アイオワの戦いⅡ
魔女達はアイオワからの激しい砲火を前に、完全に動きを封じられてしまった。機関砲弾までなら魔法で防げるが、高角砲から放たれる炸裂弾とその爆風は盾でも防ぎ切れない。爆風が脆弱な人体を遅えば、手足など簡単にもげてしまうのである。
青の魔女オリヴィアは重傷を負った者を直ちに治療するが、このままではじり貧だ。
「シグルズ、どうしますか?」
クロエは問う。
「さあ、どうしたものかな。アイオワの防御は予想以上だ。とても近付けない」
「じゃあ、ここで諦めるしかないですかね?」
「今のところは、それしか案はないね」
守りを固めるので精一杯。とてもアイオワに接近出来る状況ではない。流石のレギオー級の魔女達でも手詰まりに陥ってしまう。が、その時であった。
「シグルズ、あれを!」
「特攻機か!? どうしてここに」
後方を見ると特攻機の編隊が急速に接近しつつあった。ざっと見て、残りの特攻機を全て投入したに違いない。100機以上の特攻機が、一斉にアイオワに突入しようとしているのだ。
「なるほど……特攻機で均衡を崩そうってことか」
「彼らの手を借りざるを得ないとは、レギオー級の名折れですね……」
クロエはすぐに状況を理解し、悔しそうに呟いた。アイオワも決して余裕がある訳ではなく、レギオー級の魔女を寄せ付けない為に最大の火力を投入している。特攻機を迎え撃つ余裕はないのである。特攻機はアイオワの機銃や高角砲に向かって次々に突入し、これを片っ端から破壊した。迎撃されたものは僅かであった。
アイオワの左舷は随分と破壊され、今にも崩れ落ちそうな有様である。同時にシグルズを襲う砲火はほとんど途絶え、自由に動けるようになった。特攻隊の犠牲があってのことだが、レギオー級の魔女達を妨害するものは消滅したのである。
「よし……。じゃあ行こうか。アイオワを沈めよう」
「ええ、そうしましょう」
甲板には多数の魔導兵がおり魔導弩などで抵抗してきたが、シグルズとクロエの掃射によって一瞬にして全滅し、魔女達は死体が積み重なるアイオワの甲板に降り立った。
「で、ここに来たのはいいけど、こんな大きな船をどうやって沈めるつもり?」
クラウディアはシグルズに指示を求めた。レギオー級の魔女は巨大なものを破壊するのはあまり得意ではない。例えクロエが装甲列車を破壊する最大の攻撃力を持った槍を叩き込んだとて、大きな損傷にはならないだろう。
「確かに、直接に破壊するのは不可能だろうね。ここは船底を攻撃して浸水させることを提案するけど、どうかな?」
「大きな穴を開けないと、沈むのに時間がかかる」
「それはそうだが……そうだ、君の魔法ならば海に潜れるんだったよな?」
クラウディアは周囲の水を押し退けて水中に泡のような空間を作り、擬似的に潜水する魔法を使うことが出来る。わざわざ迷宮のような艦内に入らなくても船底を攻撃することが可能なのである。
「それはそうだけど、お勧めはしない。水中ではあらゆる攻撃の威力が大幅に下がる。例えクロエの攻撃だろうと。アイオワの装甲を破壊出来るとは思えない」
「ならやっぱり、艦内から攻めるしかないか」
「だけど、艦内からでも、この厚い装甲を破壊出来る保証はない」
「じゃあ試してみよう。クロエ、ちょっとそこら辺の舷側装甲を破壊してみてくれ」
「はあ……分かりましたよ」
クロエは嫌々ながらと言った態度を隠さなかったが、素直に指示に従ってくれた。少し飛んでアイオワの上部舷側装甲に攻撃を仕掛ける。まず放った対人用の剣はまるで通じなかった。次いで槍を投げつけると、装甲を貫通することには成功したが、槍の太さ程度の穴を開けることしか出来なかった。
「クロエ、これで限界なのか?」
「限界ですよ。文句があるならあなたがやればいいんじゃないですか、シグルズ」
「君が無理なら僕にも無理だ。……艦体が頑丈過ぎて沈められないのなら、戦闘能力を奪えばいい。ボイラーを破壊すれば動かなくなった以上、アイオワは魔法で動いている訳ではない」
「と、言いますと、どうすればよいのでございましょうか……?」
朔は戦艦にあまり縁がない。シグルズの提案をあまり理解出来ていないようだ。
「人類艦隊にとって脅威となるのは、主にアイオワの主砲だ。これを無力化出来れば、どうということはない」
「あの巨大な大筒、にございますか」
「そうだ。あれは外からの攻撃には頑丈だが、内側から攻撃されれば簡単に無力化される。ついでに艦橋も吹き飛ばしておけば、アイオワは完全に無力化される筈だ」
「なるほど……」
「手分けしますか、シグルズ?」
「そうだね。とっと終わらせよう。僕は一番前の砲塔を、君は二番目の砲塔を、朔は三番目の砲塔を頼む。クラウディアとオリヴィアは、艦橋にあるものを全部破壊してくれ」
アイオワを沈めることは諦め、主砲を無力化することにしたシグルズ。レギオー級の魔女達は各々の目標に向かい、アイオワの暗い艦内に入っていった。シグルズもアイオワの艦内の構造など分からないので、手当たり次第に走り回るしかなかったが。