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ルーズベルトの罠

「イズーナはどこにいるんですか?」

「そこまでは僕にも分からない。北の方にいるのは分かるけど」

「そうですか。シグルズ、イズーナが本当にいるのなら一大事です。一緒に確かめに行きませんか?」

「…………そうだね。僕が行った方がいいだろう」


 地上の戦闘はオーレンドルフ幕僚長に任せ、シグルズはクロエと共にイズーナを捕捉しに行くことにした。これはレギオー級の魔女にしか出来ない役目である。二人が気配の強くなる方向を目指して進み続けると、やがて黒い外套を纏った人影が一人で空を飛んでいるのを見つけた。飛んでいる方向は案の定、王都に向いていた。


「間違いありません。イズーナですね」

「ああ。クロエ、どうする?」

「どうしましょうね。先制攻撃でもしますか?」

「攻撃したところで回復されるだけだ。ここは一度交渉でもしてみるのはどうかな?」

「交渉、ですか。まああなたがやりたいのなら、私は止めませんよ」


 単純な力でイズーナを止めるのが不可能なことは、シグルズもクロエも痛感していた。まだ交渉してみる方が現実的な選択肢なのである。二人がイズーナに近づくと、彼女はそれに気付いて足を止めた。


「僕達はまだ眼中にはあるみたいだね。おーい! イズーナ! 話をしないか!」

「私と、話を? 何を、考えている?」

「君が何をしに来たのかを聞かせてくれないか?」

「私は、ルテティア・ノヴァで、お前達に話をしに来た。だが、その手間も省けるか」

「君が話を? 一体何の話をするつもりだ?」

「私は、私を殺した者を全て、この世界から消し去る。それはヴェステンラントも、アメリカも同じ。なれば、ヴェステンラントさえ滅びれば、それ以上の人間を殺すつもりはない。私がアメリカを滅ぼし、人類は、救われる」

「そう伝えれば人類はヴェステンラントを見捨てると思ったんですか?」

「人類は、所詮、自分のことしか見てはいない。ヴェステンラントを犠牲に自らが助かるのであれば、そうするであろう」


 イズーナの目的はヴェステンラントとアメリカを滅ぼすことであって、それ以外に興味はない。ヴェステンラントに手を貸す限りは人類軍は殺戮の対象であるが、手を引くのであれば最早敵対する理由もない。ヴェステンラントを見捨てるのであれば、諸国はアメリカの脅威からも解放され、平和を手に入れることが出来るのだ。


「まさか。そんなのはあり得ませんよ。正気で言ってるんですか?」

「それを決めるのは、ヴェステンラント以外の人間。お前ではない」

「……話が通じない人ですね」

「私はこれより、王都に向かい、人類にこれを、布告する。邪魔を、するな」

「シグルズ、どうしますか?」

「彼女が嘘を言っているようには見えない。ここは素直にご案内しよう」

「分かりました」


 イズーナが仮にも戦意を放棄している今、下手に刺激するのは得策ではない。そしてとっとと帰ってもらう為にも、シグルズは自らイズーナをノフペテン宮殿に案内することにした。クロエに先に行って事情を伝えてもらったとは言え、宮殿の大会議室、人類軍最高司令部に突然、始原の魔女が現れたのだ。


 最初にイズーナを出迎えたのは、人類軍最高司令官の赤公オーギュスタンであった。


「これはこれは、我らが家祖にして始原の魔女、イズーナ様にあらせられますか。この目であなた様を見ることが出来、恐悦至極に存じます」


 オーギュスタンは恭しく挨拶するが、イズーナは取り合う素振りも見せなかった。


「そうか。お前が、人類を率いているのか」

「はい。あくまで我が国が戦場である以上、我が国の人間が総司令官となるのは必定かと」

「他の国の者は?」

「こちらに」


 オーギュスタンは征夷大将軍晴政やローゼンベルク大将や皇帝アリスカンダルをイズーナに紹介した。彼女の時代にも大八洲やゲルマニアやガラティアは存在していた訳で、事情を理解してもらうのに大した時間は必要なかった。


「そう、か。ならば私は、ここで宣言しよう。大八洲の者、ゲルマニアの者、ガラティアの者よ。お前達がヴェステンラントから兵を退けば、私は、お前達の敵ではない。ヴェステンラントが滅んだ暁に、私はアメリカを滅ぼし、お前達は、安寧を手に入れるだろう」

「ほう。確かに面白い提案だ。大八洲にとっては、それが最も良き策であろうな」

「晴政様……!」


 晴政がまた不謹慎なことを言うのを、源十郎は止めようとする。口にしないまでも誰もが晴政の正気を疑った。しかし晴政は不敵に笑う。


「だが、俺は一度盟約を結んだ者を裏切るつもりはない。お前も裏切りは嫌いだろうに」

「……確かに、裏切りは、嫌いだ。だが、大八洲にヴェステンラントは、救う義理はない、筈だ」

「まあな。とは言え、流石にここまで来て寝返るのは気に食わん。よって、大八洲は引き続き、ヴェステンラントと共に戦う」

「……そうか。まあ、いい。私は、しかと伝えた。よく考えるといい。ゲルマニアの者も、大八洲の者も」


 そう言い捨ててイズーナは王宮を去った。ゲルマニアとガラティアは選択を迫られている。

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