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束の間の平和Ⅲ

「女王陛下、これまで一体何をしてたんですか?」

「アメリカの遺物を色々と見物させてもらっていたのだ。大天使とやらの助力を得てな」

「はぁ……。何か成果はありましたか?」

「ああ。だが、お前に話すようなことはない」

「そうですか」

「せっかくだ。ここの復旧を手伝ってやろう。無辜の民の生活は、守ってやらねば」

「願ってもない。女王陛下が手伝ってくれればここもすぐ片付きます」

「任せておけ」


 どの種類の魔法もレギオー級の魔女並に使えるニナの力は、復興には最適であった。一人で軽々と瓦礫をどかし、道を造り、家を建ててしまうのである。ニナの力でヴェステンラントの復興は順調に進んでいった。


 とは言え、ニナの思想が大きく変わった訳ではない。彼女はいずれヴェステンラントを滅ぼして先住民への償いとするつもりである。


 ○


 ACU2317 2/21 崇高なるメフメト家の国家 ガラティア君侯国 帝都ビュザンティオン


 大人類戦争の終結から半年が経とうとしている。列強は既に先の戦争から得られた戦訓を元に軍備の拡張を始めていた。ガラティア帝国もまたその例に漏れない。


「まさかゲルマニアが我々に戦車を売ってくれるとは思いませんでしたな」

「ゲルマニアは戦車を造り過ぎて、戦車を造らないとやっていけない国になっているのだ。寧ろ我々に感謝してもらいたいところだな」


 皇帝アリスタンダルとイブラーヒーム内務卿は、ゲルマニアから届いたおよそ20両の戦車の検品に自ら出向いていた。ゲルマニアは結局、戦時体制からの脱却を諦め、輸出向けの兵器を生産することで雇用を確保することにしたようだ。お陰でゲルマニアの方から戦車や銃を買ってくれと頼み込んでくる始末である。


「しかし、いくら経済が立ち行かなくなるとは言え、戦争をしてから一年も経っていない国に最新の兵器を譲り渡すものでしょうか?」

「我々がいくら戦車を購入したところで、ゲルマニアから砲弾や燃料の輸入が途絶えれば、ただの置物になるだろう。ゲルマニアから輸入した兵器がゲルマニアを害することはない」

「で、では、これは何の為に……」

「今のはあくまで我々に消耗品を製造する能力がない場合の話だ。我々が砲弾さえ製造することが出来れば、この戦車達もゲルマニアに牙を剥くことが出来るだろう」

「な、なるほど」


 ガラティアが自力で砲弾を調達する能力を有しない限り、これらの戦車はゲルマニアに首根っこを掴まれているに等しい。ゲルマニアが使用を認めた戦場でしか使えず、兵器としては論外である。


「まあ、とは言っても、輸入した兵器に頼るということ自体も問題だ。我々が自力で戦車を製造出来るようにならない限り、これらが我が軍の主力となることはないだろう」

「では、いずれ戦車の製造技術も習得するおつもりで?」

「無論だ。我が国のエスペラニウム産出量は心許ない。魔法に頼って戦争をするのが非現実的であることは、大戦争でよく分かった。まあ魔法にも使い道が多く残っていることも分かったが。ともかく、我々はゲルマニアのような科学の軍隊を建設せねばならんのだよ」

「それはもしや、ファランクスを解散するおつもりで……?」


 イブラーヒーム内務卿はそうであっては欲しくないと願いつつ尋ねた。


「ああ、いずれそうする」

「ほ、本当に……。しかしそんなことをすれば、軍が反乱を起こしますぞ」

「あのような旧態依然の軍隊に頼らなくてもよい軍事力を整えてからの話だ。その前に反乱を起こしてくるかもしれんがな」

「そ、その時はどうするおつもりで?」

「その時はその時だ。何とかする」


 アリスタンダルは不敵に笑う。ガラティア帝国の野望は決して途絶えた訳ではないのだ。


 ○


 ACU2317 3/7 神聖ゲルマニア帝国 グンテルブルク王国 ハーケンブルク城


 シグルズの領地であるハーケンブルク城とその城下町は、シグルズの義姉エリーゼの手によって日に日に発展を遂げていた。ここに帝国第一造兵廠を構えるライラ所長も、エリーゼからの潤沢な資金援助によって研究開発を順調に続けている。


「これは一体何を作っているんですか?」


 エリーゼは第一造兵廠に横たわる、翼もプロペラもない航空機のような物体について、ライラ所長に尋ねた。


「これは誘導弾だよ。自分で飛翔して敵に飛んでいく砲弾か、或いは人の乗っていない特攻機と言ったところだね」

「なるほど。ではこちらのプロペラのない航空機のようなものは?」

「君が言った通り、プロペラのない航空機だよ。ジェット機って言うんだ」

「それで飛ぶんですか?」

「後ろに空気を噴射することで飛ぶ、原理は単純な航空機だよ。まあ技術的な問題が多くて、これはハリボテだけどね」

「では、こちらの皿みたいな物体は?」

「こっちは電探だね。電波の力で敵を探知する機械だよ。いやー、本当に君の援助には助かっているよ。ありがとう」

「いえいえ。これがいずれ弟の役に立つのですから、どうということはありません」


 ライラ所長の探究心はまだまだ留まることを知らない。帝国の軍事技術は更なる発展を遂げることだろう。

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