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断頭作戦

「見えない敵を探り出す方法、ですか……」

「本気でやるつもりなんですか、スカーレット?」

「試みる価値はあるのではありませんか? 失敗したとしても、我々に損失はありません」

「まあ探索まではしてみてもよいでしょうが、具体的な作戦はあるんですか?」

「気に食わないやり方ですが、敵と魔導通信を行うことが出来れば、マキナが場所を探し出してくれるのではありませんか?」


 マキナは魔導通信を自在に傍受する能力を持っている。スカーレット隊長は不本意ながら、彼女の魔法ならば何とかなるのではないかと提案した。


「通信を利用ですか。マキナ、そんなことは出来るんですか?」


 クロエが何もないところに呼びかけると、次の瞬間にはマキナが目の前に立っている。


「通信波の強さを見ることは出来ます。長時間に渡って通信を行うことが出来るのならば、魔力の強くなる方を辿って、敵の所在を見つけることが出来るかもしれません」

「本当に出来るんですか。だったら、敵と通信するかとが出来れば、或いは本当に将軍を見つけ出せるかもしれませんね。まあ、それも難題ですが」


 敵と通信を試みるなど人類の誰もやったことがない。本当に可能なのか、それすらも不明なのである。


「マキナ、何かいい方法はありますか?」

「人間同士では、お互いの通信機を同調させていない状態でも、全ての周波数で呼びかけることで会話することが可能です。それを試してみる他ないかと」

「確かに、まずはそれを試してみるべきでしょうね。マキナ、用意をしておいて下さい。ちゃんと準備してからやってみます」

「はっ」


 マキナの作戦に従うのなら、怪しまれないように長時間に渡って会話を維持し続けなければならない。クロエは諸将と共に話の原稿と問答集を作り上げて、彼らの見守る中、アメリカ軍への通信をかけさせた。


「さて……出てくれるといいんですがね」


 呼び掛けを開始してからおよそ30秒が経過。ほんの短い時間の筈だが、クロエには数分に感じられた。


「で、出ませんね……」


 スカーレット隊長は小声で言った。


「待ちましょう。敵もそんな、四六時中通信機の前にいる訳ではないでしょうから」


 更に30秒程が経過。マキナは顔色一つ変えずに魔導通信機を操作し続けている。初めてから3分程が経過したが、返答はない。


「うーん……やっぱりダメみたいで――」

「いえ、クロエ様、繋がりました」

「え、本当ですか?」

「はい。ここに」


 マキナは魔導通信機をクロエに差し出した。クロエは自身の心臓が激しく鼓動するのを感じた。通信が繋がっているらしいものの、通信機からは何の音も聞こえない。


「えー、応答頂きありがとうございます。私はヴェステラント合州国が白公、クロエ・エッダ・イズーナ・ファン・ブランです。そちらは?」

『そちらから呼びかけてくるとは実に珍しい。喜んでお答えしましょう。私はアメリカ軍が将軍、ジミー・ドーリットルです』


 アメリカ軍に会話をする気があると判断すると、クロエはすぐマキナに目配せする。マキナは頷くと姿を消し、敵の探知を開始した。


「ドーリットル……聞いたことがある名前ですね」

『ええ、そうでしょうとも。以前、あなたの同輩、青公オリヴィア殿下とお話させて頂きました』


 ドーリットルは以前オリヴィアに無条件降伏を呼びかけたことがあり、その時は一切の交渉を拒絶された。


「なるほど、その時の。オリヴィアから話は聞いていますよ」

『ならば、話が早くて助かりますな。で、わざわざそちらから交渉を持ちかけるとは、何を企んでいるのですかな?』


 ここで返事を間違えてはいけない。話を長引かせなければならない。クロエは緊張しながらも自然に言葉を紡ぐ。


「企んでいるだなんて、そんなことを言わないでくださいよ。あなたとちゃんと交渉がしたくて、このような場を設けさせてもらったのですよ」

『まあいいでしょう。一先ずは、そちらの話をお聞かせください』

「要求は簡単です。私達がアメリカ軍に降伏するのを受け入れて頂きたいのです」


 勿論、まるっきり嘘である。


『ほう? 降伏ですか。ついに心が折れてしまったのですかな?』

「まあ、有り体にいうとそういうことです。私達はこれ以上の戦いに耐えられません。どうか降伏を認めて頂けないでしょうか?」

『ええ、もちろん、構いませんよ。最初から申し上げているではありませんか。アメリカの奴隷となるのならば、あなた方は生きることが出来ると』

「いやー、申し訳ないのですが、そういう無条件降伏は、家臣達が認めてくれないのですよ。どうか条件付き降伏を受け入れて頂けませんか?」

『条件? そんなものはあり得ませんよ。一度合衆国に刃向かった者に、奴隷となる以外の選択肢はあるとでもお思いですか?』


 素面でそんなことを言い放つドーリットルに、流石のクロエも寒気がした。だが、彼女も気圧されてはいられない。


「おかしいですね。奴隷しかいない国などある筈がありません。アメリカにはアメリカ人がいるのでしょう?」

『……ええ、もちろんですとも。ルーズベルト大統領閣下や私は、善良なアメリカ市民です』

「では、私達をそちら側に加えて頂けないでしょうか?」

『ほう……』


 ドーリットルはクロエの提案に興味を持ってくれたらしい。作戦は今の所順調である。



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