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オーギュスタンの采配

「いやはや、自ら戦場を見るというのも、なかなかよいものだな」

「は、はあ……」

「そして自らの目で確かめた結果だが、ここは戦場に最も相応しい場所とは言えぬ。すぐに軍団を後退させ、後方に陣を敷き直す」

「し、しかし、これ以上下がればもう、王都の目と鼻の先になりますが……」

「勝てれば何も問題はない。負ければどこで負けようが結果は同じだろう」

「た、確かに……。では、すぐに軍団を再配置します」

「ああ。私の命令通りに布陣させろ」


 王都の東側は狭い渓谷になっている。これは偶々ではなく、王都を防衛しやすくする為に人為的に作られた地形である。オーギュスタンはこの山々の間に兵士を配置し、自分自身も森の中に本陣を敷いた。オーギュスタンは別に外に出るのが嫌いな訳ではないらしい。


「これでは王都が丸見えですが……本当によろしいのですか?」

「構わぬ。寧ろアメリカ人共にはいい釣り餌だ」


 全ての部隊が山中に隠れ、王都への道を遮る者は誰もいない。もっとも、王都と言ってもゲルマニア軍に破壊された廃墟の上にみすぼらしい建物が点々と並ぶだけの残念な姿ではあるが。


「では、後は好機を待とう。諸君、こういう時は休息を取っておきたまえ」

「は、はあ……」


 そう命令すると、オーギュスタンは本陣の真ん中で珈琲を飲みながら持って来た本を読み始めた。とても戦場とは思えない様子である。兵らも呆気に取られるが、最高司令官がこのような有様なので、各々が心と体を休めることが出来た。


「申し上げます!! 敵勢、王都より2キロパッススに迫っております!!」


 伝令が駆け込んできて、オーギュスタンは残念そうに本を閉じた。


「さて、そろそろ戦いの用意をせよ」


 兵らは静かに剣と刀を持ち、いつでも打って出られる用意を整えた。アメリカ軍には気付かれていない筈である。アメリカ軍は王都を守る兵隊がいないことを疑問にも思わず、綺麗な隊形で行進を続ける。


「殿下、今更なのですが、アメリカ軍相手に挟撃はあまり通用しないと思うのですが……」


 アメリカ軍との実戦経験がある将軍が不安を漏らす。オーギュスタンの作戦は見ての通り、谷間のアメリカ軍を奇襲して挟撃することだが、これは諸将の反対を押し切ってオーギュスタンが決定したものである。完全に包囲されようとパニックにすらならないアメリカ軍に挟撃が通用するのか、不安に思う者は多い。


「挟撃、包囲は戦術の基本。基本を守れずに勝てるものか」

「そ、それはそうかもしれませんが……」


 オーギュスタンらしからぬ堅実な作戦に、彼の古くからの家臣達すら不安を持たざるを得ない。結局オーギュスタンがのらりくらりと反論を回避している間に、アメリカ軍は到着してしまった。人間の歩行速度とは案外速いものである。


 ○


「敵勢、まもなく渓谷に入ります!!」

「よろしい。では諸君、私の合図で全員一斉に打って出るのだ。大八洲の武士のように、命を投げ出す覚悟で挑め。ここで負ければ何十万という無辜の臣民が犠牲になるのだ」


 オーギュスタンは覇気のない声で演説らしいことをした。実際のところ臣民の避難は進んでおり、万が一敗退しても王都を失うだけで済むのだが。


「敵勢、渓谷に入りました!!」

「まだだ。まだ待て」


 アメリカ軍が渓谷に侵入し、その最前列は既に人類軍の目の前にある。オーギュスタンは更にアメリカ軍を誘い込む。そしてアメリカ軍の隊列のほとんどが渓谷に入ったところで、ついに号令を発した。


「全軍、出陣せよ! 敵を根絶やしにせよ!」

「「おう!!」」


 兵士達は剣を抜いて山を駆け下りる。兵士達は一斉にアメリカ兵に斬りかかり、渓谷の中のアメリカ軍を押し込み始める。


「おお、これは……」

「アメリカ軍の陣形が崩壊していきます!」


 攻撃を開始してすぐのことである。隘路で左右から押し込まれたアメリカ兵はお互いに押し合い圧し合い、後方にいる兵士達も次々と倒れ、味方に踏み潰され圧死していった。統率する者のいないアメリカ軍は一度陣形を乱されるとそれを再構成することも出来ず、人類軍によって押し潰されていったのである。


「確かにアメリカ軍に対して包囲や挟撃は大きな意味を持たない。アメリカ兵は感情のない機械だからだ。とは言え、物理的には人間そのもの。剣も振れぬほど狭い場所に押し込めてしまえば、マトモに戦うことは出来ん」

「なるほど……」


 兵士達が並ぶことすら出来ないほど狭い戦場に大軍を投じるなど愚の骨頂。オーギュスタンの作戦は大成功である。


「殿下!! 敵勢が王都方面に抜けております!!」


 王都への道は依然としてがら空きである。が、オーギュスタンがそれを考慮していない筈もない。


「想定内だ。魔女隊、出撃せよ。王都を侵さんとする不届き者を殺し尽くせ」


 次の瞬間、街道を塞ぐ炎の壁が現れ、接近するアメリカ兵を尽く焼き殺した。


「あれは……! 赤の魔女ノエル様!」

「ああ。本当は我が娘を戦場になど出したくはなかったが、このような戦いにあの子の力は最適であった」


 かくして三方から攻撃を受けたアメリカ軍はあっという間に押しつぶされていく。が、その時であった。


「殿下! アメリカ軍の魔女が接近しております!」


 アメリカ軍も三万の兵力が無駄死にするのは避けたいらしい。

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