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第二戦区

 ACU2316 6/2 人類最終防衛線 第二戦区


 人類最終防衛線、シグルズ率いる第一戦区の隣である第二戦区を預かるのはゲルマニア軍のジークリンデ・フォン・オステルマン中将であった。


「――魔導反応、消失! 敵軍の全滅を確認しました!!」

「よくやった。各員、速やかに現状の確認と、塹壕線の修復を行うように」

「はっ!」


 アメリカ軍が延々と送り込んでくる増援。戦艦シャルンホルストとグナイゼナウがアメリカ艦隊の撃滅に毎日のように繰り出しているものの、アメリカ軍が繰り出す何十隻ものイズーナ級を足止めするには到底間に合わなかった。


 アメリカ軍は毎週数十万規模の軍団を送り込み続け、殺せど殺せど彼らが尽きることはなかった。終わりの見えない戦いを前にして、人類最終防衛線はどの戦区も疲弊しきっていた。


「ハインリヒ、今回の損害は?」


 オステルマン中将はハインリヒ・ヴェッセル幕僚長に尋ねる。


「我が軍の損害がおよそ7千、ヴェステンラント軍の損害がおよそ8百と言ったところかと。今回もかなり削られてしまいましたね」

「ああ、まったくだ。もう最初にいた兵の3人に1人が失われてしまった。アメリカ軍の攻撃がほとんど衰えていない以上、この防衛線が崩壊するのは近いだろうな」

「閣下、そのようなことは。兵の士気に関わります」

「私が言わずとも、もうみんな分かっているだろう。私達は精々、終わりを先延ばしにしているだけだ」

「それは……」


 戦区司令部の空気もすっかり閉塞したものである。状況をよく把握している人間ほど、この戦いに勝ち目がないことはよく分かっているのだ。第二戦区に限らずどの場所も、限界が近づいていることだろう。


 と、その時であった。


「閣下! 強力な魔導反応を確認しました! レギオー級の魔女かと思われます!!」

「援軍か?」

「い、いえ! 反応は北から近付いてきます!!」

「何? レギオー級の魔女が誰か裏切りでもしたって言うのか?」

「さ、さあ、それは何とも……。しかしこの反応は、これまでに確認されたことのないものです」

「……分かった。私が様子を見てくる。私が死んだら後は任せるぞ、ハインリヒ」

「ちょ、お待ちください、閣下!」


 幕僚長らの静止も聞かず、オステルマン中将は一人で司令部を飛び出した。今から偵察隊を編成して状況を確かめている暇などないのだ。中将は全速力で魔導反応の確認された北方に飛んだ。


「何だ? 一人だけ? ならば尚更、レギオー級の魔女である可能性が高いな」


 オステルマン中将は黒い翼を広げて悠然と空を舞う一人の女性の姿を確認した。中将はすぐに双眼鏡を取り出して魔女の姿を確認するが、その顔は一度も見た事のないものであった。


「誰だあいつ?」


 背負った銃を手に構え、オステルマン中将ら魔女に近づく。魔女は白い外套を纏い、この世の全てに絶望したような目をしていた。


「おい! あんたは一体誰だ?」


 銃口を向けながら問う。


「私は……私は、イズーナ。ヴェステンラント王家の家祖、だ」

「……は? 何を言ってるんだお前は。そわな戯言を――なっ!?」


 その瞬間、オステルマン中将お気に入りの小銃は、引き金だけを残して切り落とされてしまった。何が起こったのか目で捉えることすら出来ず、銃が破壊されてしまったのである。


「た、ただ者ではないようだが……」

「下がれ、中将」


 その時、まだ幼さを残しながらも強い覇気を持った女性の声が、オステルマン中将に命令した。


「誰だ!? ……って、陛下!?」

「ああ。ヴェステンラント女王、ニナ・ファン・オブスキュリテである」


 黒い外套を纏った少女はオステルマン中将とイズーナの間に割って入った。中将は最早蚊帳の外である。


「陛下、こいつ、王家の始祖イズーナと名乗っていましたが」

「そうだ。あの者こそ、王家の始祖、我が祖先、イズーナだ」

「とっくの昔に死んだ人間がどうして――」

「その話は後でじっくりしてやろう。それよりも、お前は下がれ。戦いに巻き込まれれば死ぬだけだ」

「……分かりました」


 オステルマン中将はニナの言うことに素直に従った。


「さて、我が始祖イズーナよ」

「お前は……私の直系の者か?」

「ああ、そうだ。余こそは、ヴェステンラントの正統な王位継承者、そなたの最も純粋な子孫だ」

「そう、か。お前が、私を裏切った者の、末裔……!」


 イズーナの目が血走る。


「裏切り、か。お前を殺したのはワシントン将軍であるとは、知らされておらぬのか?」

「知っている。だが、その裏切りを、見て見ぬふりをしたは、私の子供達。裏切り者でなければ、何だ?」

「見て見ぬふりをしただけで裏切り者とは、手厳しいな。で、その恨みから余を殺したいのか?」

「そうだ。お前達も、ヴェステンラントも、消えてなくなってしまえばいい!」

「まったく、こんなものが王家の始祖とは。まあ余も、自らと対等な敵を求めていたのだ。ちょうどよい。殺し合おうぞ」

「ああ……。容赦は、しない……!」


 始原の魔女イズーナと、世界最強の魔女ニナ。魔女の頂点を決める戦いである。

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