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オーギュスタンの采配Ⅱ

「遅かったではないか。ここは大八洲の桐殿に頼むとしよう。よろしいかな?」

「ええ、もちろんよ。その為にいるんだから」


 この生意気な少女こそ、最も新しいレギオー級の魔女、桐である。桐は大八洲の武士達を率いて飛び立ち、敵を迎撃しに出陣した。敵の魔女はおよそ二千。対して味方はおよそ五百である。


「さあて、曉の力ってのは気に入らないけど、存分に使わせてもらおうじゃない」


 アメリカ軍の正面に一人仁王立ちする桐。エスペラニウムで形成された刀を抜き、蝿の群れのようなアメリカの魔女達にその切っ先を向けた。


「全員死ね、アメリカ人共!!」


 桐が念じると、彼女の周りに数百の刀が作り出され、現出すると同時にアメリカの魔女に向かって次々飛んでいった。白の魔女クロエと同等の能力である。刀はアメリカ人に次々と突き刺さり、あっという間にほとんどが墜落した。


「皆の者、残りを全員殺しなさい!」

「「おう!!」」


 数の上でも人類軍はほとんど同等になった。数で負けていなければ人類がアメリカなどに負ける筈がない。魔女達はアメリカ軍に突撃、あっという間に蹴散らしたのであった。


「ふん、大したことなかったわね」

「桐様、オーギュスタン殿より、地上へ支援を行うようにとご命令が」

「それを待ってたわ。全員、アメリカの蛆虫共を皆殺しにしなさい!!」


 魔女達は既に人類軍に囲まれて殲滅されつつあるアメリカ軍を上空から襲撃し、全く一方的にこれを殺し尽くした。戦いの天秤は完全に人類軍の優位に傾き、渓谷に閉じ込められたアメリカ軍は一人残らず殲滅されたのであった。街道はアメリカ人の死体で埋め尽くされ、暫くは通れそうにない。


「やりましたな、殿下!」

「人の定義は思考することにある。考えることを知らぬ獣の群れなど、雑作もない」

「では、これよりは防衛線の奪還に向かうのですか?」

「さて、どうしたものかな。確かにこのまま塹壕に舞い戻れば容易に奪還出来るであろうが、イズーナがそれを許すとは思えん」

「そ、それは、確かに……」


 イズーナに対処するのは現状では不可能。オーギュスタンはイズーナを刺激する方が得策ではないと考え、王都防衛線の穴を放置することにした。もっとも、その後ろでアメリカ軍を撃退し続けているのもイズーナを刺激することになりかねないのだが。


「いずれにせよ、ここは良い場所だ。ここでならば、アメリカ軍の突破を許すことはあるまい」

「それはそうでしょうが……」

「ともかく、ここで時間を稼いでいる間に、市民の避難を進めるのだ」

「はっ!」


 オーギュスタンはアメリカ軍に負ける気はしていないが、一方で負けた時のことも考えている。彼の行動は基本的に、王都の陥落が時間の問題であることを前提にしているのだ。


 ○


 王都防衛線は一点が突破されたものの、その他の地点においてはアメリカ軍の攻撃を尽く撃退し、侵入した敵軍もオーギュスタンが整えた不敗の布陣により完全に撃退出来ていた。市民の避難は順調に進み、避難が完了するまでは残り2日もあれば十分であろう。


 オーギュスタンはあれきり前線に出ることはなく、ノフペテン宮殿の人類軍総司令部から指揮を執っていた。


「人類艦隊の状況は、どうなっているのかね?」


 オーギュスタンは会議室に入ると早々、少々苛立ちながら尋ねた。ルーズベルト殺害の命を受けた人類連合艦隊であるが、到着予定の半月を過ぎても大陸の東岸を彷徨いていた。


「はっ。それが、敵艦の数が想定より多く、これと戦いながら北上している為、想定より時間がかかっているとのことです」

「特攻機を使えばイズーナ級など一瞬で沈められるだろうに。何を手間取っているのだ」

「船を沈めたとて敵の魔女が死ぬ訳ではありません。これへの対処と休息に、時間がかかっているとのこと」

「……まあよい。私がどうこう言ったところでどうにもなるまい」


 人類艦隊は人類の持ち得る海軍力の全てを投入したものであり、この艦隊がアメリカ艦隊を取り逃がせば、ほとんど無防備の王都が襲撃を受けることになってしまう。


 と、その時であった。


「申し上げます! 人類艦隊、アメリカ艦隊と遭遇! 敵艦隊はイズーナ級6隻とのこと!」

「過去一番の大艦隊だな。一体どこからそんな船が湧いてくるのやら」


 まあこれまで人類が撃沈してきたイズーナ級は50隻程度であり、今更驚くこともない。とは言え物資の限られる人類艦隊にとって、敵が出れば出るほど戦闘能力を消耗することになる。


 無論、勝てないことはない。いやそれどころか、人類艦隊はほぼ損害を出さずにあっという間にアメリカ艦隊を殲滅したという報告が入って来た。


「我が艦隊、敵艦隊を殲滅とのこと。ですが……」

「何だね?」

「特攻機の残りがもう50機を切っています。敵の本拠地に突入するに当たっては、万全の準備を整えたいと、レーダー中将が申しています」

「……分かった。好きにしたまえ」


 特攻機の3分の2を使い切ってしまった人類艦隊は、特攻機を補充する為、進軍を停止した。幸いにして既にアトランティス洋の制海権は回復しており、ゲルマニア本国から追加の特攻機が到着するまで半月程度であろう。


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