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アメリカ海軍の攻撃

 ACU2316 6/7 クバナカン島北方


 ほぼ毎日出撃しっぱなしでアメリカ軍の殲滅を行っているシャルンホルストとグナイゼナウ。当初は別個にアメリカ艦隊を叩く予定だったが、今は協力して敵艦隊を確実に叩くことになっている。不完全なグナイゼナウを単騎で出撃させるのがやはり憚られたのと、アメリカ海軍の一個艦隊の規模が拡大してシャルンホルストでも対応し切れなくなってきたからである。


 さて、シュトライヒャー提督がいつも通りの任務に従事していると、それは前触れもなく姿を現した。水平線に見える巨大な黒い影である。


「お、おい、あれは、何だ……?」

「さ、さあ。しかし、イズーナ級よりも巨大な艦に見えます……」


 提督は真っ先にその存在に気付いた。士官達は揃って望遠鏡を取り出し、影の正体を確認する。が、兵士達の顔は次から次へと青ざめていった。


「ど、どうしたんだ、お前達」

「あ、あれは、戦艦です! 間違いありません! 鋼鉄の戦艦が、あそこにいます!」

「戦艦だと……? そんな馬鹿な!」


 シュトライヒャー提督も望遠鏡で敵の姿を確認した。そして言葉を失った。士官達の言葉に嘘は全くなく、確かに鋼鉄の装甲で覆われ巨大な主砲を搭載した戦艦が、そこに浮いていたのである。


「馬鹿な……ありえん……」

「推定全長、およそ160パッススです!」

「ば、馬鹿なッ! そんな巨大な鉄の船が、ある訳がない!」


 シャルンホルストの全長はおよそ140パッスス。体積だけ大きく中身がスカスカのイズーナ級を除けば、シャルンホルスト級こそが世界最大の軍艦の筈である。シャルンホルストを上回る鉄の軍艦など存在する筈がない。筈がないのだが、それが実在することは認めざるを得なかった。


「閣下! 星条旗です! 星条旗が翻っています!!」

「ま、まあ、そうだよな……」


 それがアメリカ軍の戦艦であることは、最初に見た時から明らかであった。


「閣下、どうされますか……? シャルンホルストより遥かに大きな主砲を、敵艦は保有しているようです」

「そのようだな……。恐らく装甲もシャルンホルストを上回っていることだろう。あんなのに……勝てる訳がないじゃないか……」


 シュトライヒャー提督は泣き出しそうな情けない声を絞り出す。戦艦と戦艦の戦いは艦の性能差が勝敗のほとんどを決定する。圧倒的な物量差がない限り、上位の戦艦を撃破するのは極めて困難である。


「か、閣下……」

「どうすればよいのか、私の方が教えて欲しいよ」

「そ、その、敵は今のところ動きを見せません。何か狙いがあるのでは?」

「た、確かにな。ただ海に佇んでいるだけだ。一体何がしたいんだ……?」

「まるで我々を待ち侘びていたようですが……」

「か、閣下! アメリカ軍から通信が入りました! 恐らくはあの艦かと!」

「繋げ!! 私が受ける!!」


 通信を掛けてきたということは、今回の敵は意思を持った人間だということだ。目の前に存在する者全てを殺す獣ではない。ここで判断を誤る訳にはいかない。シュトライヒャー提督は深呼吸すると通信を受けた。通信が繋がると同時に、無駄に流暢で不愉快な男の声が通信機から響く。


『もしもし、聞こえておりますかな?』

「ああ。聞こえている」

『おお、それはよかった。ルーズベルト大統領です。今更自己紹介など要らないでしょう』

「ルーズベルト……? わ、私はゲルマニア帝国海軍大洋艦隊司令長官のシュトライヒャーだ。何の用だ?」

『そんなこと、聞かずともお察しでしょうに。あなた方に降伏を勧告する為に、このような場を設けさせて頂きました。シャルンホルスト、グナイゼナウ、共に直ちに降伏することをお勧めします』

「ば、馬鹿なことを言うな! 我々人類が戦わずして降伏するとでも思ったか!」

『この戦艦ミズーリは、あなた方の非常に初歩的な戦艦とは比べ物にならない戦闘能力を持っています。イズーナ級のように見掛け倒しではありませんよ? あなた方は既に主砲が射程に捉えており、私の号令でいつでも撃つことが出来ます。さあ、それでも戦いますか?』

「そ、それは……」


 戦って勝てる訳がないというのは、海軍の軍人ならば誰でも本能的に察するところである。シュトライヒャー提督が黙り込んでしまうと、ルーズベルトから提案を出してきた。


『お迷いのようですね。それでは、暫く考える時間を差し上げましょう。これより30分、私は待ちます。それまでに返答を。返答がなければ、或いはその間に逃げるようなことがかれば、直ちにシャルンホルストを撃沈させて頂きますので、どうかご慎重に』

「わ、分かった」


 通信は一旦終了である。しかし、考える時間などもらったところで、何かよい作戦が出る訳でもないのである。


「我々は、どうすればよいのだ……」

「こ、降伏する、しかないのでは?」

「もしもあれがただの見掛け倒しだとしたら、我々は後世まで愚か者として語り継がれることでしょう。一戦交えるべきでは?」

「うむ…………」


 確かに、ミズーリとやらが本当に鋼鉄の戦艦なのかは分からない。もしかしたら見た目だけ金属風にした木造船かもしれない。まあそこまで精巧に見た目を繕う技術など想像はつかないが。しかし本物ならば、シャルンホルストは雑作もなく撃沈されるだろう。ここにいる兵士達と共に。


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