表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1071/1122

人類決死艦隊

 戦艦アトミラール・ヒッパーとプリンツ・オイゲン、空母鳳翔、蒼龍、飛龍の合わせて五隻の鋼鉄艦を中核とする艦隊は、王都を発って極北の地を目指す。ほぼ北ヴェステンラント大陸を縦断する航海であり、目的地に到達するまで少なくとも半月は要すると予想される。


 艦隊に所属するのは錚々たる面々である。レギオー級の魔女として白の魔女クロエ、黒の魔女クラウディア、青の魔女オリヴィア、大八洲の朔、そしてシグルズが参加している他、敵軍の襲撃に備えてガラティア軍と大八州軍の精鋭部隊1万が同乗している。万一にも隙のない人類最強の戦力と言っていいだろう。


 さて、艦隊旗艦を務める空母鳳翔は、ヴェステンラントとゲルマニアと大八洲の最高戦力がひしめき合う魔境と化していた。因みに艦隊総司令官はゲルマニアのレーダー中将である。魔女達にはあくまで実働戦力になってもらう予定なのだ。


「シグルズ、これで勝てると本当に思いますか?」


 クロエはシグルズに問う。


「敵の戦力は、特攻機の前には大したことない。勝てる筈さ」

「そうですか。しかし体当たりなんて、随分と頭のおかしい作戦を考えつきますね」

「……君は僕を非難したいのかな?」

「いえ、まさか。褒め言葉ですよ。実際あなたが特攻を実用化していなければ、人類には一縷の望みもありませんでしたからね」


 とは言いつつも、クロエの表情は暗かった。一体何を考えているのやら。


「ありがとうと言っておくよ」

「時に、妙なことに気付きませんか?」

「何だ、急に」

「私達のようなレギオー級の魔女が死ねば、その血族の者に魔女の力が受け継がれます。そこにいるオリヴィアなんかは、いい例ですね。ですが、世界最強の陰の魔女の力は、未だに誰にも受け継がれていません」


 始原の魔女イズーナとの戦いで殺された筈の女王ニナ。その魔法の力が強大なのはシグルズもよく知っている。


「……確かに。だけど、まだ幼い子供とかに受け継がれたんじゃないのか?」

「だとしても、あれほどの力にいきなり目覚めたら、私達なら気付けますよ。それすらないというのは不思議ですね」

「だったら、君達が認知していない王族の人間がいるか、或いは女王陛下が死んでいないか、どちらかというところかな?」

「前者とは考えにくいでしょうね。レギオー級の魔女の力は経験上、可能な限り血が近い人間に受け継がれます。そのような血統の隠し子など考えられません」

「隠し子くらいいてもおかしくはないと思うけどね」


 王族など大抵そんなものである。


「まあエウロパの王族ならそうかもしれませんが、私達にとって王族というのは、潜在的にレギオー級の魔女となり得る兵器なんですよ。そんなことはありえません」

「じゃあ、女王陛下は生きてるって?」

「それも信じ難いですが……それ以外に考えられません」

「なるほど。まあ確かに、エスペラニウムを取り上げて拘束してのが一番合理的だ。もしかしたら女王陛下を奪還出来るかもしれないね」

「ええ。そうなったら嬉しいです」


 極北の地に向かう目的が一つ増えた。と、その時であった。艦内に警鐘が鳴り響く。


「おや、これは?」

「恐らくは敵艦を発見したんだろう。僕は艦橋に向かうけど、君はどうする?」

「私も向かいます。私も、特攻を見届けるべきでしょう」

「分かった」


 艦橋は狭くあまり多くの人間がいくのも迷惑ということで、シグルズとクロエだけが艦橋に向かった。


「殿下? このようなところにご足労を……」


 レーダー中将は仕事を中断してクロエに挨拶するが、クロエはそれを制止した。


「私はただ、彼らを見届けに来ただけです。私のことは無視して下さい」

「……はい」


 クロエとシグルズは艦橋の端っこに立って、レーダー中将が用意した兵士が状況を説明してくれた。曰く、アメリカ軍のイズーナ級魔導戦闘艦を3隻、前方に確認したとのことである。そして同時に二人に双眼鏡を渡してくれた。二人は後は傍観するだけである。


「閣下、特攻隊の発艦準備が整いました」

「素早いな。第一次攻撃隊、発艦せよ!」


 素早く出撃の準備を整えた特攻隊は、レーダー中将の命令で発艦を開始した。魔法の補助を得ながらの発艦であり、迅速に10機の攻撃隊が飛び立った。


「あの、今更なんですけど、あのくらいなら私が沈めますよ?」


 と、クロエはレーダー中将に提案してみた。


「はい、存じております。しかしあなた方は人類の貴重な戦力。失う訳にはいきません。ですので、安全策を採らせて頂きます」

「これが安全策だと?」

「無論兵士は死にますが、精々数十人です。レギオー級の魔女と比べれば、誤差程度でしょう」

「……そうですか。指揮官としては、正しい判断でしょうね」

「ご納得頂きありがとうございます」


 ゲルマニア人の命には、確かに大した価値はない。オステルマン中将やオーレンドルフ幕僚長などの例外的な存在を除けば、幾らでも替えが利く存在だ。クロエ達を可能な限り前線に出さないというのは軍事的には正しい判断だろう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
cont_access.php?citi_cont_id=959872833&size=300
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ