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反撃の開始

 特攻作戦が大成功し、沸き立つ王都最終防衛線にて。流石にイズーナ級が完全に失われるのは想定外だったのか、アメリカ軍の攻勢も少しは和らいでいた。暫く暇になっていた第88機甲旅団の司令部に、見知らぬ人間が突如として姿を現した。


「やあ、第88機甲旅団のみんな」


 古代人のような質素な格好をした青年が、爽やかな声で挨拶しながら、旅団司令部に何の前触れもなく入って来たのである。


「誰だお前は!」


 オーレンドルフ幕僚長は目にも止まらぬ速さで剣を抜いて青年の首に突きつけ、遅れて周囲の兵士達も銃口を青年に突きつける。


「おいおい、どうしたんだ?」


 慌てて駆けつけ、兵士を掻き分けて現場に急行するシグルズ。すると青年が声をかけてきた。


「やあ、シグルズ、久しぶりだね」

「あなたは……大天使の……」

「覚えていてくれたみたいで嬉しいよ」

「まさか忘れる訳がありませんよ」


 シグルズをこの世界に転生させた大天使ルシフェル。夢の中でしか会ったことはなかったが、それが現実にも姿を現した。


「シグルズ様、お知り合いなんですか?」

「ああ、ちょっとね。知り合いの情報通さ。で、今日は何の為にこんなところに?」

「今日は君にいい情報を教えて上げようと思ってね」

「なるほど。聞かせてもらえますか?」


 シグルズは部下達に銃を下げさせ、ルシフェルは信用出来る相手だと説明した。ルーズベルトと同じ大天使ではあるが、人類に味方する方のマトモな存在であると。まあ本当に信用出来る根拠がある訳ではないのだが、シグルズがこの世界に転生したからずっと味方をしてくれているし、敵ということはないだろう。


「情報は、ルーズベルトの居場所だ。正確にはルーズベルトの本体、と言った方がいいかなな?」


 大天使ガブリエルの話によれば、この世界に現れるルーズベルトは言わば人形の様なものであって、その糸を操るルーズベルトの本体がどこかにあるらしい。


「んなっ、知ってたんですか?」

「いいや、つい最近に発見したんだよ。君達がミズーリを沈めたお陰で、ルーズベルトは戦艦を再び建造し始めた。まあこれは悪い報せだけど、そのお陰で、彼の居場所を探知することが出来たという訳さ」

「……取り敢えず、その場所と言うのは?」

「この世界では特に名前がない、ヴェステンラント大陸の北東にある巨大な島さ。その西海岸に、ルーズベルトはいる」


 地球で言うところのグリーンランド西海岸がルーズベルトの本拠地のようだ。まあアメリカ海軍が湧いてくる場所からして、ある程度予想出来たことではあるが。しかしそれよりも、ルーズベルトが戦艦を建造しているという話の方が気になる。シグルズはそれについてルシフェルに問うた。


「それについては、先に君達が沈めたミズーリと同じ形の戦艦が2隻、同時に建造されているよ。また1ヶ月くらいで完成するのではないかな」

「最高の報せと最悪の報せを同時に持ってきてくれましたね」

「ああ。僕は知っていることは全部伝えたよ。後は、君達人類次第さ」


 最後にそう言って、ルシフェルは颯爽と司令部を去っていった。


「し、シグルズ様、今の話は本当なんでしょうか……?」

「彼は嘘を吐くような人間じゃない。……まあ人間ではないけど。情報は信頼できる筈だ」

「これが敵の罠だったらどうするつもりだ?」


 オーレンドルフ幕僚長は厳しく問う。


「その可能性は確かに否定出来ないが、人類が持っている情報との矛盾はないし、これに賭けるべきだと思う」

「罠だったら、という仮定での話なのだが」

「その時は、人類は終わりさ」

「なら、そんな分の悪い賭けに出るのは非合理的だ」

「まあな。とは言え、人類にこれ以上いい手を打てるとは思えない」

「それはそうだが……」


 オーレンドルフ幕僚長が珍しく言葉に窮する。彼女とて他に現実的な手段など思い付かないのである。


「ともかく、この情報が人類の未来を左右することは間違いない。すぐに人類軍総司令部に持ち込むべきだろう」

「それについては異論はない。師団長殿、任せたぞ」

「お、おう」


 当然のように部下に仕事を押し付けられ、シグルズは何度目か分からないが王都ルテティア・ノヴァに向かった。


 ○


「――なるほど。大天使にルーズベルトの本体とは、馬鹿げた話ではあるが、今更何にも驚くことはあるまい」


 シグルズが報告すると、赤公オーギュスタンはすぐに理解してくれた。数々のあり得ない現象を目にしてきた人類は、もう何を言われても驚かないのである。


「はっ。ですので、人類の全力を挙げてルーズベルトを殺害することを提案いたします」

「確かに、今の我々には辛うじてアメリカ艦隊と戦う戦力がある。だが、ルーズベルトを殺せばこの戦争が終わるという確証は?」

「失礼ながら申し上げますが、逆に、他に何か手段がありましょうか?」

「ないだろう。どの道正攻法で勝利するのは不可能。ならば、それに賭ける他はないかもしれんな」

「特攻機を実用化したとは言え、アメリカ軍が無限に湧いてくる以上はジリ貧となることは避けられません。まだ人類に戦力が残されている内に、反撃に転ずるべきかと」

「…………分かった。ハーケンブルク城伯、君の作戦を採用しよう」


 人類はルーズベルトを殺すことに一縷の望みを託すことにしたのである。


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