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反体制派の策動

「これで全部かね」

「はい。頼もしい同志達です」


 全員が全員やたら派手な衣装を着た円卓に、ルートヴィヒは参加する羽目になっていた。まあそれも当然であろう。ここにいるのはかつての栄光に縋り付いている貴族達なのだから。


「おお、貴方はあのルートヴィヒ陛下にあらせられますか?」

「ああ、そうだが」

「お会い出来て光栄です、陛下。陛下が我々に手を貸して下さるのであれば、勝利は決まったようなもの!」

「私は負けたのだがな。何を期待しているのだ」

「ヒンケル総統と剣を交えた人間など、陛下を置いて他にはおりません! 今度こそは勝てますぞ!」

「そうかそうか。まあ味方すると言った以上全力は尽くすが」


 どうやら反体制派の貴族達の間でルートヴィヒは英雄になっているらしい。敗軍の将を英雄に祭り上げなければならないとは、彼らの人材も最初から払底しているようだ。ルートヴィヒは円卓の一角に座り、早速作戦会議を始めることにした。


「では諸君、まずは諸君の計画を聞かせてくれたまえ」

「計画、ですか。それは無論、各地の民衆を糾合して帝都に攻め込み、ヒンケル総統を打ち倒すことです!」


 ファーレン伯爵は勇ましく言うが、ルートヴィヒは何を言うべきか暫く考え付かなかった。


「…………君、まさかそれだけではないだろうな?」

「これ以上、何か計画が必要でしょうか?」

「はぁ……阿呆なのかね、君達は。帝都に真正面から突っ込んでも親衛隊に潰されるだけだ。親衛隊が擁する装備は強力であり、大した武器も持たない民衆では、何百万人で攻め込もうと一方的に殺されるだけだ。そんなことではただ無意味に数知れぬ人間が死ぬだけであろう」

「も、申し訳ありません……」


 こんな連中でも財力と権威を持った連中だ。やろうと思えば数十万の人間を動員して蜂起を起こすことも出来るだろう。ルートヴィヒは自分がこんな連中の手網を握れたことを幸運に思った。


「率直に言って、君達は戦争の素養がなさ過ぎる。なので、私が作戦を考えてやろう」

「流石は陛下……!」

「まず状況を確認しよう。現状、帝国軍の大半は国外におり、国内の守備は相当手薄になっている。だが、そうは言っても国内に50万は予備隊がいるし、親衛隊も10万はいる。民衆の蜂起など簡単に粉砕されるだろうな」

「で、では、諦めよと仰るのですか?」

「そうは言ってはおらん。彼らは確かに数は多いが、一方で各地に分散しているのも事実。各都市に配備されているのは精々数千の兵力であろう」

「では、各個撃破するということですか?」

「我々に全国に展開させられる部隊があるのならばそれがよいが、そんな戦力はないだろう?」

「え、ええ……」

「だから、我々の取るべき作戦はこうだ。まず各地の都市で可能な限り民衆を扇動し、軍と親衛隊を釘付けにする。これはあくまで陽動であり、戦わせるつもりはない。そうして全国に敵の兵力が分散したところで、精鋭部隊を以て敵の基地を襲撃し、敵の兵器を奪取するのだ。そして親衛隊と伍する武装を手に入れたところで、精鋭部隊で帝都を襲撃し、ヒンケル総統を拘束する。どうだね?」

「精鋭部隊、というのは……」

「君達も貴族なのだったら私兵くらい持っているだろう。何の訓練も受けていない民衆よりは幾分かマシだ」

「なるほど……」

「ともかく、まずは各地で民衆を組織し集会を起こすのだ。それと同時に、使える人間を掻き集めて我々の軍隊を創る。分かったか」

「はっ!」


 ルートヴィヒの提案は何の反論もなく承認された。それだけ考えがなかったということだろうか。


 ○


「我が総統、新たにミェーナで民衆が示威行動を起こしました。今回も抗議活動に留まっているようです」

「これで10件目だな……。死者が出ていないからいいものの、こんな調子では帝国が機能不全になるぞ……」


 ルートヴィヒの策謀により各地で起こったヒンケル総統への抗議活動は、日に日に規模が増して場所も増えている。


「我が総統。連中を排除するご許可を我々にお与え下さい。これ以上たかられるのは不愉快です」


 カルテンブルンナー全国指導者は武力を以て排除することを訴えるが、ヒンケル総統は向こうから攻撃してこない限りにおいて、断じて許可を出さなかった。


「――何故ですか? 彼らはものの道理も分からぬ愚か者共。帝国には全く必要のない存在です」

「全ての人間が支持する政府など存在し得ない。私を嫌う人間がいるのは当然だ。そしてそのような者であっても、ゲルマニア臣民として認められなければならない」

「そこまで仰るのなら、全員強制収容所に送りましょう。それならば如何ですか?」

「収容所が足りんだろう。私は前にも言ったが、彼らの気持ちも分かるのだ。民衆に被害が及ばない限り、今は放っておけ」

「彼らの気持ちですか。私には理解しかねます」

「だったら、命令だ。親衛隊は万一に備えて監視を続け、それ以上は手を出すな」

「……承知しました、我が総統」


 ヒンケル総統は抗議活動が暴徒化した際に民衆を守ることを親衛隊に期待し、主要都市に完全武装の親衛隊を配置させた。それはルートヴィヒの期待通りの行動であった。

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