アメリカ海軍の攻撃Ⅲ
「ま、全く効いていません!」
「クソッ……。もっと近づけ! 至近距離から主砲を喰らえば、奴も無事では済むまい!」
「はっ!」
近付けばこちらが被弾する可能性も高まっていくが、それでも一矢報いられる可能性がある選択肢をシュトライヒャー提督は選んだ。ミズーリからの砲撃は激しさを増していく。特にミズーリの副砲の精度は侮れず、シャルンホルストとグナイゼナウの装甲は次々と抉り取られてしまった。
「主砲、効果を認めず!」
「もっとだ! もっと近付け!」
と、その時であった。
「閣下!! グナイゼナウが!!」
「何!?」
見ると、シャルンホルストの隣を航行するグナイゼナウの主砲塔が前から2基消滅し、艦の前部がすっかり崩壊して艦内が丸見えになってしまっていた。もうグナイゼナウの主砲は2門しか残っていない。
「ま、まさか、主砲が当たったのか!? グナイゼナウは無事なのか!?」
「機関は無事とのこと! しかし主砲は全て損壊し、攻撃手段が残されていないとのことです!」
遠目には無事に見えた三番砲塔も、使用不可能な損傷を受けてしまったようだ。主砲以外の武装をそもそも搭載していないグナイゼナウは、これで戦闘能力を完全に喪失してしまったのである。
「な、何ということだ……。たった一発で、戦艦の半分が吹き飛ぶなど……」
「閣下! どうされますか!?」
「そ、それは……」
「閣下! グナイゼナウより入電! 決死の突撃を敢行するとのこと!」
「武器もなしに突撃するのか……? いや、逃げたところでどうにもならない、か。グナイゼナウには、好きにさせてやれ」
逃げたところで逃げ切れる訳もなし。どうせ死ぬなら帝国海軍の名誉を守って死んで貰わなければならないのだ。
「はっ……」
「シャルンホルストはこのまま攻撃を続行するぞ!」
「「はっ!」」
副砲は気にせず、主砲にだけは絶対に当てられないよう回避運動を行いながら、シャルンホルストはミズーリに肉薄した。両者の距離は既に1キロパッススにまで迫った。主砲に撃たれなかったのは奇跡と言えるだろう。
「ここまで近付いてダメなら、もうダメだろうが……主砲、斉射!!」
最後の望みを賭けてシュトライヒャー提督は主砲斉射を命じた。艦橋より前の主砲6門が火を噴き、ミズーリの舷側装甲に叩きつけた。
「どうだ……?」
「あれは……効果あり! 敵艦の副砲を破壊しました!!」
「よっしゃあ!! このまま撃ち――何だッ!!??」
次の瞬間、艦橋を何度目かも分からない衝撃が襲った。が、今回の衝撃はこれまでとは規模が違い、シュトライヒャー提督は床に倒れ込んでしまった。
「か、閣下、大丈夫ですか!?」
「私など気にするな! それよりも、どうしたんだ!?」
「右舷に被弾! 二番砲塔が大破しました!!」
右舷に大穴が開き、損傷は砲塔に及んだ。
「クソッ! 進め進め!!」
と号令するが、次の瞬間にまたしても艦橋が大きく揺られる。
「今度は何だ!?」
「左舷に被弾!! 浸水しています!!」
「何だと!? すぐに応急処置をしろ!!」
左舷に再び被弾。損傷は喫水線下にまで及び、シャルンホルストに大量の海水が侵入し始めた。水中に突入して威力が減衰しているにも拘らず装甲を軽々貫く威力。ミズーリの主砲に違いない。
「ダメです!! 破口が大きく浸水を抑えきれません!!」
「何て、ことだ……」
排水が間に合わず、浸水を食い止めることも出来ない。シャルンホルストが沈むことは避けられないということだ。
「ど、どうされますか……?」
「沈むまでは時間がある! 右舷に注水しつつ、攻撃を続行せよ!!」
放っておけば艦は左に傾いていくことだろう。ならば右舷に水を注げば、暫くは艦の水平を保つことが出来るだろう。
「主砲斉射!!!」
徐々に沈みながらも、全速前進と攻撃を続けるシャルンホルスト。再び攻撃を浴びせ、ミズーリの舷側装甲を貫く。しかしそれは、ミズーリ全体から見れば擦り傷程度に過ぎなかった。またしても主砲が右舷に命中し、後方の主砲が使用不能になった。
「ふはは! 右と左に穴が開けば、ちょうどいいじゃないか!」
「その通りですな!」
「閣下! このままではミズーリに激突します!!」
「構わん!! 突っ込めい!!」
大破しながらも何とか速力を維持し、ミズーリに肉薄したシャルンホルスト。シュトライヒャー提督はミズーリに真正面から突撃することを命令した。艦を犠牲にする最後の手段である。
ミズーリの装甲とシャルンホルストの装甲が互いにひしゃげ、シャルンホルストの艦首はミズーリにのめり込んだ。グナイゼナウもまた体当たりを仕掛けた。
「これだけ、か…………」
「最早、これまで、かと……」
シャルンホルスト級の体当たりは確かにミズーリの装甲を破壊することに成功した。しかし、かつてイズーナ級を引き裂いた時のようにはいかず、僅かに数パッスス舷側装甲を凹ませることしか出来なかった。これほどの装甲板を曲げられたのは大きな成果だが、ミズーリの性能には何の影響もないだろう。シャルンホルストはこれで力を使い切ってしまった。
「こ、こうなったら、移乗攻撃を――」
「閣下! 敵の主砲がこちらを向いています!!」
「っ! クソッ……」
シャルンホルストは至近距離で主砲の斉射を浴びた。シャルンホルストは最早これ以上耐えられなかった。