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制海権の喪失Ⅱ

「では我々は、ただミズーリに怯えて過ごせと言うのか?」

「何とかして撃沈する方法を考えろってことですか?」

「当たり前だ。制海権が失われることは、我々にとって最悪の事態ではないか」


 遥か海の彼方で戦うゲルマニア軍にとって、海上補給路は唯一の命綱である。これが切断されれば、ヴェステンラント大陸の兵士達は日々の食料にすら事欠くことになるだろう。


「そうだねえ……ちょっと考える時間をくれないかな?」

「構わん。暫くはミズーリを沈める方法だけを考えていてくれたまえ」

「無茶な要望を……。まあ、分かりましたよ」


 ライラ所長はこれを検討すべく、総統官邸を去った。


「しかし、ライラ所長とて恐らくは、今すぐにミズーリを撃沈する手段など思い付かないだろう。思い付いたとしてもすぐに実行出来るとも思えん。暫くは、帝国本土とヴェステンラント大陸の連絡は切断されるものと見ていいだろうな」

「はい。そうなれば、ヴェステンラントの食糧生産能力では、我が軍の消費量を支えることは出来ません。遺憾ながら、ある程度の部隊を撤退させる必要があるかと」


 フリック大将は言った。


「しかし、どうやって撤退させる?」

「ミズーリは恐らく、ヴェステンラント大陸の西側までは行かないでしょう。大陸の南端を遥々回るしかありませんからな」


 南北ヴェステンラント大陸の中央には大陸を貫く運河があるが、ミズーリが強行突破しようとすれば爆破してでも食い止める。


「では、西に脱出させるということか」

「はい。世界を反対周りに一周してここまで戻って来てもらう他ないかと。いずれにせよ、事態は急を要するかと思われます」

「……分かった。その方向で手配を頼む」

「はっ」


 流石に地球を一周して補給を届け続けるのは無理がある。どうやってもゲルマニア軍の数は減らさざるを得ないだろう。


「そして、シャルンホルストが失われたということは、人類最終防衛線が海からの攻撃に無防備になってしまったということだな?」

「そうなります。我々が最も恐れた事態です。まあ人類最終防衛線は既に放棄が決まっているのが、せめてもの救いですが」

「上手く撤退出来るのか?」

「それについては、オーギュスタン殿の手腕次第かと」

「ならば、心配することはないか」

「ええ、まあ。とにかく今は、最善を尽くすしかありません」


 ゲルマニアに出来ることは、ライラ所長が何かいい作戦を思い付くのを祈るくらいであった。


 ○


 いい案がなかなか思い付かないライラ所長は、遥か遠くのシグルズに通信をかけた。アメリカ軍への対処で忙しいのは分かっているが、何とか繋いでもらった。


『はい、こちら、ハーケンブルク中将です』

「あー、シグルズ。久しぶりだね」

『あんまり時間がないので手短にお願い出来ますか?』

「ごめんごめん」


 ライラ所長はシグルズに事の顛末を説明した。


『ミズーリ、ですか……それは面白い敵ですね』

「どうにかして沈める方法はないかな?」

『今から新しい戦艦を建造していたは何年かかるか分かりません。今ある武器で通用しそうなのは、爆撃機でしょうね。航空機の力があれば、戦艦とて沈められるかと』


 爆撃機が水上艦艇に対して有効な戦力であることは、既に大八洲が証明している。


 ○


 その頃。大陸東側の制海権を喪失し、どこからでも上陸される可能性に晒されたヴェステンラントは、その対処を考えなくてはならなかった。


「――我々に出来ることは、敵の動向を監視し、どこに上陸する気かを可能な限り迅速に把握することだけだ。偵察部隊はこれまでより多く出し、絶対に敵の動向を見逃すな」


 オーギュスタンはこのように命令した。


「しかし、海上にはミズーリがうろついているのでは……?」

「ああ。しかし、敵は一隻だけであり、かつ、これは予想だが、ミズーリは我々の運用するような小型船と戦うことを想定していない」


 地球で言うところの駆逐艦の更に4分の1ほどの全長しかないヴェステンラントのガレオン船は、ミズーリが想定する敵ではない。その艦砲で狙い撃つことは困難であろう。それがオーギュスタンとライラ所長の合意した見立てである。偵察ならば大きな支障なく行うことが可能ということだ。


「――なるほど」

「しかし、敵が上陸してくる場所が分かったところで、一体どうすれば……」

「その時は別個に考える。ともかく、今は王都の防衛が最優先だ。現況は?」

「はっ。現在、北方より迫る敵勢およそ100万は、ここより北およそ30キロパッススを南下しております。その他特に目立った動きはありません」

「人類最終防衛線の様子はどうか」

「第五戦区からは、定時連絡以外特に報告は届いておりません。部隊の撤退も順調に推移しています」

「そうか」

「オーギュスタン、そろそろ私が出る時ではないのかな?」


 皇帝アリスカンダルはガラティア軍の出撃を提案した。


「そうですな。では陛下には、北の敵を食い止めて頂きたい」

「うむ。任せたまえ」


 アリスカンダルはかなり乗り気である。陽気な足取りでノフペテン宮殿を後にした。彼の率いる軍勢は総勢で10万ほど。敵は10倍であるが、彼は負ける気がしなかった。


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