表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1084/1122

最後の攻勢

 戦場は一時の静寂に包まれた。機動力を失ったアイオワと艦載機を失ったエンタープライズでは人類連合艦隊に攻撃を仕掛けることなど出来ず、また人類艦隊側も残る数少ない特攻機でアイオワを沈められるとは思えず、完全に膠着状態に陥ってしまったのである。


 レーダー中将はレギオー級の魔女達を鳳翔の艦橋に集め、軍議を開いた。


「ヴェステンラントの方々、お集まり頂き、ありがとうございます。状況を今一度確認しましょう。現在、我が軍に残されている特攻機はおよそ120であり、これが人類連合艦隊が保有する攻撃力のほぼ全てと言ってもよいものです。一応、最後の手段として航空母艦で海上特攻を行うことも出来ますが、先の戦艦達のような爆薬は積んでおらず、敵艦を撃沈することはまず無理かと思われます」

「であれば、その120機全てに特攻させるしかないのでは?」


 クロエはレーダー中将に問う。


「確かに、それしか選択肢がないのは事実です」

「ではそうすればいいではありませんか」

「しかし、不甲斐ないことですが、120機ではアイオワを沈められる公算は非常に低いのです。80機を投入してようやく艦尾に穴を開けられただけで、120機ではとても……」

「なるほど。だったら、何で私達を集めたんですか?」

「それはもちろん、あなた方から何かご提案を頂ければと思った次第です」


 そう言うレーダー中将の声は、ハッキリとしないものであった。


「私達はゲルマニアの兵器にそんなに詳しくはない。そちらが思い付かないのならば、私達に思い付くとは思えない」


 黒公にして黒の魔女クラウディアはすぐさま中将の提案を否定した。


「いやはや、手厳しい……」

「結局、何がしたいの? 前置きは要らない」

「そう、ですね。このような無駄話をしている時間はありますまい。単刀直入に申し上げますと、アイオワについてはあなた方に全てお任せしたいのです。実に情けないことですが、我々には最早、アイオワを沈められる力は残っていないのです」

「そうだったら、最初からそう言ってくれればいいじゃないですか」


 クロエは明るい声で言う。レギオー級の魔女の本領を発揮出来る場を提供してくれるのならば、悪い話ではない。


「しかし、これはあなた方を大いに危険に晒すものです。アイオワの対空砲火は恐らく、我が軍のそれとは比にならないものです。いくらあなた方であっても、無事で済む保証はありません」

「レギオー級の魔女があんな鉄屑に殺されるとでも思ってるんですか?」

「失礼ながら、私はそう思っております」

「そうですか。では全員で特攻してくればいいんじゃないですか?」

「そ、それは……兵士を無駄死にさせる訳にはいきません」

「そんな優柔不断でよく艦隊司令長官をやってられますね」

「……全くもって、その通りです」


 レーダー中将はクロエに頭を下げた。成功の期待が薄い特攻作戦に残り全ての特攻機を投入するか、レギオー級の魔女達をそれが失われる可能性がある戦場に投入するか。中将には人類の命運を掛けた選択を即座に下せるほどの胆力はなかった。


「はぁ、仕方ないですね。じゃあ私が決断しますよ。私達は勝手に出撃させてもらいます」


 クロエはわざとらしく剣を抜いて艦橋から飛び去ろうとする。


「お、お待ちを! レギオー級の魔女は人類に必要な戦力です!」

「安全な戦いにだけ参戦するなど、何の為のレギオー級ですか」

「そ、それは……」

「今こそ私達が出る時です。シグルズ、クラウディア、オリヴィア、問題ありませんね?」


 クロエに呼び掛けられた全員が頷く。


「わ、わたくしも出ます!」


 鳳翔の直衛に当たっていた大八州の朔も、艦橋に引き籠っているのは我慢ならなかったようだ。


「もちろん、一緒に行きましょう。問題ないですよね、レーダー中将」

「まだ成功の望みがあるのは、あなた方に頼る方です。くれぐれも死なないで頂きたい」

「もちろん、死にませんよ。では皆さん、行きましょうか」


 レギオー級の魔女達は鳳翔を飛び立ち、アイオワを沈めに飛んだ。


「しかし、君が先陣を切るなんて、珍しいじゃないか」


 シグルズはクロエに呼び掛ける。


「そんなことありません。私は大公なんですよ。何百万の領民がいると思ってるんですか?」

「まあ、そう言われればそうか」

「まったく、私を何だと思ってるんですか」

「魔女の仕事に専念してるかと思ってたんだ」

「――おっと、敵が出てきましたね」

「おいおい、ちょっと数が多いんじゃないか……?」


 アイオワから現れたアメリカの魔女。その数はみるみるうちに増え、まるで黒い靄のようである。敵の数は数万を下らないようである。


「ヴェステンラントのコホルス級の魔女の総数くらいはいそうですね」

「とんでもないじゃないか」

「まあ、レギオー級の魔女が5人もいれば、何とかなりますよ。では私とあなたクラウディアと朔さんが前衛で、オリヴィアは後衛と足場をお願いします」


 戦闘に向かない青の魔女オリヴィアを後方に控え、レギオー級の魔女4人が、襲い来る数万の魔女の前に立ち塞がる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
cont_access.php?citi_cont_id=959872833&size=300
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ