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王都の危機

「敵コホルス級魔女隊、全滅。しかしながら我が方の不死隊も、生き残っているのは僅かに600ほどです」

「そうか……勝てたのならば、それでよい」


 アリスカンダルも流石に平然とはしていられないようだ。不死隊という最も信頼出来る部隊が壊滅してしまったのだ。


「陛下……」

「これで、邪魔な者は全て滅した。後は心いくまで、ファランクスの力を見せつけてやろうではないか」

「はっ……」


 騎兵も魔女も、ファランクスに有利な存在は全て殲滅した。これからは彼らの独壇場である。


「さあ、全軍、アメリカ兵を皆殺しにしたまえ。情け容赦は不要だ」

「はっ!」


 かくしてガラティア軍は総攻撃を開始した。包囲や挟撃をする知性のないアメリカ軍はファランクスに真正面から激突し、一矢を報いることも剣を交えることも叶わず、半日ほどの戦闘の末に殲滅されたのであった。


「敵軍、全滅しました……。まさか本当に、100万の敵を殲滅出来るとは……」

「よくやってくれたな。皆には褒美を取らせねば」

「しかし陛下、ファランクスも無傷ではありません。1万は失われたかと」

「敵はその100倍死んだのだ。何も問題はない」

「はっ」


 結果を見れば圧倒的な大勝利であった。アメリカ軍の主力部隊を一日で完全に殺し尽くしたのだから、これはアメリカ軍にとっても大きな誤算であるに違いない。とは言え、ガラティア軍が失ったものもまた多かった。


「だが……不死隊が失われてしまった。次にアメリカ軍が魔女を投入してきたら、我が軍の壊滅は避けられないであろう」


 制空権を握った側に勝利があるというのは、この世界でも常識である。特に対空戦闘能力がないファランクスは、空からの攻撃には一方的に殴られるしかないのだ。


「それは……」

「まあ、その時はその時だ。その時に何か策を練ろう。今は全軍を休ませる時だ」


 ガラティア軍はルテティア・ノヴァに帰還した。しかしアメリカ軍の脅威は全く衰えることはなかった。


 ○


「殿下の予想された通り、アメリカの大艦隊が最終防衛線に向けて航行しています。このままでは、数十万のアメリカ軍が最終防衛線に上陸することになるかと……」

「そうか。報告ご苦労」


 ガラティア軍勝利の報を受け少々気分が上がるのも許されず、赤公オーギュスタンはこのような報告を受け取った。人類軍は現在大陸東海岸に沿って撤退作業を行っている。人類最終防衛線の西側がアメリカ軍に突破されたからであったが、ついに東側もダメになりそうである。


「オーギュスタン、如何にするつもりだ?」


 晴政はオーギュスタンに問う。


「アメリカ軍が襲来するまでもう暫し時間があり、かつ人類軍の撤退は順調です。恐らくは間に合うでしょう。ですが問題は、先のような大群が再び王都に押し寄せてくることです」

「であろうな。しかし防衛線を捨てるのであれば、我らが動けるぞ」

「ふむ、確かに」


 人類軍(主にゲルマニア軍)の撤退が完了すれば、アメリカ軍を食い止め友軍の撤退を支援している大八洲軍が自由になる。王都を防衛する戦力はまだそれなりに残されている訳だ。


「ではその時は、お願い申し上げます」

「構わぬ。とは言え、王都を守ったところでどうにかなる訳でもないがな」

「晴政様、そのようなことは――」


 晴政の言葉を片倉源十郎が阻む。だがオーギュスタンは逆に源十郎をこそ制止した。


「よいのだ。王都を守る理由はアメリカ軍が王都に寄ってくるからだが、守りきったところで何かが起こる訳でもない」


 アメリカ軍は人の多いところに集まる。王都は格好の標的だろう。故に王都を保持することは、アメリカ軍の動きをある程度制御することに繋がるのだ。もっとも、だからと言って全く根本的な解決にはならないが。


「はっ。出過ぎた真似をいたしました」

「しかしオーギュスタン、これから如何にするつもりだ」

「まずは王都を守り、その次はミズーリを沈めねばなりませんな」

「それはそうだな。しかし、ミズーリを沈めたとて次の戦艦が出て来ぬとも限らんし、また次のアメリカ軍がここを攻めてくるだろう。それをどうするつもりだ?」

「一つ希望があるとすれば、ルーズベルトを殺すことでしょう。しかし、ルーズベルトは神出鬼没であるばかりか、殺しても死なぬと聞きます。どうしようもありませんな」

「そうか。まあ、お前に思い付かぬのならば、俺にも思い付かん」


 根拠はないが、ルーズベルトを殺せば何とかなるという希望に縋るしかなかった。しかしその希望の糸もどこに垂れているのやら。


「そんな先のことを考えている余裕は、我々にはありません。人類が何かをする時間を得る為に、アメリカ軍を撃退し続けるしかないのです」

「分かった。王都のことは我らが何とかするが、ミズーリはどうするつもりだ?」

「さて、どうしたものか。ゲルマニアの戦艦で敵わないのであれば、我々にはどうしようもありません」

「何とかせよ。お前はヴェステンラント一の謀将なのだろう?」

「そう言われましてもな。考えはしますが」

「頼んだぞ」


 ミズーリを沈めない限り、時間稼ぎすら覚束ない。人類の急務はこれを沈めることである。


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