表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1073/1122

イズーナの攻撃再び

 人類艦隊は順調に北上を続けている。針路上のアメリカ艦隊は全て殲滅しているので、王都周辺の海域は安全であった。海からの増援も途絶えて王都に対するアメリカ軍の攻撃も低調になっている。


 だが、その状況を快く思わない者がいた。王都東方の防衛線に、彼女が現れたのだ。


「あ、あれは……! 始原の魔女イズーナ……!!」


 既にイズーナの魔導反応を記録しているゲルマニア軍は、彼女が再び姿を現したことに真っ先に気付いた。このことはすぐゲルマニア軍の前線部隊を指揮するオステルマン中将に伝えられた。


「そうか……ついに痺れを切らしたみたいだな」


 中将はいずれイズーナが現れるであろうと予感していた。故にそう驚くこともなかった。


「閣下、如何なさいましょうか?」


 彼女の副官ハインリヒ・ヴェッセル幕僚長は問う。


「どうするったって、奴を相手に出来る奴は、ここにはいない。お手上げしかないだろうな」


 辛うじてイズーナと渡り合える魔女は皆、人類艦隊に参加して遙か北の大地に向かってしまった。王都を守る戦力は極めて貧弱である。


「本当にそれでよろしいのですか?」

「じゃあどうしろって言うんだ? 何かマトモに奴と戦える作戦があるなら教えてくれ」

「それは……お恥ずかしながら思い付きません。しかし何もせずに逃げ出すというのは、ゲルマニアの名誉に関わることかと」

「そういう話か。最悪だな、まったく」


 イズーナに勝てる、もしくは撃退出来るなどとは誰も思っていない。今や考えるべきはどう負けるのが一番名誉に傷が付かないか、ただそれだけである。


「だが……名誉の為に兵士を無駄に死なせるのか?」

「時として名誉は命よりも重いものです。これはここにいる部隊だけの問題ではなく、帝国軍の名誉に関わることなのです」

「それは分かってるが……。いや、これまで自分で何人殺して来たんだ。今更何を善人ぶってる」

「閣下……」

「要は出来るだけ兵の犠牲を減らしつつ戦ってるフリをすればいいんだろう? なら考えはあるさ」

「はっ。その言葉をお待ちしていました」


 オステルマン中将はすぐに作戦の準備を始めさせた。イズーナの魔力は強大でありかなりの遠距離から察知出来たから多少の猶予はあったが、それでも15分程度で彼女は防衛線に到達した。


「閣下! 敵軍から通信が入っております!」

「敵軍って、一人しかいないだろうが」


 イズーナが直々に呼び掛けてきた。魔導通信機は人類史が始まったくらいから実用化されているので、彼女が扱えるのは全くおかしなことではない。オステルマン中将は早速通信を受けた。


「こちら、ゲルマニア帝国陸軍、オステルマン中将だ。この辺りを取り仕切っている」

『ゲルマニアの者、か。警告した筈だが、お前達は、ヴェステンラントからは、手を引かぬようだな』

「ああ。ここまでやって裏切るなんてあり得ない」

『そう、か。ならば、お前達もまた、私の敵だ。お前達は、殺させてもらう』

「そんな宣言をする為だけに通信を?」

『これも、警告だ。今すぐこの場から逃げ去れば、命は取らない。もちろん、アメリカ軍が押し寄せるが』

「ご丁寧にどうも。しかし、ゲルマニア軍人が戦いもせず逃げることはあり得ん!」

『ならば、覚悟を決めると、いい』


 通信は切れた。と同時に、オステルマン中将は命令を下す。


「全軍、対空戦闘開始及び、退避壕に入れ!」


 命令と同時に、塹壕の後ろに並べられた装甲車の対空機関砲が一斉に火を噴いた。と同時に、塹壕の兵士達は残らず塹壕奥の退避壕に隠れた。


「さあ、どう来る……」

「魔導反応増大! 攻撃が来ます!」


 魔導探知機が攻撃の予兆を僅かに捉えた途端、イズーナは竜巻のような炎を放った。炎は装甲車を狙い、狙われた装甲車は燃料に引火して次々と爆発していった。炎が去った後の装甲車は赤熱しており、イズーナの炎の凄まじさを物語る。炎の竜巻は塹壕を端から端まで薙ぎ払い、装甲車は一両残らず破壊された。


「おいおい、前より威力が上がってるじゃないか」

「そのようですね……。もしかすると、装甲車両が高熱に弱いと学習したのかもしれません」

「アメリカ軍とは訳が違うということか」


 ヴェステンラント軍の魔導弩に対応して、装甲車両は一瞬の高熱なら耐えられるが、長時間全体を熱せられるのは流石に想定していない。そうして燃料が加熱されて大爆発を起こしているのである。イズーナの炎は留まるところを知らず、戦車まで焼き付くし、破壊し尽くしたのであった。


「車両は全滅、か。流石は史上最強の魔女なだけあるな」

「ええ。我が軍の力では、とても対抗出来ません……」

「まあ誰も死んでないからいいんだが」

「作戦通りではありますね」


 破壊された戦車や装甲車は、実はもぬけの殻であった。イズーナの狙いを逸らすための囮なのである。つまり今のところは誰も死んでいないということだ。


「イズーナが、去っていきます……」

「ふう。塹壕自体は狙われずに済んだか」


 イズーナは目に付くものを全て破壊すると満足して姿を消した。塹壕の奥に身を潜めていた兵士は全て無事であった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
cont_access.php?citi_cont_id=959872833&size=300
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ