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マキナの正体Ⅱ

「死ぬ覚悟は出来たか?」

「人間的な意味での死という概念は、私には――」

「答えなくてもいい。お前は今ここで死ね!」

「おや」


 マキナは目の前にある心臓のことを無理やり意識から外し、ただルーズベルトを切り刻むことを考えて剣を振るった。だが、その剣は彼には届かない。


「また氷か……!」


 またしても肉体を凍りつかせる魔法。それも両腕両脚が全て凍り付いて、マキナは一時的に身動きが全く取れなくなってしまった。ルーズベルトの魔法がレギオー級の魔女を上回るものであることは明らかであり、それは即ちマキナより格上であるということであった。とは言え、彼女にも強みはある。


「いくら身体を凍らせても、全て粉砕するまでだ!」

「そう来るとは分かっていましたよ。だから、こうしましょう」

「何っ……」


 マキナは手脚ごと氷を砕いて動き出そうとしたが、次の瞬間には彼女の足が土に埋められていた。ルーズベルトが一瞬にして大量の土を作り出して彼女の足元を埋め尽くしたのである。マキナはその質量を粉砕することが出来ず、その場から動けなかった。


「もしもかつての青の魔女シャルロット様であったのならば、直ちに足を切断して脱出したでしょう。しかし貴女にはそれは出来ない」

「この……」

「図星ですか。やはり。貴女の魔法は欠損した肉体そのものを復活させるのではなく、あくまで鉄の骨格の回りに肉を纏わせるだけのもの。その骨格ごと拘束されてしまえば、脱出することは困難です」

「なるほど。よくもそこまで調べたものだ。気持ち悪い奴め」

「敵の情報を調べ尽くすのは兵法の常道ですよ。まあ、それは置いておいて、いよいよ貴女を拘束することが出来て、イズーナを目覚めさせることが出来ます」

「どうするつもりだ? そんな魔法は存在しない」

「ええ、確かに。私も実際のところその方法は知らないのですが、まあ心臓がここにある訳ですし、取り敢えず貴女の胸に突っ込んでみましょうか」

「貴様、正気か……?」


 強がるマキナの声は僅かに震えていた。それがどんな結果をもたるすのか、本能的に予想がついてしまったからである。


「さあ、実験を始めましょう。きっと楽しいことになる」

「や、やめろ……!」


 ルーズベルトには当然、慈悲の心などというものは微塵もない。彼がそう決めたのならば、それはそのまま実行されるのである。


 ○


 マキナはすぐにノイエ・アクアエ・グランニへと戻ってきた。たまたま城壁の激励に出ていたクロエとスカーレット隊長は彼女を迎えようとしたが、何か様子がおかしいことにスカーレット隊長が気付く。


「何だ、あいつ……いつになく生気がないが……」

「ええ……そのようですね」


 別に普段のマキナに生気がある訳でもないが、普段の生気が零とするなら、今の彼女は負のそれを纏っているように見えた。何かよからぬものを感じた二人は、マキナを迎えに飛んだ。


「マキナ、その、大丈夫ですか?」

「…………」


 向かい合ってなお、深淵のような目でクロエを見つめるだけのマキナ。いつもなら嬉しそうにクロエに飛びつくものを。


「クロエ様、下がってください。こいつは何か、様子が変です」


 スカーレット隊長が二人の間に立ち塞がる。そしてマキナに呼びかけた。


「お前はいつものマキナなのか? そうであるのならば、そう返事をしろ! そうでないのならば、お前は何者だ?」

「私、は…………」


 よくやくマキナが口を開いた。普段の口だけは達者な彼女とは違い、その言葉はやけにたどたどしい。


「何だ? お前は何者だ!?」

「スカーレット、そんな物言いは――」

「私は……イズーナ・ロベール。お前達の祖先、になるだろう」


 クロエを見つめながら呟くように。


「イズーナ……? な、何を言っているんですか、マキナ?」

「その名は、いや、その意識は、既に消え去った。私は、元より、イズーナでしかない」

「ふ、ふざけないでください。何でとっくの昔に死んだ始祖イズーナの話が出てくるんですか?」

「そう、私は、死んだ。子供達が、私を裏切って……! そう、殺された。その末裔が、お前達だ」

「王家しか知らない筈の秘密、ですか」


 始原の魔女イズーナが家臣や子供達の裏切りによって殺されたというのは、ヴェステンラントの歴史からひた隠しにされてきた事実である。


「クロエ様、それはどういう……」

「今は気にしないでください。それよりも、本当に、我らが始祖イズーナなのですか? 一体何がどうなっているのか、説明して頂けませんか?」

「……説明も何も、ここにあるが全て。私の死体に、私の魂が再び宿っただけのこと。それ以上のことは、私は知らない」

「そうですか。ということは、イズーナの死体を保存しておく為に、マキナが創られたと。それなら合点がいきますね」

「そ、そんな馬鹿な話があるのですか?」

「現実にそうなっている訳ですし、否定することは出来ないのでは?」

「ま、まあ……」

「で、我らが始祖イズーナ、あなたは何を望まれるんですか?」

「お前達は、私を裏切り、殺した者の末裔。今から、ヴェステンラントを、滅ぼす」

「ははっ。まあそんな気はしていました」


 クロエは魔法の杖を取り出し構えた。


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