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王都最終防衛線

 火炎放射器は塹壕から這い出したアメリカ兵も塹壕の中にいるアメリカ兵も焼き尽くす。もちろん彼らの弩による攻撃も通用しない。塹壕という物理的な障害を挟めば火炎放射器は依然として強力な兵器である。


「塹壕線周辺の敵兵は一掃しました。残りの敵はまだ突っ込んでくるようです」


 近くにいたアメリカ兵は全員焼き殺したが、アメリカ軍は変わらず行進を続ける。


「分かった。火炎放射器は攻撃止め。銃弾で応戦する。歩兵を前に出してくれ」

「はっ!」


 火炎放射器は射程が短い。火炎放射器の射程内にいる敵が粗方死んだところで、攻撃手段を切り替える。即ち、戦車の同軸機銃と歩兵隊の突撃銃による攻撃である。統制の取れた射撃により、アメリカ兵はみるみるうちに数を減らしていった。


「敵兵、残り5千ほどです。このままで殲滅出来るかと」

「よし。このまま攻撃を続けろ」


 激しい射撃はアメリカ軍の前線を押し返す。アメリカ兵の死体で山が出来上がった。ゲルマニアの最高戦力である機甲旅団に正面から挑むなど自殺行為なのである。が、その時、ヴェロニカは警告を発した。


「シグルズ様、敵の魔女です! 空から追加で3千ほど来ます!」

「まだ残ってたか。全軍、対空戦闘用意!」


 装甲車の四連装対空機関砲が魔女に狙いを定める。しかしその魔女らの様子はいつもと違った。


「師団長殿、あれを見ろ。敵の魔女は盾を持っているようだぞ」


 オーレンドルフ幕僚長が真っ先に気付いた。空飛ぶ魔女達は全員が大きな盾を持ち、自身の体を覆い隠している。盾は地面に向けられ、明らかに人類軍の対空砲火を意識しているようであった。


「盾、か……そいつは厄介かもしれないな」

「だ、大丈夫なんでしょうか……」

「ゲルマニア軍に選択肢は一つしかない。全対空機関砲、射撃開始!」


 対空機関砲が一斉に火を噴き、人体など簡単に破壊する砲弾を数千発、一気に叩き込む。しかしその攻撃はアメリカ軍の持つ盾に阻まれてしまった。


「き、効いていません!」

「友軍、攻撃を受けています!!」

「クソッ……」


 アメリカ軍は盾の間から歩兵達に攻撃を開始した。戦車の陰に隠れる兵士達も空からの攻撃には無防備も同然。空から降り注ぐ数々の攻撃に一方的に殺されてしまう。


「地上部隊に反撃を――」

「師団長殿、やめておけ。誤射で兵士が死ぬぞ」

「クッ……」


 無秩序に対空戦闘を行えば、上空に放たれた銃弾が落ちて来て兵士達を殺傷しかねない。シグルズはアメリカ軍の攻撃に対して何も命じることが出来なかった。


「ならば僕が出る! 後のことは任せたぞ、幕僚長!」

「分かった」

「シグルズ様!?」


 この状況を打開出来るのは魔女だけだ。シグルズは不本意ながら自らの魔法で戦うことにした。シグルズは指揮装甲車を飛び出して一気に高度を上げ、アメリカ軍の魔女達より更に上に陣取る。


「機関砲は……下に味方がいる。剣でやるしかないか」


 銃を使っては味方を撃つことになってしまう。シグルズは両手に剣を作りだし、アメリカ軍に斬りかかり、地上への攻撃に夢中でシグルズなど目に入っていないアメリカの魔女達の首を近くにいる者から順に斬り落とした。いきなり空から生首が落ちて来るのは我慢してもらうしかないだろう。


「クソッ……対空機関砲が効かないのがこんなに面倒だとは思わなかった」


 だが数が多過ぎた。たった一人の手で数千の敵を殺し尽くすのは到底間に合わない。が、その時であった。数十本の剣が飛んできて、シグルズの周囲にいるアメリカの魔女達を串刺しにしたのである。


「クロエか?」

「ええ、そうですよ、シグルズ。ご無沙汰ですね」


 白の魔女クロエ。彼女の魔法ならば精密に敵を狙って刺し殺すことが出来るだろう。弾丸を撒き散らすことしか出来ないシグルズと比べればなかなか便利な能力である。


「腕を一本失ったって聞いていたけど、大丈夫なのかな?」

「まあ、腕の一本くらい大したことはありません。日常生活程度の魔法ならば、どんな種類でも使えますから」

「ならよかった。助けてくれるか?」

「もちろんです。その為に来たんですから」


 クロエが笑みを浮かべながら魔法の杖を構えると、たちまち魔女が100人は死んだ。


「では、レギオー級の魔女の力、お見せしましょう」

「僕も頑張るよ」


 クロエは更に多くの数百の剣を作りだし、アメリカ兵に次々と突き刺した。どうやら地上の兵士に危害が及ばないように切れ味は控えめになっているようである。クロエの圧倒的な魔法には及ばないが、シグルズも拳銃を出して魔女を一人一人撃ち殺していった。


「終わった……。魔女には魔女をぶつけるのがいいってことか」


 アメリカの魔女は全滅した。その死体が第88機甲旅団に降り注いだのは不愉快であったが、戦闘に支障はない。


「何ですか、シグルズ?」

「何でもないよ。ともかく、助かった。感謝する」

「今は味方同士なんですから、当然のことですよ」

「それもそうか」


 が、その時、シグルズは強力な気配を感じ、遥か彼方を睨みつけた。


「シグルズ、どうしたんですか?」

「イズーナだ。彼女が近くにいる」

「なっ……そ、そうですか」


 今や誰も止められない最強の魔女イズーナが、近くに来ている。

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