいつ……つまみ出してくれ」


 ついに兵士はこの聞き分けのない老婆を実力を以て排除することに決めた。が、その時だった。


「止めて下さい。市民には手を出さないようにと厳命しましたよ?」

「だ、誰だおま――殿下!?」


 大公らしからぬ地味な服を着ていたが、その赤い眼と雪の肌を見間違える筈はない。それは紛れもなく彼らの上司中の上司、白公クロエであった。


 まさかの人物の訪問によって、ヴェステンラントの兵士だけではなくルテティアの市民もざわつきだした。


「も、申し訳ございません、殿下」

「向こうから攻撃してこない限り、手を出すのは禁止です。我が軍の信用に関わりますから」


 勿論クロエの良心からの命令でもある。だがそれよりも、我々は信頼出来ると市民に印象付けた方が統治が楽になるという打算があった。


「承知しました、殿下」

「うん、よろしい。ところで――」


 クロエは先程まで駄々をこねていた老婆の方に向き直る。


「な、何だ?」

「私はヴェステンラント合州国の白公クロエ・ファン・ブランです」

「そんなのは見りゃ分かるよ」


 クロエの容姿はルシタニア人の間でも有名らしい。


「でしたら、私からも頼みます。我々は決して、あなた方に何らかの損害を与えようとは思っていません。あなた方の生活を守りつつ私たちが作戦を展開出来る方法が、これなのです」

「だったらとっとと新大陸にでも帰ればいいじゃないか」

「それが不可能なのはお分かりでしょう」

「そいつはそうだけど……」


 市民は賢い。戦争がそう簡単な理屈で片付くとは思っていない。


「私たちはより強硬な手段に訴えることも可能です。例えばルテティアを片っ端から略奪するとかです」

「ああ」

「その方が楽です。しかし私たちは今のような面倒な方法を取っている。これはあなた方を最大限に考えているからです。あなたが協力してくれなければ、ルテティアやルシタニアはもっと酷いことになるかもしれないのですよ」

「そうかもしれないけど……」


 こういう理論的な会話も理解してくれている。クロエとしては実に説得のしやすい相手であった。


「ですので、どうか協力して下さい。わざわざ自分の首を絞めることはないでしょう」

「ああ、分かった分かった。分かったから、もう帰ってくれ」

「ありがとうございます。では」


 クロエは事態が収束したのを見届けると去っていった。老婆は渋々手持ちの金を軍用手票と交換した。


 ○


『ルテティアの状況はどうかね?』


 赤公オーギュスタンは通信機ごしに皮肉っぽい声で尋ねてきた。


「案外順調です。今のところおおよそ6割の金を交換出来ています」

『そうか。カムロデュルムは7割と言ったところだ』

「そうですか。予想は出来ましたが、やはり時間はかかりますね」


 こんなに進んでいるのは両国の首都だけだ。他の都市ではまだまだ軍用手票は行き渡っていない。


『とは言え、ある程度の地域で軍用手票を完全に行き渡らせれば、我々が食糧を買い求めることは可能だ』

「そうですね。まずは王都での作業を急がせましょう」


 王都ルテティアで軍用手票の経済を完成させれば、そこに入る人間の手持ちの金を逐一軍用手票と交換することで、ルテティアの中でならヴェステンラントの思うような取引が可能になる。


『それでは、お互い引き続き仕事に励もうではないか』

「ええ。頑張りましょう」


 ――本当に面倒なのですが……


 クロエはこれからも今日みたいなことをしなければいけないことを思い溜息を吐いた。

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