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崩れる城

 と、その時であった。


「おい! みんな、下がるんだ!!」

「な、何だお前は!?」


 スカーレット隊長にいる辺りに向かって叫びかけたのは、黒い軍服を纏ったゲルマニア兵であった。


「後ろに我々が防衛線を用意した! 急いでそこまで下がるんだ!!」

「……わ、分かった! 全員、ここは放棄し撤退せよ!!」

「「はっ!!」」


 ヴェステンラント軍はスカーレット隊長の一声で秩序を保ちながら迅速に後退した。アメリカ軍に適当に反撃しながら家々の間を駆け抜けると、大通りに柵が建てられ、その後ろに機関銃を構えたゲルマニア兵が数百、待ち構えている。


「こっちだ!! 急いで入れ!!」

「……感謝するぞ!!」


 柵を乗り越えゲルマニア軍と合流したスカーレット隊長。まさかゲルマニア軍の機関銃が彼女を迎え入れてくれるとは、つい数ヶ月までは思いもしなかった。


「そうか……戦艦からの援軍か。指揮官は誰か」

「この場の指揮官ならば、小隊長でたる私、ディートリヒ大尉です。地上部隊の総司令官はシュタイナー少将閣下です」

「そうか。大尉、私はヴェステンラント軍のスカーレット・ファン・ヨードル隊長だ」

「あの高名なスカーレット隊長ですか! お会い出来て光栄です! 是非握手を!」

「そ、そうなのか……?」


 戸惑いながら握手を受け入れたスカーレット隊長。だが次の瞬間には兵士の叫び声が響く。


「敵です! 敵がもう攻めてきました!」

「もう来たのか……早いな」

「迎え撃ちましょう! 共に戦ってくださいますか?」

「無論だ。皆、ゲルマニア軍と共に戦うぞ!」

「「おう!!」」


 ゲルマニア軍は機関銃と小銃で、姿を見せたアメリカ兵を直ちに撃ち殺した。長い大通りなだけにゲルマニアの銃器との相性は抜群である。それはヴェステンラント軍の弩にも同様であり、アメリカ兵の身体を次々と矢が貫いた。アメリカ軍の勢いは暫くは食い止められそうだ。


「隊長! 北方からから救援要請が来ています!」

「そうか……。ディートリヒとやら、ここは任せたぞ! 私は友軍の救援に向かわねばならない!」

「お任せを! 我が軍の誇りにかけて、アメリカ人など皆殺しにして見せます!」

「その意気だ。死ぬなよ!」


 スカーレット隊長と僅かに数十の供回りは、救援を要請してきた部隊を救いに飛んだ。


「あそこか。行くぞ。攻撃開始!!」

「「おう!!」」


 街の一角、ゲルマニア軍の防衛線にアメリカ軍が目前に迫っていた。スカーレット隊長はまず、魔女達に上空から攻撃を仕掛けさせる。隊長自身はこの手のやり方には不得手だが、数本の剣を作り出して投げ飛ばすのを繰り返した。地上部隊との十字砲火によりアメリカ軍はたちまち倒れ、防衛線に余裕が生まれる。しかしその後ろからアメリカ兵はまだまだ湧いてくる。


「持ちこたえられそうか!?」


 スカーレット隊長は地上の兵士達に尋ねる。


「え、ええ、何とか!」

「ならば耐えてくれ! 私達は他の場所の救援にも向かわねばならない!」

「はっ! ご武運を!」


 隊長は再び飛んだ。ひたすら対症療法的にアメリカ軍を殺すくらいしかスカーレット隊長には出来ないのである。こうしてギリギリで何とか防衛線を持たせ続け、半日が経過した。


「市民の避難は進んでいるのか?」

「まだ3千人ほどしか進んでいないようです」

「クッ……遅い。使えない将軍共め」

「集団脱出などほとんど例がなく、仕方がないのでは……」

「この戦争も例はないだろう。まったく、教典に従うことしか出来ないからこうなるんだ」

「た、隊長! また救援要請が!」

「クソッ。行くぞ! 急げ!!」


 彼女に休んでいる暇などないのである。


 ○


 一方その頃。ゲルマニア艦隊を率いているのは、アトミラール・ヒッパー艦長のレーダー中将であった。


「我々には、何も出来んのか……!」


 地上で奮闘を続ける友軍を前に、中将は自らの無力を呪っていた。


「し、仕方ありませんよ。こんな状況で戦艦の武装など使えば、味方ごと吹き飛ばしてしまいます」

「分かってはいる。分かってはいるのだが……」

「せ、せめて、避難民の収容に全力を注ぎましょう。これさえ終われば、地上部隊は撤退することが出来るのですから」

「……全く、その通りだな」

「しかし、本当に全員を収容することなど、出来るのでしょうか……。いくら戦艦が二隻とは言え……」

「それは…………」


 空気が凍りついてしまった。この作戦、たった二隻の戦艦とその他数隻の輸送船で、市民を全員収容することの出来る確証すらないのである。そのことはまだ極一部の人間しか知らないが。


「何としても、全員をここから逃がすのだ! 誰一人、置き去りになどせん!」

「し、しかし、物理的に限界というものがありまして……」

「もちろん、分かっている。いざとなれば、立ち入り禁止区域まで全て使ってでも、人々を収容せよ」

「はっ!」


 と、その時であった。


「閣下! 強力な魔導反応を確認! 敵の魔女です!」

「何!? 地上部隊を襲うつもりか!」

「い、いえ! 奴らの目的は我々のようです!」

「なるほど……。全艦、戦闘配置! 敵軍を迎撃せよ!!」

「し、しかし、兵士が足りず……」

「動かせるものだけでいい! 決して、艦隊に被害を出す訳にはいかん!」


 兵士を地上に送り出したせいで戦艦の乗組員は不足していた。レーダー中将は限られた戦力で応戦するしかなかった。

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