シャルンホルストの戦いⅡ
「敵軍、尽く撃退されています! やはりガラティア軍は頼りになりますね……」
「このような分野においては、ガラティアや大八洲の方が専門であるということだな」
艦橋から対空戦闘などを指揮しつつ、甲板の戦いを観戦していたシュトライヒャー提督。敵が一歩とてシャルンホルストに踏み入ることを許さないガラティア軍の戦いに感服していた。
「この調子なら、シャルンホルストが奪われる危険はないだろうな。問題はやはり、未だ動かない不気味な艦だな」
二隻のイズーナ級がシャルンホルストと激戦を繰り広げる中、その外でまるで観戦でもしているかのように不動を貫くイズーナ級。援軍を送る訳でもシャルンホルストを攻撃する訳でもなく、ただそこに佇んでいた。
「――閣下、残りのイズーナ級が動き出しました!」
その時、何の前触れもなく動き始めた。
「やっと動くか。何をする気だ?」
「あ、あれは⋯⋯我々を無視して陸に向かうようです!」
「最悪の展開だな」
シャルンホルストはイズーナ級に挟まれて動けない。ここで残りの一隻に逃げられるのが、考え得るなかで最悪の展開であった。これを止められなければ第八戦区が再び強襲上陸を受けることになるだろう。
「ど、どうされますか!?」
「手段は一つだけだ。あのイズーナ級を沈めるぞ! 全主砲、あの艦に向けて撃ちまくれ!!」
目の前の敵艦は無視し、逃走を始めたイズーナ級に斉射を仕掛けるシャルンホルスト。まだすぐ近くにいる敵に狙いを外すこともなく、最初の斉射から5発の命中弾を出し、イズーナ級の上甲板を粉砕する。が、例のごとく破壊した箇所はみるみるうちに修復されていく。
「敵艦、修復が始まっています! もう無傷に戻りそうです!」
「早いな……。撃ちまくるんだ! 全主砲、装填を終え次第撃ちまくれ! 数で押し切るぞ!」
「はっ!」
斉射は放棄し、断続的な攻撃を浴びせることを決定したシュトライヒャー提督。各主砲は装填を終えると直ちに砲撃を行い、間断なく攻撃を浴びせた。
「修復は間に合っていないようです。しかし、この調子ではいつになってら撃沈出来るのか……」
僅かに破壊のペースが上回った。しかし、そんな少しづつの破壊では、あの巨艦を沈めることなど出来ない。
「それでいい。敵の処理能力は既に飽和した。ここで更なる攻撃を加えれば、奴は沈む」
「主砲の火力はこれで限界ですが……」
「実は助っ人を呼んであるんだ。もうじき到着する筈だぞ」
「もしかして、それはあれですか……?」
士官の一人が南方の空を指さす。その先にあるのは数個の黒い点。みるみるうちに近づいてきて、その鳥のような形状が明らかになってくる。
「あ、ああ、そうだとも。我が軍が誇る爆撃機だ!」
「陸軍ですけどね」
「そ、そんな細かいことは気にするな。ともかく、砲撃は続けるんだ。敵に休む暇を与えるな!」
クバナカン島を飛び立った6機の爆撃機はシュトライヒャー提督の命令を待って出撃し、ものの十数分でここに到着した。爆撃機は急速に敵艦に近づき、一気に高度を下げると、既に砲撃によって傷だらけになったイズーナ級に百を超える榴弾と焼夷弾を投下した。搭載した爆弾全てを一挙に投下したのである。
敵艦は瞬く間に炎に包まれ、船体の上半分が吹き飛んだ。最早船としての形を保てていない、ただ浮いているだけの木の塊であったが、炎が回るとやがてその残骸も前後に真っ二つになった。修復能力が飽和した時点でその船はただデカいだけの木造船に過ぎないのである。
「イズーナ級、撃沈! やりました!」
「よっしゃあ!! …………これで、我々の勝利は確定的だな」
「まだ勝ったと言うのは早いと思いますが……」
「まあ、そうだな。これで主砲が空いたんだ。敵艦に主砲弾を叩き込んでやれ!」
「はっ!」
未だ残る敵兵は十万を超えているが、勝利は時間の問題であろう。温存しておいた主砲もここで投入し、敵艦内のアメリカ兵を爆殺していく。敵の数が余りにも多く、戦闘は最終的に半日を超えたが、敵兵がシャルンホルストに足を踏み入れることはついに叶わなかった。
「魔導反応、消失! 完全に皆殺しにしました!」
「見たか、アメリカ人共め! これが人類の力だ!」
「もういませんが……」
「ま、まあ、よかろう。すぐに港に戻り、修理と補給を行うぞ。またガラティア兵への救護には全力を尽くすように」
いくらガラティア軍でも負傷者は数多く、ゲルマニア軍の応急手当を施された。またシャルンホルストも決して無傷という訳ではなく、魔導対艦砲に傷付けられた船体を多少修繕する必要がある。
「閣下、敵のイズーナ級はいかがしましょうか?」
もぬけの殻となったボロボロのイズーナ級が二隻、海に浮かんでいる。
「ん? ああ、放っておけ。魔法で造られた船だ。アメリカの魔女がいなくなっては、すぐに消滅するだろう」
「はっ」
シュトライヒャー提督の読み通り、イズーナ級は翌日には跡形もなく消滅していた。魔法で形状を維持し続けなければ崩壊する定めだったのであろう。