アイオワの戦いⅢ
「おっと、危ない」
艦内に入るや早々、シグルズの顔を矢が掠めた。アメリカ軍は艦内にバリケードを築き魔導弩で矢を射掛けてくる。アメリカ軍は意外にもこういう時の対処を真面目に考えているらしい。そしてその作戦は単純故、却って突破するのも難しい。やはり陣地に立て籠るのが地上で最強の戦術なのである。
シグルズは曲がり角に身を潜めつつ攻撃の機会を伺うが、アメリカ軍の機械的な射撃は止まることがなく、なかなか好機を見出せなかった。相手が人間でないと、油断や隙は生まれないのである。
「だったら、火力で叩き潰すしかないな。まあそもそも、アメリカ軍に遠慮なんて要らないか」
シグルズは携帯用の無反動砲を作り出した。使い捨てる形式のものである。その大砲だけを曲がり角から出して、相手の顔も見ず、引き金を引いた。真っ直ぐ正面に飛んでくれれば敵の陣地に命中する筈である。無反動砲から出る煙と命中先の爆煙で、辺りの視界は極端に悪化した。まあそれも仕方あるまい。そもそも屋内で使うように設計された武器ではないのだ。
だが分かることもある。先程まで絶え間なく飛んできた矢が途絶えたのである。恐怖など知らないアメリカ軍が攻撃を止めたということは、彼らが死んだということだ。煙が晴れた後に見てみると、アメリカ軍のバリケードは壊れ、兵士の身体は木端微塵になっていた。
シグルズは死体と残骸を踏み込め、歩みを進める。
「またおんなじか……」
しかし行く手に立ち塞がったのは、ついさっき見たのと全く同じ陣地であった。アメリカ軍の行動は完全に規格化され画一化されており、臨機応変という概念は全く存在しないのである。正しく資本主義と言った感じである。
シグルズはそんな様子に不快感を覚えつつ、先程と全く同じように対戦車砲を撃ち込み、邪魔をするアメリカ軍を文字通り粉砕した。そうしていくつかの陣地を軽々と粉砕し、角を曲がったその時であった。
「おっと……」
曲がり角のすぐ先、シグルズの目と鼻の先に、アメリカ兵の魔導装甲、その兜があって、兜の隙間からアメリカ兵と目が合った。
アメリカ兵は驚きも何の感情も見せずに剣を抜き、一切声を出さず気合いを込める素振りも見せず、シグルズに斬りかかったのである。
「危なっ――」
シグルズはすぐさま後方に飛び退き、その一撃を回避した。そしてすぐさま両手の中にバトルライフルを召喚し、目の前のアメリカ兵に全力の射撃を浴びせた。バトルライフルから放たれる機関銃弾はたちまち魔導装甲を破壊し、有り余った破壊力はアメリカ兵の手足を吹き飛ばすほどである。反動を成魚出来れば、両手に機関銃を持っているも同然なのだ。
アメリカ兵はどこからともかく湧いてきてシグルズに向かって突進して来たが、シグルズは魔法で再装填を行いながら引き金を引き続け、いつの間にか通路にアメリカ兵は立っていなかった。アメリカ兵が剣で戦うことを選んでくれたお陰で、シグルズが一方的に敵を殲滅したのである。死体の絨毯の出来上がりだ。
「アメリカ兵も、走りはするのか……」
白兵戦をする気になればアメリカ兵も走るのだと再認識しつつ、シグルズは先を急ぐ。何度か道を間違えながら代わり映えのしない陣地を破壊し進むと、ようやく主砲塔に辿り着いた。しかし主砲塔だけはアメリカ軍も真面目に守る気があるようだった。
「撃たれたら引っ込む、か。当たり前のことだけど、アメリカ軍にそんな知能があるとはねえ」
アメリカ兵は曲がり角に身を隠して射撃する時だけ身を乗り出すという、実に人間的な戦法を取った。これでは遮蔽物ごと吹き飛ばすことは出来ない。加えて、アメリカ兵は銃弾を喰らうとすぐに隠れて魔導装甲を回復させるのを繰り返し、全く数を減らすことは出来なかった。数発でも弾丸に耐えられるというのは、防御側にとって非常に都合がいいのである。
シグルズは埒が明かないと判断してバトルライフルを捨てた。そして代わりに作り出すのは、ゲルマニアが開発した対魔女狙撃銃である。取り回しは非常に悪いが魔導装甲を一撃で貫通する対人徹甲弾をぶっ放せる銃である。
「さて、条件は同等。真っ向勝負と行こうじゃないか」
お互いに一発の弾を撃つ毎に数秒の装填時間を要する。まるで第一次世界大戦の塹壕戦をしている気分であった。もちろんお互いに一発撃たれればお終いである。
しかし、戦いの軍配はシグルズに上がった。アメリカ兵の射撃は相変わらず機械がやっているようなもので、射撃の間隔はほぼ一定であった。近寄るには短か過ぎるが、一瞬身を乗り出して敵を撃つのには十分である。隙を見て対魔女狙撃銃を構え、アメリカ兵の姿が見えた途端に引き金を引いていれば、そのうち弾は当たる。
20分ほどの銃撃線の末、アメリカ兵は全滅したのであった。
「こんな雑兵に、時間をかけ過ぎたな……。みんなに怒られそうだ」
クロエやら朔だったら魔法に任せて一瞬で全滅させていただろう。それはともかく、シグルズはようやく主砲塔に侵入することに成功したのである。