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魔法の杖には機関銃を!~魔法全盛の異世界に、現代知識と無双の魔法で覇を唱える~  作者: Takahiro
第十章 内政段階

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全権委任法

 ACU2309 11/2 神聖ゲルマニア帝国 グンテルブルク王国 帝都ブルグンテン 総統官邸


「シグルズ、今回ここに呼んだ理由だが、一言で言うと、君に我が国の体制について諮問したい」


 いきなり総統官邸に呼び出されたシグルズに、ヒンケル総統は言った。


「我が国の体制について、ですか?」


 その質問は大雑把過ぎる。何と答えるべきか、シグルズには分からなかった。


「ああ。より具体的に言えば――そうだな、どうすれば兵器の生産高を増やせると思う?」

「そういうことですか。しかし、僕は兵器の設計が担当でして、その、経済についてはあまり……」

「嘘を言え。君はヴェステンラントに軍票とかいうやり方を提案したそうじゃないか」

「な、さ、さあ、な、何のことでしょうか……」


 ――バレた!?


 シグルズの命運に関わる危機だ。何なら今すぐに処刑されても文句は言えない。この様子だと明確な証拠を握られていると思われ、言い逃れは無理だ。


 心拍数が一気に上がり、体も震えてきた。


「ごまかさなくてもいい。これがゲルマニアに何の影響も及ぼさないことは、私も承知している」

「そ、そこまで……って、あ」

「まあ、この件については私がもみ消しておいた。心配しなくてもいい」

「さ、流石は、総統閣下……」


 理解が速い人間が権力者であることの、何と心強いことか。


 シグルズはこれまでにないくらい安堵した。そしてゲルマニアがまっとうな国であることに――独裁政治を行っていることに、改めて感謝した。


 もしゲルマニアが民主主義でもやっていたのなら、シグルズは即刻処刑されていただろう。本当に、そうでなくてよかった。


「それで、だ。先程の質問に答えてくれるか?」

「しょ、少々お待ちください」


 考える。どうすれば兵器の生産量を増やせるか。


 ――あ、そうだ。


 シグルズはすぐにその解決策を思いついた。


「何も、難しいことはありません。国中で兵器を生産すればいいだけですよ」


 ゲルマニアでは僅かな官営工場のみが兵器の生産を請け負っている。これを民間にも拡大し、官民一致の生産体制を築けば、兵器の生産量は飛躍的に高まるだろう。これしかない。


 しかし、この程度のことを総統が思いつかないなんてことがあるだろうか。


「それか……」

「な、何か問題でも……」


 失望というか落胆というか、総統はそういう顔をしていた。


「民間人の企業に銃を作らせたとして、それが市民の間に広まったらどうする? 治安の急速な悪化が懸念されるだろう? だから、それは不可能だ」

「そういうことですか……」


 ゲルマニアは徹底的に技術を国が独占したいらしい。


「でしたら、いっそのこと市民の銃の所持を合法化するというのは?」

「何を言っているのだ? 君は市民の安全を脅かす気か?」


 総統の言葉に迷いはなかった。


 シグルズとしては銃社会になったところで国益に影響を与える程の治安の悪化は起こらないと知っている訳だが、それを説明するのは恐らく困難だ。塹壕のように実証実験も出来ない。


 それに、総統は民を心から愛している。国益などは問題ではなく、ゲルマニア人が少しでも幸せに暮らせる社会を望むのだろう。つまり、この線はない。


 では違う切り口から攻めてみよう。


「では、民間の企業を全て政府が管理するようにしましょう」

「そ、そんな無茶なことは……」

「出来る筈です。必ずや」


 地球では20世紀の時点で出来た。この世界でも不可能なことではない筈だ。


「しかしな、シグルズ、いくら私でもそこまでの権力は持っていないのだ。総統と言っても、その程度のものなのだよ」

「――そう、ですか」


 総統総統と呼ばれているから、ヒトラーのごときものを無意識に想像してしまっていたが、この世界の独裁体制はそこまで洗練されたものではないのだ。転生者の悪いところだと、シグルズは反省する。


 そしてその上で考える。ないのならば創ればいいのだ。


「では、こういうのはどうでしょう。総統閣下の全権委任法を制定するのです」

「全権委任法?」

「はい。邪魔な議会や憲法を無視し、全面的な立法権を総統に与えるという法律です」


 全権委任法。


 ヒトラーが制定し、彼に立法権を委ねる法律の名である。これによってヒトラー政権は自由に法律を制定出来るようになり、たったの十数年でドイツが奇蹟的に復活出来たのである。


 法の支配などというのはロクなものではない。人の支配こそ正義なのである。


「しかし、憲法を無視するというのは不可能だと思うが」

「では憲法を書き変えればいいのです」

「――そ、そうか」


 既に社会革命党は帝国議会の議席の殆どを手にしている。憲法改正は容易な筈だ。


「しかし、憲法にまで手を出すとなると、党内にすらそれなりの反対が出そうなものだが」

「それについては、親衛隊の皆さんにでも頑張って頂ければ」

「おや? 私たちですか?」


 親衛隊全国指導者のカルテンブルンナー、貴族ではないくせに貴族を真似している男は、心底意外そうに尋ねた。


「シグルズ、反社会的勢力でもないのに、意を唱える者は武力で叩き潰すというのか?」

「いいえ、閣下。この法律に反対する者は全て反社会的勢力ですよ」

「そ、そうだろうか……」

「総統閣下がお命じになるのなら、我ら親衛隊は何の躊躇も致しませんよ?」

「む……分かった。法務官僚に調整を急がせよう」

「流石は総統閣下」


 ――物分かりがいい。


 かくして、ゲルマニアはより洗練された独裁体制へと進んでいく。

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