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脱出

「閣下、誠に遺憾ではありますが、我々の現有戦力では、アメリカ軍の包囲を突破するような作戦の実施は不可能です」

「そんな理由で、友軍を見捨てられるものか!」

「無用な損害を出すだけです! 閣下、どうか落ち着いてください!」

「か、閣下! 取り残された部隊より通信が!」

「つ、繋げ!! 私が出る!」


 レーダー中将は自ら通信を受ける。通信の相手は取り残された小隊を率いるディートリヒ大尉であった。


「――こちらは、レーダー中将だ」

『中将閣下、私は第六大隊第三小隊のディートリヒ大尉です。恥ずかしながら、敵軍に包囲され、脱出すること叶わなさそうです』

「何とかならんのか……? 何とかして、生きてここに辿り着けは……?」

『残念ですが。閣下、我々のことなど気にせず、今すぐ出発してください。どの道、我々は助からないのですから』

「だ、だが……」

『閣下! 決断を迷っている暇はありません! 死ぬことの決まっている部隊のことなど気にしてはなりません!』

「……分かった。すまない。艦隊は、出港する」

『はっ。無事を祈っております』


 通信を終え、深呼吸をするレーダー中将。


「全艦、錨を上げよ! クバナカン島に向け、出航する!!」


 戦艦アトミラール・ヒッパーとプリンツ・オイゲンは、ヴェステンラント軍の全てとゲルマニア軍の一部を地上に置き去りにし、南に向かって航行を始めたのであった。


 ○


 一方その頃。残存ヴェステンラント軍およそ2万はクロエの指揮の下、市内の一角に立て篭もり交戦を続けていた。


「ようやく戦艦が出たようですね」

「はい。これで、我々の退路は絶たれました」


 ヴェステンラント軍の逃げ場はなくなった。しかしスカーレット隊長の表情は明るかった。


「となれば、我々は敵に向かって逃げるしかありませんね」

「はい! アメリカ軍など蹴散らしてやりましょう!」

「こういう時のあなたは頼りになりますね。では行きましょうか。全軍に出撃の用意を」

「直ちに!」


 ヴェステンラント軍に出来ることは、この場で全滅するまで戦うか、アメリカ軍の包囲を食い破るかの二択である。クロエは僅かな生の望みがある後者を選び、全軍にアメリカ軍に向かって突撃することを命じたのだ。


「クロエ様、既に兵らの準備は整っております。いつでも反撃に出られるかと」

「分かりました。では、今すぐに打って出ます!」

「はっ!」


 白の軍勢は敵軍に対し決死の突撃を敢行したのである。


「進め進め!! 全ての敵を薙ぎ倒し、進むのだ!!」

「「「おう!!!」」」


 スカーレット隊長は兵士を鼓舞し、兵士達はただひたすらに進み続けた。退くことも敵に降伏することも出来ない。全ての敵を殺しここから脱出することが、ヴェステンラント軍にとって唯一の生きる道である。正しく背水の陣と言うべきものであろう。


「とっとと消え失せろ!! この悪魔共が!!」


 余りにも敵の数が多く、騎馬隊もこの状況では役に立たない。スカーレット隊長は早々に馬を降り、目の前にひしめくアメリカ兵を尽く斬り殺す。そしてその間も足を止めることはない。


「進め! 一歩も止まってはならん! 進み続けろ!!」

「「「おう!!!」」」


 この突撃の目的はアメリカ軍の包囲を突破することにある。スカーレット隊長はアメリカ人を皆殺しにするつもりだが、極論彼らを殺す必要すらないのである。その剣を叩き落として戦闘不能な重傷を与えておけば問題はない。


 勝利か死か、を突き付けられたヴェステンラント軍の勢いは凄まじく、圧倒的多数を誇るアメリカ軍の包囲網を食い破っていった。誰もが生き延びる為に戦った。負傷者を連れていく余裕はなく、怪我をすれば即ち死が待っていた。そうでもしなければ彼らは全滅していただろう。


「スカーレット隊長! そろそろ敵の包囲網が途切れますよ!!」


 空からアメリカ兵を殺しまくっていたクロエが呼びかける。勝利は目前である。


「はっ! 皆、最後の正念場だ! 突撃っ!!」

「「「おう!!!」」」


 最後の力を振り絞り突撃すれば、常に視界の中にあったアメリカ兵の姿はついに見えなくなった。ついに全ての敵を突破したのである。


「よし! このまま逃げるぞ! 総員、走れ!!」

「はっ!!」


 魔女達と魔導兵がそれぞれアメリカ軍を攻撃しながら、全速力で南に逃げる。アメリカ軍はクロエらの強力な攻撃によって足止めされ、彼らを追うことは出来なかった。そうして走っている内に、アメリカ軍の姿は点のようになっていた。


「よ、ようやく、逃げ切ったか……」


 流石のスカーレット隊長も疲れ果て、他の兵士達については言うまでもない。そして冷静になって周囲を見渡すと、味方の数は随分と減っていた。


「一体何人生き延びた?」

「5千人程度かと。大多数をあの場所で死なせてしまいました」


 結局、兵士の過半が犠牲になってしまった。


「……そうか。だが、全員で犬死するより余程いい。これが、最善の選択だったのだ」


 スカーレット隊長は自らにそう言い聞かせているようだった。


 その後、生き残り達はアメリカ軍の間を縫って人類軍の輸送艦隊に合流することに成功し、それ以上は欠けることなく脱出することに成功した。もっとも、戦いに終わりが来ることはないが。

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