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断頭作戦Ⅱ

『しかし、アメリカ市民となることが出来るのは、アメリカの高貴な血統を持つ白人か、或いはアメリカに特別の勲功ある者のみです』

「私、一応高貴な血統なんですけどねえ」

『ははっ、確かにそうでしたな。しかしそれは、我々の条件たる血統とは別の血統です』

「分かってますよ、冗談です。では後者の条件で採用して頂くことは出来ないのですか?」

『ふむ。確かに誰でもアメリカ市民となれる可能性がありますが、あなた方がアメリカに何らかの勲功を残したと?』

「勲功というのは、具体的な基準は何かないのですか?」

『そうですな……例えば敵国の技術を盗み出してアメリカに提供してくれた者や、自らアメリカの奴隷になる意思を示した者、アメリカの手先となって多くの敵国人を虐殺した者などでしょうか』

「ほう。案外条件は簡単ですね。ヴェステンラントの魔法技術を提供すれば市民にしてくれるということですよね?」

『残念ですが、ヴェステンラントの技術などほとんど解析出来ています。今更教えてもらいたいことなど、ほとんどありませんよ。まあ数人くらいは市民権を与えてもいいでしょうが、それは殿下の望みではない筈』

「そうなんですか。では仮にゲルマニアだったら、その条件は適用されるんですか?」

『意外に思われるかもしれませんが、その逆です。ゲルマニアの技術など我々には全く必要ありません』

「へえ……そうなんですか。私には関係の無いことですが。では、アメリカの奴隷になるのは嫌なので、アメリカの手先になる方で検討して頂けませんか?」

『その意味を分かっているのですかな? それはつまり、あなた方が人類を虐殺して回るということですよ?』

「ええ、もちろん分かっています。私は人類の命運なんかより、自分の家臣と領民の方が大事なんです。ですので、人類を裏切って私達だけがアメリカ市民になるのは大歓迎ですよ」

『…………何と、実に素晴らしい! 殿下は理想的なアメリカ的精神の持ち主だ。まさかそのような人格破綻者がこの世界にもいるとは!』


 ドーリットルは興奮した様子で言った。クロエの芝居はアメリカ人好みの内容だったらしい。


「ええ、元よりあなた方とは通じ合うものを感じていたんですよ」

『それはそれは。やはり素晴らしい。殿下とは是非とも手を携え、共に人間を飽くまで殺しましょう!』

「ふふふっ、魅力的な提案ですね」


 一瞬家臣達が疑うほど迫真の演技を続けるクロエ。と、その時、スカーレット隊長が何やら走り書きた紙切れを彼女に差し出した。そこには敵将の所在を確認したりと書いてある。クロエは微笑んだ。


『さて、もっと具体的な交渉を――』

「あ、すみません。今までの全部嘘なんですよ」

『……は?』

「だから、全部演技だったんですよ。そして今頃、あなたの後ろに私の部下が立っている筈ですよ」

『何を……っ!?』


 何かが崩れ落ちる音が通信機に入ると、ドーリットルの声は聞こえなくなった。そして次に聞こえたのは、聞き馴染みのある無機質な声である。


『クロエ様、聞こえていますでしょうか?』

「ええ、マキナ。よくやってくれました。ドーリットルはどうしたんですか?」

『首を落としました。念の為、この後死体は灰になるまで焼いておきます』

「分かりました。気を付けて帰ってきてくださいね」

『はっ』


 通信終了。クロエはこれで状況が少しでも改善することを祈ることしか出来なかった。


 ○


 マキナはドーリットルの首を斬り落とした。そして死体をみじん切りにすると、全ての破片に火を付けて焼き払い、全く砂のような灰になるまで焼き尽くした。ドーリットルの周囲には数名のアメリカ兵がいたが、彼の気付かぬ間に全て殺している。もう彼女以外には誰も残っていない。


「全ての仕事を片付けた。帰ると――」


 その時であった。マキナの身体が彼女の意志とは関係なく浮き上がった。彼女は自分の首が強く絞められているのを感じたが、そこには何も見えなかった。透明化の魔法に違いない。


「まさか、私と同じ魔法を、使えるのか……?」

「ええ、その通りです。驚きましたか?」


 目の前から聞こえる不快な男の声。挨拶をするとすぐに姿を露にした。


「お前は、ルーズベルト? 貴様にこんな魔法が?」

「ええ、あなたに出来て私に出来ないことなどないのですよ。それにしても、首が折れるほど強く絞めている筈なのに、あなたは全く死にませんね」


 ルーズベルトは半ば不思議そうに、半ば楽しそうに言った。


「この私が首を絞められた程度で死ぬとは思うなよ?」


 マキナも挑発的に返す。実際、不死身の魔女である彼女にとって、こんな攻撃は物の数ではない。


「あなたはやはり不思議ですね。鉄で出来た肉体と無限の魔法。この世界において明らかな異物。魔法の理からも外れた存在だ。神が特別な恩寵を与えたのは、イズーナとシグルズだけの筈。あなたは一体何者なのですか?」

「さあ、そんなことは知らない。私はこの世界を認識した時からずっと、白の国に仕えてきただけの存在だ」

「嘘を吐いている訳ではなさそうですね。自らの出自も知らないとは、哀れなことです」

「貴様のような下賎の輩に何が分かる!」

「おやおや」


 マキナは右手に剣を作り出し、ルーズベルトの左の脇腹から右の肩口に掛けて、彼の体を真っ二つにした。

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