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内戦の気配Ⅱ

「き、君は、何をやっているんだ!!」


 ヒンケル総統は激昂した。総統が感情に任せて声を荒らげるなど、社会革命党の古参党員ですら見たことがない。それほどまでに親衛隊の行為に激怒していたのだ。対してカルテンブルンナー全国指導者は不思議そうに問い返す。


「何をと仰りましても、私はただ我が総統と我が国に害を為す害虫を駆除しただけです。生きるに値しない命を削減しただけですよ」

「限度というものがあるだろうが! 武力行使にも至っていない群衆を一万人も殺すなど、余りにもやり過ぎだ!!」

「やり過ぎ、ですか。私には理解しかねますな。害虫駆除をして、死んだ蟲の数を気にする者がどこにおりましょうか?」

「君は…………」


 ヒンケル総統はこれ以上の議論が無意味だと察した。カルテンブルンナー全国指導者とはそういう男だ。彼にとってヒンケル総統に逆らう者は全て、蟲にも劣る存在なのである。


「ならば、私が命じる。これから先、親衛隊は自身の身に危険が及ばない限り、民衆を殺害することは認めない。分かったか?」

「我が総統が命じられるのならば、もちろんです」


 全国指導者は同時に、ヒンケル総統の命令であれば何でも何の疑いもなく受け入れる男である。総統が命じれば自殺することも厭わないであろう。


「その上で、親衛隊には引き続き、国内の不穏分子の監視を命じる。明確な動きがあれば逮捕しても構わんが、さっきも言った通り、くれぐれも不必要に人を殺すな」

「はっ。承知いたしました。それでは私は、親衛隊の業務に戻らせて頂きます」

「ああ。頼んだぞ。嫌な予感しかしないが……」


 これまでも暴徒に発砲することは何度かあったが、今回は犠牲者の桁が違う。一体ゲルマニア臣民はどのような反応を示すのか、ヒンケル総統は悪い予感しかしなかった。


 ○


 ACU2316 6/27 レギーナ王国 王都ベルディデナ


 かつてゲルマニアを真っ二つに引き裂く内戦を起こした男、レギーナ王国の前国王ルートヴィヒ。今は王都の郊外でひっそりと年金暮らしをしている。そんな彼の許に使者が訪れた。使者はファーレン伯爵を名乗った。


「――察するに、先の帝都での大虐殺の件だろう?」

「は、はい。まさしくその通りです。今、ゲルマニア臣民の心は過去に例のないほどヒンケル総統から離れております。これが恐らく、ヒンケル総統から政権を奪取する最後の機会でしょう。今こそ我々のような反体制派の力を結集し、戦うべきでなのです」

「私にその統領になれと言うのか?」

「はい。かつてゲルマニア内戦を戦った陛下こそ、我々を率いるに相応しいお方です。再び陛下の采配を我々にお見せ頂きたいのです」

「君の言葉は全く予想通りでつまらんな」

「そ、それは……」

「冗談だ。そして私がその仕事を引き付けるかについてだが……論外だ。人類一致してアメリカと戦うべきこの時に内乱を起こそうなど愚の骨頂。ゲルマニア人がヴェステンラントの為に死ぬのが嫌だと言うのに、ゲルマニア人同士で殺し合ってどうするのだ!」


 本気で社会革命党を打倒しようとすれば、何十万という人間が死ぬだろう。それでは何の為にヒンケル総統を倒そうとしているのか分からない。ルートヴィヒはもうこんな矛盾に付き合うのは御免だった。


「も、申し訳ありません。ですがこれで勝てば、陛下もレギーナ国王に返り咲くことが出来るのですぞ」

「国王の地位など、私にはもう必要のないものだ。我が民が平穏無事に暮らせるのであれば、私はどうなっても構わぬ。それ故に、我が臣民達を再び戦火に巻き込まんとするお前達に手を貸すなど出来ぬ」

「左様ですか。しかし、例え陛下が手をお貸しくださらなかったとしても、我々は行動を起こします。その時にはこのレギーナ王国も、大なり小なり戦に巻き込まれることでしょう」


 伯爵は暗い声で言う。


「君は、私を脅迫しているのかね?」

「まさか、そのようなことは。ただ陛下にご忠告をと思いまして」

「ふっ、まあ、それは本当なのだろうな。そして私がお前達の提案を受ければ、自分で状況を制御出来ると」

「はい。無論、それでもレギーナ王国に危害が及ぶこと自体は避けられないでしょうが……」

「まったく、君は詐欺師の才能があるな。だが、いいだろう。お前達に我が臣民達が傷付けられる位なら、己が手で傷付けた方がマシだ」

「そ、そうなのですか……」

「さて、では君達の拠点か何かがあるのだろう? 案内してくれたまえ」

「はっ。とは言っても、私が私有する館ですが」

「君は結構偉い人間なのか」

「ええ、まあ、一応。私が反体制派貴族の纏め役をしております。陛下に伝令を寄越すなど失礼かと思いまして」

「自らの身の危険を顧みないのは、愚かだからか覚悟が決まっているからか」

「覚悟の表れとお思いください」

「まあ、君が本気だということはよくわかった。君達ならば確かに蜂起を起こすことも出来るのだろう。放ってはおけないな」

「ありがとうございます」

「では、行こうか」


 かくして元レギーナ国王ルートヴィヒは、再び反体制派の指導者となったのである。

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