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人類決死艦隊Ⅱ

「第一次攻撃隊、突入を開始せよ! 敵艦を粉砕せよ!!」


 レーダー中将は喉がはち切れんばかりの声で命じた。敵艦隊の上空を旋回していた特攻隊が一斉に急降下を初め、瞬く間に2隻のイズーナ急に突入し、火炎となって消滅した。目標になったイズーナ級は原型を留めないほどに破壊されていた。


「これが、特攻の威力ですか……」


 クロエは呆然としながらその様子を見ていた。アメリカ軍にパクられたものとは言え、ヴェステンラントがその魔法技術の粋を凝らして設計したイズーナ級が一切の反撃も出来ずに一瞬で破壊されるとは。しかもそれに必要なのは僅かに数人の命。特攻への嫌悪感よりも現実的な脅威の方が、彼女の目には大きく映った。


「ああ。これがゲルマニアの技術力の極地さ」 「……今は、これが頼もしいですね」

「今は?」

「いえ、何でもありません。人類の存亡がかかっている戦いで、他のことを気にするべきではないでしょう」


 ゲルマニアはこれほどの技術を手にしている。ヴェステンラント海軍では全く手に負えない技術だ。この戦争が終わった後にその矛先がヴェステンラントに向けられたらと思うと、クロエは絶望的な未来しか予想出来なかった。


「続けて第二次攻撃隊、発艦せよ! 但し5機だけでいい!」

「はっ」


 敵艦は残り1隻。本当なら予備も合わせて10機を出撃させるところだが、特攻に飛び立って生きて戻ってくるというのはやはりよくない。中将は最低限必要な機体だけを出撃させ、そして彼らは立派に任務をこなした。


「諸君。人類の英雄達に、敬礼を」


 中将は散っていった者達に敬礼し、士官達もそれに従う。クロエもまた自然と敬礼をしていた。が、感傷に浸っている余裕は人類に残されていない。


「閣下、まだ多数の魔女が残っています。どうされますか?」


 防衛戦とは違い艦隊は前進するしかない。故に前方で漂っているアメリカの魔女達は非常に邪魔だ。


「ふむ……。こちらから仕掛けたくはないものだが、敵が全員死ぬまで待っているというのもな……」

「レーダー中将、こういう時こそ私達の出番ではありませんか?」


 クロエは中将にまた提案をした。


「先程も申し上げましたが、あなた方を不用意に消耗させる訳には……」

「消耗する前提だなんて、レギオー級の魔女というものに失礼ではありませんか?」

「そ、そのような意味では――」

「冗談ですよ。しかし、艦隊ごと敵に突っ込んで私達が迎え撃つ形ならば、問題はないのでは? こちらにはどんな傷でも治療する能力を持った青の魔女オリヴィアがいますから」


 レギオー級の魔女達に艦隊から離れて戦わせれば海に沈んで助からないこともあるかもしれないが、艦隊の上空で戦うのならばまず死ぬことはないだろう。


「承知しました。それではあなた方にお任せします。全艦、全速前進せよ!!」


 艦隊は進み始める。暫く進むと艦隊に気付いたのかアメリカの魔女達が一斉に飛んで来た。


「対空砲火を開始せよ!!」


 艦隊の前面にあるアトミラール・ヒッパーとプリンツ・オイゲンが対空砲火を開始する。針鼠のように並べられた対空機関砲と高角砲の射撃によって魔女はみるみるうちに数を減らしたが、それでも千以上の魔女が防空網を潜り抜けて空母部隊の上空に迫り来る。


「ふふっ、私の出番ですね。剣よ、奴らを刺し殺せ!」


 アメリカの魔女の前に立ち塞がるのはクロエ。クロエは無数の剣を作り出して魔女達に投げつける。正しく剣の暴風と言った有様で、魔女達はあっという間に壊滅する。しかしそれでも数百が生き延びて空母に襲いかかろうとした。


「おっと、そこは通さないよ」


 シグルズは甲板のすぐ上に布陣し、両手に機関砲を持って迫り来るアメリカの魔女を粉砕していく。


「シグルズ、殺し残しがいた」

「ああ、助かる」


 最後に残った数人を殺したのは黒の魔女クラウディア。氷の槍が飛行甲板から生え、魔女達を一人残らず串刺しにしていた。かくしてアメリカの魔女は一人残らず殺し尽くされ、人類軍の損失は皆無であった。


「流石はレギオー級……。確かに自ら打って出ようなどと言う訳だ……」


 艦橋からその様子を眺めていたレーダー中将。本気を出したレギオー級の魔女の力に圧倒されていた。


「こんな力があるのなら、特攻などせずとも、彼女達に任せればよいのでは?」

「……それも一理はあるが、いや、あくまで我々は攻め寄せてきた敵を迎え撃っているに過ぎない。こちらから仕掛けるのとは訳が違うだろう」

「そういうものでしょうか」

「守ることに成功したからと言って攻勢に出るのは愚かなことだ。方針は変わらない。特攻によって敵艦隊を殲滅しつつ、北上するだけだ。それに魔女達のような臨機応変に対応出来る戦力は、いずれ必要になるかもしれん」


 ルーズベルトの居場所が分かっても、何が待ち受けているか分からない。もしかしたら想像もつかないような大兵力が彼の守りを固めているかもしれない。そういった状況にも対応出来るレギオー級の魔女達の力は、可能な限り温存すべきであろう。

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