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新たな空母

「ダメです!! 対空砲火は全く当たりません!!」

「クッ……悪い予想は当たるものだな」


 魔女を相手にすることを前提にした対空砲の数々は、魔女より圧倒的に速いアメリカ軍機に照準を定めることすら出来なかった。だが魔女と比べれば、戦闘機と言えど巨大な目標である。狙いを定めることを放棄して撃ちまくった砲弾の幾らかが命中し、数機のアメリカ軍機を落とすことが出来た。まだ敵は10機ばかり残っている。


「迎撃間に合いません!!」

「敵機が突っ込んで来ます!!」

「対空砲火を止めろ! 後は魔女達に託すのだ!」


 レーダー中将は最後の最後をレギオー級の魔女達に託すことにし、全ての対空砲火を即座に止めさせた。アメリカ軍機の前に翼を持った人影達が立ちはだかる。


「お前達と同等の技術で出来た対空機関砲だ。全員落ちろ」


 シグルズは四連装対空機関砲を10門ばかり召喚して空中に浮かべ、アメリカ軍機に斉射を開始する。シグルズの魔法で造られた兵器は地球にかつて存在していた兵器そのものであり、その技術水準はアメリカ軍に匹敵する。とは言え人間が機関砲を操るなど魔法があっても無理がある。撃墜出来たのは4機だけであった。


「あれがシグルズの本気ですか。では、私も本気を出さねば」


 クロエは5本の槍を作り出した。そして槍に力を込め、一斉に投げつける。クロエが本気を出して投げ飛ばす槍の速度は音速に近く、誰もそれが飛翔する姿を目で追うことは出来なかった。気付いた時にはアメリカ軍機は先端のプロペラから尾翼まで串刺しにされ、静かに落ちていった。これで落とせたのは5機であり、残りは2機。


「クラウディア、最後は頼みましたよ!」

「私は戦闘向きの魔女ではないのだけどね」


 最後を任されたクラウディアは、海水を凍らせて作った戦車程度の巨大な氷を次から次に投げつける。氷はほとんど外れたが、何とかアメリカ機に真正面から叩きつけることに成功した。かくして、すんでのところでアメリカ軍の攻撃は粉砕されたのである。


 ○


 一方その頃。ゲルマニア軍の機器では全く確認出来ない遥か遠方に、一隻の巨大な鋼鉄船、航空母艦があった。その艦橋にはルーズベルトとトルーマンがいる。


「USSエンタープライズ、やはりこの艦こそが、我々の旗艦に相応しいな」


 ルーズベルトが魔法の力で呼び起こしたのは、ミズーリなどと同時代の空母エンタープライズであった。数々の戦争犯罪に加担してきた艦である。まあ悪いのはエンタープライズにそれをやらせた軍人であって艦に罪はないが。


 ルーズベルトが目を輝かせているところ、トルーマンは申し訳なさそうに話しかける。


「あの、大統領閣下、どうやら最初の攻撃隊は全滅したようです」

「全滅することなど最初から決まっている。敵にどれほどの戦果を与えられたのかね?」

「敵の特攻機を80機落としましたが、敵艦隊に与えられた損害は皆無です」

「何? アメリカの戦闘機で特攻させて、敵艦隊に何の損害も与えられなかったと?」

「ええ、まあ。全て撃墜されてしまいましたな」

「神の恩寵を得た魔女達ならば、それも可能というものか……」


 珍しく深刻な顔で考え込むルーズベルト。


「あの、大統領閣下?」

「気にすることはないよ。面白くなってきたじゃないか」

「はあ。で、どうされるおつもりで? 残りの特攻機を全部出してとっとと終わらせた方がよいかと思いますが」

「うむ。そうしようか。全機、発艦を開始しろ」


 エンタープライズの発艦は魔法を使う人類軍のものと違って、なかなか時間がかかる。残り60機の戦闘機が出撃するまで人類軍に暫しの猶予が出来たと言えるだろう。


 ○


 同刻。レーダー中将はまたしても決断を迫られていた。


「閣下、速やかにニュージャージーを攻撃し、艦隊の安全を確保するべきです!」

「敵の航空機が再び来襲した場合、特攻機なくして迎撃することは困難です。ここは特攻機を発艦させておき、次なる敵機の襲来に備えるべきかと」


 ニュージャージーを攻撃する筈だった特攻隊は全滅し、ニュージャージーは未だに無傷である。これを速やかに攻撃して機関を破壊しなければ、蒼龍のように艦隊がやられるのも時間の問題であろう。しかしアメリカ軍の艦載機が襲来し、それを迎撃する特攻機がなければ、一瞬で艦隊が殲滅されることも間違いない。


「閣下! 迷っている時間はありません! どうかお早くお決めください!」

「そうは言ってもな……」

「中将閣下、我々にはまだ使えるものがあるのでは?」

「……何のことだね?」


 レーダー中将は半ば察しつつも、分からないフリをした。


「戦艦アトミラール・ヒッパーとプリンツ・オイゲンです。正直言って、主砲の威力は全く不足、対空兵器も全く不十分です。であれば、特攻に使用するべきでは?」

「艦に特攻させると言うのか……。それは確かに合理的かもしれんが……」

「ニュージャージーへの攻撃もアメリカ軍機への備えも、どちらも同時に出来るのは、これだけでは?」

「…………分かった。アトミラール・ヒッパーとプリンツ・オイゲンには、海上特攻を命じる」


 レーダー中将はまたしても、手駒を切り捨てなければならないようだ。

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