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特攻の戦果

「続いて残りの5機、一気に突っ込め!!」


 5機ですら過剰であるとも思えるが、万が一にもイズーナ級を生き残らせる訳にはいかず、レーダー中将は再びこの数で特攻を命じた。次の標的となったイズーナ級もまた、特攻の圧倒的な破壊力によって完全に粉砕された。


「閣下、多数のアメリカ兵が漂流しているようですが……」

「放っておけ。アメリカ人などに助ける価値はない」

「はっ!」


 それなりのアメリカ兵が生存して海面を漂流していたが、他のイズーナ級はそれを助けようとする素振りすら見せなかった。やはりアメリカ軍に慈悲などは必要ない。


「続いて第二次攻撃隊、発艦せよ!!」


 鳳翔の甲板で待機していた特攻隊が発艦の用意を始める。が、その時であった。


「閣下! 特攻隊員で、出撃を拒否する者がいるとのこと!」

「何?  ……いや、それも当然か。普通の人間ならば、死んで来いと命令されて大人しく従えはしないだろう」

「どうされますか?」

「……私はその者に大いに同情出来る。だが同時に、秩序を乱すことは許されない。逃げることを許す訳にはいかないのだ」


 特攻は人類が制海権を奪還する現状唯一の手段である。故にレーダー中将は、特攻から逃げることを許す訳にはいかなかった。


「直ちにその者を銃殺せよ!」

「い、今ですか?」

「ああ。今すぐだ。今すぐ甲板の上で銃殺せよ! 逃げる者はこうなると、見せしめにするのだ……!」


 レーダー中将は拳を震わせながら命令した。そして彼の命令通り、命令を拒否した兵士は他の特攻隊員が見守る中で直ちに銃殺刑に処された。これはこれで本来の軍規からは外れるものではあったが。


「これでもう、職務を放棄しようとする者は出ない筈だ」

「え、ええ。そうでしょうね……」

「先程の者は、丁重に弔え」

「は、はっ!」


 レーダー中将は処刑した兵士を誰にも見えぬところで丁重に水葬して、せめてもの償いとした。そして同時に、第二次攻撃隊は発艦を開始する。


「先程と同様、5機ずつの編隊で攻撃を仕掛けるぞ」

「か、閣下! 敵の魔女が出てきました!」

「流石にやられっぱなしにはなってくれんか」


 残る二隻のイズーナ級の上空に半球状に展開するアメリカの魔女。特攻機を迎え撃つつもりのようだ。


「構うな! 魔女に特攻機を落とすことなど出来ん! 突入せよ!」


 特攻機が突入を開始すると、アメリカの魔女は各々の手段で攻撃を開始する。しかし特攻機の圧倒的な速度にはまるで追い付けず、攻撃はほとんどが特攻機の遙か後方に飛んで行った。僅かに攻撃が掠ろうと、特攻機の運動エネルギーを打ち消すことは不可能だ。


 レーダー中将が命令を下してから僅かに20秒程度で、5機の特攻機は同時にイズーナ級に突入した。その進路に立ち塞がった魔女はプロペラによって体を粉々にされ、イズーナ級は爆発によって木っ端微塵になった。


「お、おお……。魔女の迎撃が全く効かないとは……」

「あれほどの速度で動く物体を止めるなど、戦艦の主砲弾を真正面から当てでもしない限り不可能だろう。……最後のイズーナ級を沈めるのだ!」

「はっ……!」


 アメリカの魔女は肉の壁を以て特攻機を食い止めようとしたが、案の定全く意味はなかった。最後のイズーナ級もまた軽々撃沈され、アメリカの輸送艦隊は完全に殲滅されたのである。


「しかし閣下、敵の魔女がまだ多数残っているようです。如何されましょうか?」

「魔女の航続距離では、ここまでは辿り着けん。いずれ勝手に落ちて溺れ死ぬだろう」


 空母は元より双眼鏡でやっと敵の姿が見えるほどの距離から攻撃を行っている。普通の魔女にこの距離を飛んでくるのは不可能だ。レーダー中将の思った通り、寄る辺を失ったアメリカの魔女達は沈没船の周囲をウロウロと飛んでいると、やがてエスペラニウムを使い果たして墜落し、尽く溺れ死んだのであった。


 かくしてゲルマニア軍は、僅か20人の命を生贄に、2万人以上のアメリカ兵を殺すことに成功したのである。


「作戦は、成功したな。それだけは本当に良かった。これよりは、ゲルマニア本国とヴェステンンラント大陸との連絡が再び可能になるだろう」

「はい。ほんの僅かな犠牲だけでこれほどの大戦果を上げられたのです! 素晴らしい戦果です!」

「そうだな。統計的に見れば、我々は遥かに少ない犠牲だけで勝利を得ることが出来た。これは許されることなのか……?」

「人の犠牲を可能な限り少なくするという意味では、こちらはほとんど無犠牲に近い損害で勝てましたが……」

「1千人に死ねと命じることと、100万人に1割が死ぬ作戦を命じるのと、どちらが人の道に適っているのだろうな」


 後者の方が人間は100倍死ぬが、普通の人間が嫌悪感を抱くのは前者だ。人間の価値基準とは甚だ非合理的なものである。


「さ、さあ、それは何とも……」

「私も何も分からんよ」


 レーダー中将は人道的という言葉の定義が全く分からなくなってしまったが、そんなことで立ち止まる訳にはいかない。シャルンホルストとグナイゼナウが失われた今、これからも特攻を命じ続けて制海権を維持しなければならないのだから。


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