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始祖と女王Ⅱ

 女王と始原の魔女の戦いは、半刻に及んだ。双方共に首を斬り落とされても平気な不死身であり、戦いに決着が着く筈もなかった。


「イズーナよ、このまま永遠にここで殺し合いを続けるか?」

「永遠……。私は永遠だが、お前は永遠ではない」

「チッ……。面白みのない奴め」


 確かに、シグルズと同様に神の加護を受け無限の魔法を使えるイズーナと、あくまでエスペラニウムの存在する限りでしか魔法を使えないニナとでは、いずれニナの魔法が枯渇して勝敗が決せられるのは避けようがない。


「だが、お前は、あれほどの魔法を使ってもなお、未だエスペラニウムが尽きていない。何故、だ?」

「はっ、無限の魔法を使える者だからこそ、エスペラニウムに無頓着であるか。愚かなことよ」


 一般的に高位の魔女ほど同量のエスペラニウムで強力な魔法を多数放つことが出来る。逆に言えば同じ魔法を発動させるのに消耗するエスペラニウムが少ないということだ。その極致にある陰の魔女、女王ニナは、一般的な魔女と比べれば極めて微量のエスペラニウムしか消耗しないのである。


「…………無限の前には、どれほど大きな有限の、無意味。いずれ、私が勝つ」


 イズーナは不機嫌そうな顔をして、ニナの首を切り落とした。胴体全てが墜落したが、ニナはすぐさま首から下の全てを再生させた。


「それはどうかな?」


 などと煽るが、ニナの魔法も有限であることは変えようのない事実。ニナも焦っていた。


「心臓を無力化する方法、か……。心臓さえあればいくらでも生えてくる体を、いかにして封じるべきか」

「何を、こそこそと」

「お前を殺す方法を考えておっただけだ」

「……その前に、お前を殺す」

「やってみるといい」


 イズーナもまたあらゆる手段でニナを殺害しようと試みるが、首さえ残っていれば何度でも復活するニナを殺すことは出来なかった。お互い千日手に陥ってしまったのである。


「我々の戦力は拮抗している。これを終わらせるには、均衡を崩す者が必要であるな」

「均衡を、崩す者……。味方、とでも?」

「ああ。一人ぼっちの百年前の亡霊と違って、余には味方がたくさんいるのだ」

「っ!?」


 その時だった。耳をつんざく爆音が何十と鳴り響き、同時にイズーナの胴体が二つに裂けた。


「……何者、だ?」

「おお、シグルズ、本当に来てくれるとは思わなかったぞ」

「いやいや、流石に女王陛下が戦っているのを傍観している訳にはいきませんよ」


 参戦したのは機関砲を抱えたシグルズであった。概ねの状況はオステルマン中将から知らされている。


「こいつが始原の魔女イズーナとやらですか。マキナだった時とは大違いですね」

「ああ。奴とはただ顔が同じだけの別人と思え。しかし、マキナより厄介だ。心臓が存在する限り、奴は何度でも蘇る」

「なるほど。では心臓を砕けばよいのでは?」

「イズーナの心臓は砕けぬ。お前達の大砲をいかに持ち寄ったとて不可能であろう」

「……そうですか。ではどうするつもりなんですか?」

「余に聞くな。お前が考えろ」

「いやいや、そう言われましてもね……」


 魔法に詳しい訳でもないシグルズにそんなことが分かる筈もない。


「話は、終わったか?」


 イズーナが問いかける。自信ありげに答えたのはニナであった。


「ああ、終わったぞ。シグルズ、取り敢えずは全力で奴を撃て。その後は余が何とかする」

「やってみます」


 シグルズは機関砲を10門ばかり宙に浮かべ、全てで同時に発砲した。1発当たれば人体など粉砕される砲弾が秒間30発ばかり押し寄せるのだ。流石のイズーナも、粉砕される肉体の修復で手一杯のようである。


「よいぞ、シグルズ」

「効果があるって感じはしませんがね……」


 イズーナの再生能力はシグルズの攻撃力を上回っていた。砲弾で手足が吹き飛んだ次の刹那には、もうその欠損は修復されているのである。


「それだけ、か? 芸がない」

「シグルズ下がれ!」

「分かってますよ!」


 イズーナは機関砲に飽きたのか、その射線から上に飛び上がり、シグルズに向かって一気に距離を詰める。対してシグルズはイズーナと同じ速度で後方に飛び退き、イズーナと一定の距離を保ちながら全力で砲撃を続ける。イズーナは自身の体が粉々になることなどまるで意に介していないようだったが、シグルズは四方八方に逃げ回る。


「女王陛下! いつまでこうしてればいいんですか!?」

「もう少しそのままにしていろ!」

「何を、企んでいる?」

「さあ、僕も知らないね」


 ニナならば何か考えがある筈。シグルズはそう信じ、イズーナを撃ち続けた。そして、それは前触れもなく起こった。


「凍り付け!!」

「っ……!」


 四肢を吹き飛ばされたイズーナの全身が氷に覆われた。氷はたちまちイズーナの身体を隅から隅まで覆い尽くして厚さを増し、イズーナは身動き一つ取れなくなった。


「よし。シグルズ、こいつの胸から下を撃て」

「え、は、はい」


 機関砲で撃つと、凍った身体は粉々に粉砕された。胸から下がなくなったところで、ニナはその切断面を再び凍結させる。イズーナはたちまち氷の胸像のような姿になった。

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