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防衛線の崩壊

 ACU2316 6/2 人類最終防衛線 第三戦区


 第三戦区を預かるのは、第89機甲旅団長を兼ねるヒルデグント大佐であった。もっとも、彼女の機甲旅団は装甲車両を各所に供出して解散状態ではあるが。シグルズとニナがイズーナと戦い、ニナを置いて逃げ帰ってきたシグルズは、すぐにイズーナについての警報を全戦線に発した。警告はヒルデグント大佐にも直ちに届いた。


「――そんな、まさか。そんな馬鹿げた話がありますか?」


 半信半疑のヒルデグント大佐。しかし、その報告が届いた僅かに数分後のことであった。


「大佐殿! 北方に非常に強力な魔導反応を確認しました! 敵は恐らく一人! 未確認の反応です!!」

「本当に、百年前の魔女が現代に蘇ったとでも……?」

「わ、分かりませんが、強大な魔女が接近していることには違いありません!!」

「そ、そうですね。全軍、戦闘配置!! 特に対空戦闘に注力してください!」


 ヒルデグント大佐はイズーナを甘く見ていたと言えるだろう。例え世界最強の魔女であっても、二十万の軍隊に勝てる筈はないと。


「魔女は急速に近付いてきます!!」

「あれか……!」


 双眼鏡でイズーナの姿を捉えた大佐。それが既知のレギオー級の魔女の誰でもないことは容易に確認出来た。イズーナは防衛線に敷き詰められている対空機関砲の射程に入ると、突然その場で羽を休ませた。


「ほう……私達と堂々とやり合おうということですか。いいでしょう。全軍、全力で敵の魔女を撃ち落としなさい!!」


 大佐の号令で、二十万の軍勢が一斉に攻撃を開始した。ゲルマニアの歩兵とヴェステンラント兵は小銃と弩で魔女を狙撃し、二百両ほどの装甲車は対空機関砲を斉射し、後方に数十門ほど用意された高射砲もイズーナに榴弾を放つ。爆炎により空は赤く染って、硝煙は霧のように地上に立ち込める。この攻撃を喰らえば人体など欠片すら残らないだろう。


 総攻撃を3分ほど行い、ヒルデグント大佐は攻撃を止めさせた。


「イズーナか何だか知りませんが、流石に死んだでしょう」

「い、いや……まだ生きています!!」

「は? そんな、馬鹿な…………」


 イズーナは平然と空に浮かんでいた。彼女を単純な攻撃で殺すなどやはり不可能なのだろう。


「攻撃です! 死ぬまで撃ちまくりなさい!!」

「はっ!」


 ヒルデグント大佐は総攻撃を再開させる。が、兵士達が引き金を引いた次の瞬間であった。瞬く間にヒルデグント大佐の視界が炎で埋め尽くされたのである。司令部で炎が上がったのかと思ったが、そうではなかった。


「ほ、炎が、塹壕を……」


 まだ離れた戦区司令部にも拘らず、ヒルデグント大佐は足が竦まずにはいられなかった。第一防衛線のほとんど全てが巨大な炎に呑み込まれたのである。炎は数十秒燃え盛り、やがて消えた。前線がどんな状況になっているのかは、考えたくもない。


「ど、どの部隊とも通信が繋がりません……」

「こ、こんな一瞬で、軍団を壊滅させたと……?」

「そ、そのようです……」


 歩兵は尽く焼け死ぬか窒息して死に、戦車や装甲車の中にいても無事では済まなかった。とは言え、完全に全滅した訳ではない。


「大佐殿! 一部の戦車と通信が繋がりました! まだ無事な戦車もあります!」

「よ、よかった……。生存者はすぐに第二防衛線に後退するよう、伝えてください」

「はっ!」


 戦車の半分ほどが塹壕線を抜け出して後退した。残りの戦車や装甲車は動かず、生身の兵士で立てる者は僅かに数百名しかいなかった。生存者は合わせて二千人程度だろうか。


「……戦車はそれなりにありますが、兵士が全く残っていない以上、もうどうしようもありませんね」

「大佐殿! 大変です! アメリカ軍が動き出しました! ここに向かってきています!」

「でしょうね。私達にはもう、何をする力も残ってはいません。すぐに全軍を撤退させ、ここも放棄します。ああ、その前に、オーギュスタン殿下にこのことを伝えておいてください」

「はっ!」


 アメリカ軍は30万を超える。ヒルデグント大佐に出来ることなど残ってはいなかった。


 ○


 さて、ヒルデグント大佐からの報告を受けた人類軍総司令部は大混乱に陥っていた。防衛線が一切の時間稼ぎすら出来ずに消滅するというのは甚だ予想外なのである。


「装甲列車、間に合いません!」

「大八洲軍も、現在は主力が東に位置しており、とても間に合わないかと」

「第二、第四戦区、側面から攻撃を受けています!」


 元々一本しかない人類最終防衛線。一度どこかが崩れれば連鎖的に全てが崩壊するのは目に見えていた。そんな中、赤公オーギュスタンは決断を下した。


「皆、聞け。人類最終防衛線はもう持たない。よって放棄する」

「我らの唯一の拠り所、捨てて本当によいのか?」


 晴政は問う。


「仕方がありません。人類最終防衛線を維持するのは最早不可能です。であるからには、部隊を撤退させる為の時間稼ぎに注力するとしましょう。大八洲軍にも、是非ともご協力を願いたい」

「無論のこと。何でも申せ」

「ありがたい。すぐに部隊の再配置を行います。時間はありません。全員、私の指示に従って頂く」

「それで構わぬ。好きにせよ」


 人類最終防衛線は今、破られたのである。



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― 新着の感想 ―
[一言] に、20万近くの訓練された兵士たちが… そしてニナが… イズーナ強すぎる…
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