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始祖と女王

 イズーナは何の感情も表に出さず、ニナはこれから起こる戦いに胸を躍らせ、お互いの表情がよく見えるまで近付いた。


「死ね……!」

「ほう」


 イズーナが手に力を込めた途端、ニナの両腕両脚が根元から切り落とされた。クロエを相手にした時などとは比べ物にならない本気度である。一瞬にした手足を失ったニナだったが、元より体を真っ二つにされても動じることのない彼女。直ちに五体を満足に修復した。しかし彼女の表情には僅かに焦りが見えていた。


「何をしたのだ?」

「教える、必要はない。何度でも、こうしてやる」

「面白い……」


 イズーナは再生した腕と脚をすぐさま落とす。ニナも負けじと腕を再生させ続け、十本目の腕を再生させた後、反撃に出る。ニナがイズーナの身体を睨みつけると、彼女の身体は上下真っ二つに裂けて、下半身は落下していった。もちろんイズーナも欠落した肉体を直ちに修復する。


「興味深い、魔法だ。一体、何をした?」

「何故に余だけが一方的に答えねばならぬ?」

「……そうだな。しかし、このようなことをして、私に勝てると思うのか?」

「始原の魔女イズーナ。お前の魂は、お前の心臓に宿っている。その心臓を抉り出せれば、余の勝利と言えるのではないか?」


 そう言うと、イズーナは露骨に表情を歪ませた。やはり心臓を肉体から出せば、彼女は少なくともイズーナではなくなるようだ。


「そんなことが、出来ると?」

「やったことがある。二度目ならより簡単であろう」


 かつて暴走した陽の魔女レリアを食い止める為に、彼女が取り込んでいたイズーナの心臓を取り出したことがある。相手の心臓を抉り出すなどそう難しいことではないのだ。


「なら、やってみると、いい」

「そうかそうか。ならば余も遠慮はせぬ」

「……!」


 そう言い放つと、ニナの姿が消えた。マキナも使う透明化の魔法である。特に姿を消したい相手が一人だけなら、完璧にその姿を不可視とすることが可能だ。イズーナはニナを求めて四方八方に目を動かすが、見つからない。


 ――女王と言えども、大したことはないな。


 ニナはイズーナの背後を取り、透明な短剣を作り出して彼女の心臓に突き立てようとした――まさにその時であった。


「何っ!?」


 短剣ごとニナの両手が切断された。ニナは咄嗟に距離をとる。振り返ったイズーナは相変わらずゴミを見るような目をしていた。


「どうして余の姿が見えた?」

「姿は見えなかったが、近づかれれば、気配は分かる。自分の子孫、なのだから」

「チッ……。面倒な」


 ニナは舌打ちする。どうやら透明化で闇討ちする作戦は通じなさそうだ。


「ならば、武人らしく正面突破させてもらおう」

「…………」


 ニナは自らの周囲に数百本の剣を作り出し、自らも二本の剣を構える。そして自らを円筒状に囲む剣と共に、イズーナに向かって砲弾のような勢いで突撃した。


「……!」


 イズーナは同じように剣を作り出してニナの剣を迎撃し、彼女自身をも幾度となく貫いたが、彼女がその程度で止まる筈もない。ニナはたちまちイズーナの胸元に侵入した。


「これで終わりだ」


 数十の剣と同時に、イズーナの胸部ごと抉るように、彼女の胸に剣を突き立てた。だが、その剣は通らず逆に折れてしまった。


「何っ!?」

「愚か、な」


 ニナの下半身が再びちぎれた。ニナはまたしても距離を取らざるを得なくなった。


「流石は始原の魔女。やるではないか」

「当たり前の、こと」

「どうしたものか……。取り敢えず、殴るだけ殴ってみるか」


 ニナは人の拳程度の大きさの石を数百作り出し、イズーナに向かって飛ばした。イズーナは全身に石がのめり込み両腕が落ちたが、全く動じていなかった。


「これならどうだ?」


 今度は火炎放射器なような炎を数本作り出し、イズーナを焼く。鉄ですら溶けて曲がるような高温になる筈だが、炎を消した後には無傷のイズーナが姿を現した。


「はあ……そうか。これほどしても、死なぬか」

「私の、末裔。これで、終わりか?」

「この程度で終わりはせぬ!」


 ニナは感情的になっていた。剣、岩、炎、氷、彼女の出しうる限りの魔法を全てイズーナに叩きつけた。この攻撃をモロに喰らえば、例えゲルマニアの戦艦であってもその装甲を粉砕されていたことだろう。だが、イズーナは何をやっても全ての損傷を修復して見せたのであった。


「……この攻撃、いくら始祖であっても肉体が粉砕される筈。一体どうなっているのだ?」

「教えることは、ない」

「だろうな」


 いくら始原の魔女とは言え、脳を吹き飛ばされてはそれで終わりの筈。にも拘らず死んでいないのは、何が特別なカラクリがあるに違いない。そう考えれば、すぐに一つの仮説が出てくる。


「そうか。お前はその心臓さえあれば、いからでも肉体を修復出来るのか」

「……ああ、その通り。私から心臓を抉り出しても、意味はない」

「ふざけた真似を」


 心臓が存在する限り、イズーナが滅びることはない。仮にイズーナを殺す手段があるとすればその心臓を破壊することだろうが、それはニナの剣をも寄せ付けない固さを持つのだ。

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