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アメリカ海軍の攻撃Ⅱ

「い、一旦、状況を整理しよう。我々には、選択肢は多くない」


 戦うか、降伏するか、或いは逃げるか。選択肢はその三つしかないであろう。


「逃げるのはどうだ? どう思う?」

「仮に敵が本物の戦艦ならば、逃げる間もなく撃沈されるかと思われます」

「敵がハリボテならば、海軍の恥となりますが……」

「そ、そうだな。仮に敵が戦艦ならば、逃げるくらいなら戦うべきだ。いや、その場合は降伏するべきか……いやいや、ゲルマニア海軍が戦わずに降伏など……」


 部下達を無下に殺したくない人情と、神聖ゲルマニア帝国と皇帝陛下の名誉に傷をつけてはならないという軍人としての責務。シュトライヒャー提督はどちらを優先させるかを決められるほどの決断力はなかった。


「閣下、我々は皆ゲルマニア軍人です。死ぬ覚悟は出来ています。逃げるも降伏するも、名誉を失うことは同じ。ならば、選択肢は一つしかありません」

「そ、そうは言うがな…………」

「閣下、時間が残り半分を切りました。あまり迷っている時間はありません」

「…………分かった。私は戦おう。しかし、逃げたい者には逃げることを許す。直ちに全艦、この場を去りたい者に救命艇を与えよ。ただし、まだ出しはするな」


 ルーズベルトに逃亡を始めたと判断されれば問答無用の攻撃を受けることになりかねない。結論を出してもシュトライヒャー提督は時間ギリギリまで待ち、その間に退艦したい者に退艦の用意をさせた。


「シャルンホルスト、およそ200名が退艦を希望しています。救命艇は足りています」

「グナイゼナウも同様の状況です」

「分かった。アメリカに通信をしてくれ」

「はっ!」


 シュトライヒャー提督は時間ギリギリでルーズベルトに返答をする。


『――結論は出たのですかな?』

「ああ。我々は、アメリカ軍などには屈っしない。我々は例え全滅しようとも戦うつもりだ」

『それはそれは。非合理的な選択を』

「だが、逃げたい者を逃がすことは許してもらえないだろうか?」

『敵前逃亡を認めるということですか?』

「そういうことだ。どうだろうか?」

『まあ、よいでしょう。どうせ、人類は全員死ぬのですから』

「……そうか。これだけは感謝する」

『それでは、どうぞご自由に。そちらが戦闘の意志を見せれば、私も応戦しましょう』

「そうか」


 通信終了。シュトライヒャー提督はシャルンホルストを停止させたまま、直ちに退艦を望む者を脱出させる。そして遂に、戦いの火蓋を切った。


「全艦、全速前進! ミズーリに向けて突撃!!」


 シャルンホルストは未だミズーリを主砲の射程に収めることすら出来ていないのだ。そしてそのことは、ミズーリも分かっているようだ。


「敵艦発砲!!」

「本当に、この距離で撃ってくるのか……」

「あ、あんな巨大な大砲が当たりでもしたら……」


 距離の長い砲撃は、着弾までに数十秒を要する。その時間が逆に腹立たしい。


「着弾予想、残り5、4、3、2――っ!」


 艦橋を衝撃が襲った。同時に、シャルンホルストの左側に艦橋を越える巨大な水柱が上がった。シャルンホルスト全体が大きく揺られるが、この程度はどうということはない。


「恐れるな! こんな距離で精確に狙える筈がない! 進み続けよ!!」


 実際のところ、初弾から至近距離に当てられているので敵の練度は相当なものだ。いや、アメリカ軍のことだから機械にでもやらせているのだろうか。


「ミズーリ、続けて発砲!!」

「減速だ! 少しでも当たる確率を減らす!」

「はっ!」


 ミズーリはあくまでシャルンホルストが着弾時にいるであろう場所を狙って砲撃を行っている。故に途中で速度を変えれば、その砲撃を能動的に回避することが出来るのだ。予想通り、ミズーリの砲弾はシャルンホルストの数百パッスス前に落下した。


「よしっ! この調子だ! 連中、臨機応変というものがないらしい!」

「「おう!!」」


 そんなこんなで速度を増減させながら、シャルンホルストとグナイゼナウはミズーリとの距離を詰める。


「間もなくこちらの主砲の射程に入ります!」

「よーし! 一番、二番砲塔は――」

「閣下! 敵艦の副砲が動いています!」

「副砲だと!? クッ……構うな!!」


 どうやらシャルンホルストの主砲とミズーリの副砲が同じくらいの射程をしているらしい。格の差を思い知らされながらも、シュトライヒャー提督に退く気はない。


「主砲、射程に入りました!」

「よし! 主砲、撃ち方始め!!」

「敵艦、副砲を発砲!!」

「クッ……」


 シャルンホルストとグナイゼナウの主砲合計18門と、ミズーリの6門ほどの副砲が同時に火を噴いた。数秒後、シャルンホルストの艦橋は立っていられないほどの激しい衝撃に襲われた。


「ど、どうした!?」


 シュトライヒャー提督は手すりに掴まり何とか体勢を保ちながら。


「左舷前方に被弾! ……見たところ、副砲が吹き飛ばされているようです!」

「副砲で、この威力か……」


 シャルンホルストの装甲など軽々貫かれ、艦の前方に大穴が開いた。主砲などに被害が出なかったのがせめてもの幸いであろう。そして僅かに遅れて、シャルンホルストの砲弾もミズーリに命中した。


「主砲、命中!」

「どうなった!? 被害は与えられたのか!?」

「そ、それは、残念ながら……」

「クッ……」


 主砲弾はミズーリの装甲に叩きつけられた。だが、ミズーリに塗装が剥げた以上の損害は確認出来なかった。

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